食べて治すアレルギー治療 パンやお菓子などの加工品を使い治療の幅を広げる
本格的に加工品の活用に挑戦
8月上旬、藤田医科大のばんたね病院(名古屋市)。医師ら大人に見守られ、小学3年田中若菜さん(9)=同県愛西市=は、チョコレートが入った市販のクッキーを食べた。牛乳アレルギーがあり、7月に牛乳8ミリリットルを試した際は「味が嫌」とつぶやいたが、今回は「おいしい」。症状も出ず、ほっとした様子だった。
アレルギー患者が疑わしい食品を実際に食べる「経口負荷試験」。病院で少しずつ食べて症状が出ない量を把握し、その後の治療に生かす。通常はゆで卵などの原因物質そのものを使うが、同大は2020年ごろから本格的に加工品の活用に挑戦。専門医が過去の症状などから「安全に食べられるだろう」と判断した加工品を病院で試食するもので、年間2500件の試験のうち200件ほどある。
微量で反応する患者にも対応
なぜ加工品なのか。背景には、患者が長年悩んできた壁がある。負荷試験を行おうとしても、つらい症状を経験するなどした子どもの中には、ゆで卵や牛乳を「絶対に食べない」と拒むケースも。家庭用のはかりで量れないわずかな量で反応してしまうと、保護者が自宅で食べさせることも難しい。そのため、医療機関から一切食べないよう指導されることもあり、治療が進まない一因になっていた。
使うのは、菓子やパン、冷凍食品など約120種類。牛乳だとわずか0.001ミリリットル相当のアレルゲンを含む商品もあり、微量で反応する患者にも対応できる。
家族と同じ物が食べられて
同大の森雄司講師(43)は鶏卵アレルギーがある小学生が鶏卵の入った冷凍ギョーザを食べられるようになり、家族と一緒に泣いて喜んだ姿が忘れられないという。「ゆで卵を食べられなくても、卵や牛乳、小麦を使った食べ物はおいしいと知ってほしい。安全に食べられるものを増やし、子どもたちの世界を広げたい」
藤田医科大の挑戦広がる
中部地方を代表するアレルギー治療の拠点病院の挑戦は、大阪や京都など西日本で広がりつつある。
加工品のアレルゲン含有量は、藤田医科大が国の補助を受けて2011年から独自に調査。結果をまとめた冊子を毎年、全国の医療機関約350カ所に配っている。その結果、加工品を負荷試験に取り入れる施設は少しずつ増えているという。
商品に個体差 リニューアルも悩みの種
一方、加工品を使うことにはリスクもある。同じ商品でも工場ごとに作り方が異なったり、大きさに個体差があったりして、最大で10倍程度、含まれるアレルゲンの量に差が出ることも。
原材料費の高騰などにより、相次ぐ商品のリニューアルも悩みの種。原材料や大きさが変われば、アレルゲンの含有量に影響する。同大の医師らが定期的にスーパーなどを回り、リニューアルが確認されたものを、あらためて測定。ただ、高額な費用がかかり、冊子に載る全品目を毎年測定するのは難しいという。
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