子ども10万円給付、半額クーポンから現金一括OKに方針転換… 戸惑う自治体「年内は間に合わない」 横浜市は2回に分割

村上一樹 (2021年12月14日付 東京新聞朝刊)
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衆院予算委で立憲民主党の小川政調会長(左)の質問に答える岸田首相=13日、国会で

 岸田文雄首相は13日の衆院予算委員会で、18歳以下の子どもへの10万円相当給付について「年内からでも現金10万円を一括で給付することを選択肢の一つに加えたい」と表明した。従来は年内にも現金5万円を、来春を目指しクーポン5万円分をそれぞれ配る計画だったが、クーポンを巡り地方自治体から事務負担の重さや住民ニーズとのずれを指摘する声が相次いだため、方針転換した。

岸田首相「審査することはない」

 首相は撤回理由を「柔軟な制度設計に努めると言ってきた。自治体や与野党から寄せられた意見を受け止めた結果だ」と説明した。

 クーポンと現金のいずれを給付するかは事実上、自治体の判断に委ねる。これまではクーポンが原則とし現金への切り替えには「特別な事由」が必要として、自治体に理由書提出を求める方向だった。だが首相は答弁で、自治体が現金一括給付を選択した場合は「特定の条件を付けて審査することはない」と説明した。

 山際大志郎経済再生担当相は2021年度補正予算案成立に先立ち、自治体が自主財源も使って現金10万円を支給した場合でも「給付対象者や金額が適切である限り、事後に地方自治体に補助金を交付する」と答弁した。

 一方、松野博一官房長官は記者会見で「来春に向けての給付はクーポンによることが基本」と述べ、直接的に子育て支出に回るとしているクーポンを推奨する考えを示した。

半額クーポンなら経費967億増

 野党は予算委の質疑で、自治体が現金5万円の先行給付に向けた作業を進めていることを踏まえ、「撤回が遅れたことで自治体に混乱をもたらし、給付の遅れにつながりかねない」(立憲民主党の小川淳也政調会長)などと批判した。

 10万円相当給付は先の衆院選で公明党が公約に掲げた。自民党との協議で半額をクーポンとし所得制限を設ける方針を決定。だが、全額現金に比べ事務経費が967億円増えると判明し、見直しを求める声が高まっていた。

 所得制限については、首相は「児童施策全体の中で考えていくべき課題だ」と述べるにとどめた。

不評だったクーポン、遅かった政府の判断 先行給付を準備していた自治体は…

 18歳以下への10万円相当給付のうち、5万円分のクーポン支給にこだわってきた岸田文雄首相は13日、条件なしの全額現金給付の容認へと方針転換した。巨額の追加経費発生や自治体の事務負担増といった批判に耐えきれず、白旗を揚げた。与党幹部による「トップダウン」の決定は国民の理解を得られず、既に現金5万円分を先行給付する準備に入っている自治体からは政府の「遅かった判断」(野党幹部)に対する戸惑いの声も上がっている。(山口哲人、川田篤志、上野実輝彦)

切り替えの基準示さず、混乱に拍車

 「給付金については自治体から本当に多くの意見をいただいた。与野党からもさまざまな指摘があった」

 持ち味が「聞く力」だと自任する首相は13日の衆院予算委員会で、転換の理由をこう釈明した。

 クーポンで支給するには967億円の事務経費がかかる上、新型コロナウイルスワクチンの追加接種などで多忙な自治体にさらなる負担を強いることなどが問題化。政府は「実情に応じて現金での対応も可能にする」として沈静化を図ったが、切り替えを認める基準を示さず、かえって混乱に拍車を掛けた。

 反発の高まりを受け、身内である自民党の高市早苗政調会長ですらこの日、予算委で「もうややこしいことをせず、一括10万円の現金給付ができるよう対応を」と注文した。

もともと公明党の公約 自民との溝

 子どもへの10万円相当の給付は、もともと先の衆院選で公明党が掲げた公約だった。自民党は、対象を生活困窮者らに絞った給付を主張し、両党の支援策には当初から溝があった。

 与党内の対立が長引けば、岸田政権発足直後からイメージ悪化を招きかねないという事情から、両党は幹事長間で協議。わずか2日間で案をまとめ、先月10日に首相と山口那津男公明党代表が合意するスピード決着を演出した。

 ばらまき批判を回避したい自民と、公約違反という批判を避けたい公明の折衷案に落ち着いた結果、給付は生活支援なのか消費喚起なのかの政策目的が曖昧になり、追い詰められて撤回を余儀なくされた。自民党中堅議員は「クーポンにした理由、地域経済を潤すという趣旨も伝わらなかった」と嘆く。

現場は混乱「期待しても一括は無理」

 高市氏は「自治体の準備を考えればタイムリミット」と首相に転換を急ぐよう促したが、年の瀬が迫り、自治体からは「既に遅すぎる」との声が相次ぐ。

 現金5万円の先行給付を年内に予定する東京都内の自治体の担当課長は、本紙の取材に「対象者の少ない町村は可能かもしれないが、大半の自治体は年内の10万円給付は間に合わない」と指摘。同じく今月下旬に5万円の振り込みを計画する都内の別の自治体担当者も「現時点では予算がなく、期待している人もいるだろうが一括給付は無理」と困惑気味だ。

 内閣官房によると、1回の現金給付事務にかかる経費は280億円。2回に分ければ経費は積み上がる。立憲民主党の泉健太代表は13日の党会合で「現場のことを分かっていない首相だと分かってきた。国民だけでなく、役所から正しい情報を『聞く力』も問われている」と批判した。

足立区は「年内に現金一括」 12月27日の給付を目指す

 足立区は13日、18歳以下への10万円相当の給付について、年内に一括で現金給付する準備に入ったと発表した。

 これまで給付は、現金5万円とクーポン券5万円分を配布するとされていたが、岸田文雄首相が同日午前の衆院予算委員会で、自治体の判断で一括現金給付の容認へと方針転換したことを受けて、区は現金での一括給付を決めた。

 区はすでに、当初予定されていた5万円を今月27日に給付できるよう補正予算を組むなど準備を進めていた。今後、開会中の区議会定例会に追加の5万円の給付にかかる補正予算案を提案する予定。

 区の給付対象者約10万人のうち、児童手当の対象児童とその兄姉で18歳以下の計約8万5000人に対し、27日の給付を目指す。残る約1万5000人には年明けに各世帯へ案内を送り、申請してもらう。(西川正志)

横浜市、川崎市、相模原3市が「全額現金」表明 横浜は年内にまず5万円

 横浜、川崎、相模原の3政令市は13日、10万円を全額現金で給付する方針を相次いで発表した。

 横浜市によると、児童手当支給対象の22万世帯には、現金5万円を年内に給付すると通知済み。クーポン分の5万円は21日の市議会で議決後、年明けに現金で給付する。児童手当支給対象外の7万世帯は、来年1月以降に給付の申請を受け付ける。山中竹春市長は「2回目の給付(5万円相当のクーポン給付)は1日も早くお手元に届くよう、現金で支給する」とのコメントを発表した。

 川崎市の福田紀彦市長は「迅速に子育て世帯に届くよう、現金で支給する」、相模原市の本村賢太郎市長は「事務経費の削減なども鑑み、全額現金で支給する」とのコメントを出した。(丸山耀平、安藤恭子、村松権主麿)

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2021年12月13日

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