「おやさいの中で何がすき?」こんな美しい会話のはじまりがあっただろうか…〈加瀬健太郎 お父ちゃんやってます!〉

(2025年9月3日付 東京新聞朝刊)

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加瀬健太郎 お父ちゃんやってます!

 あー、暑い。まだまだ終わる気配を見せない長い夏。暑すぎて外に出られない午後を避け、朝のうちに三男、四男と市民プールに通った。昼前に帰宅すると、バスケ部を引退した長男が、日がな一日、リビングでゲームをしたり、携帯をいじっている。

 ソファを占領する大型動物といったところか。吹奏楽部の練習から帰り、同じく動物のように床に転がっていた次男が、突然興奮した様子で立ち上がった。「パパ、今さ、鼻くそほじっててさ、指に鼻くそついてるの忘れてさ、またほじったらさ、鼻くそ鼻に戻しちゃった」と一息でしゃべった。きっとこの暑さにやられたんだろう。「みんなお昼やで~」と声をかけると、のそのそと動き出す動物たち。

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 「焼きそばがよかった」なんて文句を言われながら、うちの昼ごはんは始まる。われ先に無言でそうめんをかき込む長男と次男。「僕の分置いといてよ」と泣きそうな三男。食卓の戦いまでヒートアップしてきたそんな折。「ねえ、おやさいの中で何がすき?」と四男。僕は感動した。こんな美しい会話のはじまりがあっただろうか? 子どもが言いそうな「ドラえもんの道具の中で何が欲しい?」とか「ジブリの映画の中で何が好き?」ではない。お題は「おやさい」。

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 連日のハードワークで生ぬるくなったクーラーの冷気も、この時だけは高原の風のように感じられた。「ズッキーニ」「トマト」「レンコン」と答える兄たちに続いて、四男は「たまねぎ」と答えた。シンプルでいい答えだ。「なんでたまねぎなの?」と聞く兄たちに、少し照れた様子で「だって、おいしいから」。いい答えだ。

加瀬健太郎(かせ・けんたろう)

写真 加瀬健太郎さん

 写真家。1974年、大阪生まれ。東京の写真スタジオで勤務の後、ロンドンの専門学校で写真を学ぶ。現在は東京を拠点にフリーランスで活動。最新刊は「お父さん、まだだいじょうぶ?日記」(リトルモア)。このほか著書に「スンギ少年のダイエット日記」「お父さん、だいじょうぶ?日記」(同)「ぐうたらとけちとぷー」(偕成社)など。15歳、12歳、8歳、4歳の4兄弟の父。これまでの仕事や作品は公式サイトで紹介している。

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