憲法と法律の違いって? 「誰が何のために守るルールか」が異なります〈子どもと学ぶ日本国憲法①〉伊藤真弁護士に聞く

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日本国憲法について説明する弁護士の伊藤真さん(右)。左は聞き手の今川綾音・東京すくすく編集長=東京都渋谷区で、木戸佑撮影

 小学校でも習う「日本国憲法」。でも、実は子どもも大人も憲法のことをよく知らないのでは―。5月3日の憲法記念日、そして5月5日のこどもの日を前に、憲法に詳しい弁護士・伊藤真さん(65)に、小学校高学年くらいの子どもにも分かるように「日本国憲法」についての解説をお願いしました。「憲法と法律の違いって?」「憲法で一番大切な条文は?」「平和をうたう9条だけれど、世界の現実とのズレをどう受け止めればいいの?」。掘り下げて聞いてみると、私たちの生き方とも深く関係していることが見えてきました。3回にわたって紹介します。

〈子どもと学ぶ日本国憲法〉
①憲法と法律の違いって? 「誰が何のために守るルールか」が異なります(このページ)
憲法で一番大切な条文は? 「子どもの生き方」とも深く関係します
平和をうたう9条 世界の現実とのズレをどう受け止めればいいの?

憲法は「法律の親分」でしょうか?

―そもそも「日本国憲法」って、どういう位置づけのものなのでしょうか? 法律と同じようなものだと考えている人も多いように思うのですが、憲法と法律は何が違うのでしょうか。

「憲法は法律の親分。一番大切な法律だ」。そう思っている人が多いかもしれません。憲法も法律も、ともに守らなければいけないルールだという点では共通しています。ざっくり「法」と言ってもよいでしょう。

ただ、「誰が」「何のために」守らなければいけないルールであるかという、根本のところが違います。専門用語では「法の名宛人(なあてにん)」という言い方をしますが、誰に向かって守れと言っているのかが異なります。

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法律は、安全に安心して暮らせる社会にするために国がつくり、制限を受けるのは国民です。つまり、私たちの社会の秩序を維持するために、私たち国民が守らなくてはいけないルールです。

それに対して憲法は、国が、国民の権利や自由、平和を壊してしまうようなことを勝手にしないようにするために、国の側で仕事をする人たちに守らせ、国を縛(しば)っていくための法です。国会議員や官僚、裁判官、地方自治体の首長や職員、つまり「公務員」という形で公の仕事をしている人たちを縛るルールなんです。

―権力を持っている人たちが守らなければならないルールが憲法なんですね。

そうです。権力というのは、有無を言わさぬ強い力。それを好き勝手に使って、国民の自由を奪ったり、戦争を始めたりしないように、国民が政治家たちに守らせるための法。いわば国民が政治家たちに「守れ」と命じる、その命令書が憲法であるといえます。このように憲法で政治を縛る考え方を「立憲主義(りっけんしゅぎ)」といいます。

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憲法の目的は、私たち国民の自由や権利、人権を守ることです。それに加え、日本の憲法の大きな特徴として、「平和を守る」、つまり「二度と政府に戦争をさせない」という目的もあります。これを実現するために、私たち国民が政府・国に守らせるのが憲法です。

憲法は「国民が国に守らせる」もの

―憲法と法律の違いを、憲法を学ぶ入り口のところで子どもたちは教わっていないのでは。

そうかもしれません。「憲法は日本の国の一番大切な法律なんです」「最高の法律ですよ」「この国の基本となる法律です」、だから皆さん守りましょう、と教わる。要するに子どもたちは、「私たち国民が、子どもも含めて守らなければいけない最も大切な法律が憲法ですからね」と教わってしまうかもしれませんが、それは間違い、不正確なんです。

これでは、憲法とは何なのかという本質が分かっていないことになります。この状態では、憲法を改正した方がいいとか、憲法改正に賛成だとか反対だとかいう議論がそもそも成り立たちません。「憲法は国の側で働く人を縛る法である」という前提をまず分かっていなければ、「憲法を変えた方がいいよね」「いや、変えない方がいいよね」という議論そのものが、うまくかみ合わなくなってしまいます。政治家の中にも、この憲法の本質を十分理解していない人たちが少なからずいるのは、日本の残念な特徴かもしれません。

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―「政治家も本質を分かっていないかもしれない」と感じるのは、例えばどういう議論についてでしょうか。

やはり憲法改正の議論がなされた時ですね。このような憲法で国を縛る「立憲主義」という考え方は、日本も含め、世界の近代国家にとって本当に基本的かつ重要なものです。けれども、政治家の中には、「立憲主義で国を縛るという憲法の考え方は、昔の王様がいた時代の考えです。今の時代の憲法はそういうものではないですよ」と説明する方がいました。「憲法とは何なのか」という本質を理解していない主張を聞くと、「あ、まだまだだな」と思います。

ただそれは、日本の教育の現場では、先生たちもその憲法の本質を教わってきていないからかもしれません。日本は憲法の本質を教えるということを教育課程の中でやってこなかった。そのツケがいろんな場面に回ってきてしまっていると感じます。

―そういう意味でも、今回こうして子どもたちや子育て中の方に向けて発信できることは意味のあることだと思います。

5月2日公開予定の〈子どもと学ぶ日本国憲法②〉では、伊藤さんが「日本国憲法の中で一番大切だ」と考える条文について聞き、憲法に「子どもの生き方」を重ねて考えます。

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ギリシャ神話に登場する法と秩序を司る女神「テミス」の像の横に立つ伊藤真さん

伊藤真(いとう・まこと)

1958年生まれ。弁護士。法律資格の受験指導校「伊藤塾」塾長。法学館憲法研究所所長。講演・執筆活動を通して日本国憲法の理念を伝える。憲法についての主な著書に「憲法の力」「けんぽうのえほん あなたこそたからもの」など。

〈子どもと学ぶ日本国憲法〉
①憲法と法律の違いって? 「誰が何のために守るルールか」が異なります(このページ)
憲法で一番大切な条文は? 「子どもの生き方」とも深く関係します
平和をうたう9条 世界の現実とのズレをどう受け止めればいいの?

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  • 怒れる市民 says:

    「日本国憲法」を読んだ事が無いという人に読んでもらいたい記事ですね。
    ブックマークさせていただきました。

    怒れる市民 女性 50代
  • 一市民 says:

    分かり易かったです。そして、憲法教育というか、憲法についてもっと知ることを、小学校高学年、中学校、高校生でやるべきだと思いました。金融教育よりも。

    憲法の構造、権力の暴走や人権侵害を防ぐ、そのため権力者に守らせる法だという性質・目的と、統治機構についてのシステムを教える、説明をする、また自由主義国家・民主主義国家で憲法が必要とされた歴史を学ぶ…ということは、(国内法としての)憲法の役割、機能を知る機会を主権者たる国民与えることであって、何も左翼思想を植える付けるものではないと思います。

    そのような「現憲法を敵」とみなしてとにかく否定する(たぶん9条の存在でしょう。でも9条も国際法との関係で解釈されているし、現に世界4位とか5位とか言われる軍事力持つ自衛隊が憲法の下で存在しているじゃないですか。)ことの方が、偏った思想ですし、たぶん憲法を理解していない、理解する気も無いのでしょう。

    そのような偏向者を減らすためにも、憲法の役割(目的)、機能の内容に触れる機会を、頭の柔らかいうちに与えられるべきだと思います。

    一市民 男性 40代

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