〈坂本美雨さんの子育て日記〉86・サバ美が亡くなって5カ月 娘を心配させないように、少しずつ
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娘には弱いところも隠さずに見せてきたけれど…
自分より母の悲しみを恐れる娘
年が明けて数分後、隣にいた友人が「え? 今なんて言った?」と驚いてこちらを見た。「今、『ねこちゃん…』って言ったよね?」と言う。全く自覚がない。どうやら無意識につぶやいていたらしい。
最愛の猫、サバ美が亡くなって5カ月。ことあるごとに、猫ほしい…と心の声が漏れてしまう。その度に、娘に「また同じことになるよ」とピシャリと言われてきた。娘は、私がまた愛する猫を失って悲しみに暮れることを恐れている。自分が一緒に育った猫を失った悲しみよりも、母親の深い悲しみのほうを恐れているのだと思う。
私は、彼女の前で泣き、泣いたままふて寝をしたり、骨つぼを開けようとして止められたりして、感情をあけっぴろげにしてきた。甘えもあるけれど、親が弱いところを隠さないことで子どもが人間らしい生々しい感情を知り、また、誰にでも弱さがあることが自然であり、自分も見せていいんだと思っていてほしい。そんな思いから。
保護中の猫をかわいいと思うほど
だけれど、数カ月たち、少しだけ隠すように意識するようになった。それは、時間がたつにつれて娘が母親の寂しさを自分では埋めてあげられないんだ、という無力感のようなものを感じているかもしれないと思ったから。
子どもは優しいから、親の痛みをなんとかしてあげたいと思ってくれる。いつまでも埋まらない場所は確かにあるけれど、それは彼女がなんとかしなくちゃいけないと思ってほしくはない。
今、私の家にはシアという猫が住んでいる。近所の野良猫たちの地域猫化に取り組む中で、うちに通ってきた野良猫が人慣れしそうな子だったので、いいご縁があればと保護し、里親募集中だ。すっかり健康状態もよくなってふっくらし、私にだけは懐いておなかも見せてくれるほどになった。
離れられないでしょ?と周りには言われるけれど、シアをかわいいと思うほど、サバ美との愛が特別だったことを突きつけられる。まるで恋愛の話のようだけれど。
サバ美のような猫とは人生でそう何回も出会えるものじゃないとわかっている。1回出会えただけでも私は本当に幸せ者だ。ソウルキャット、という言い方がある。魂の猫。自分と一体となって、失うと身体の一部をもぎ取られたような痛みと空洞を感じるけれど、時間と共に形のない姿でまた私の魂の一部になる。私を強くしてくれる。もうあまり、娘を心配させないように。少しずつ、少しずつ。
坂本美雨(さかもと・みう)
ミュージシャン。2015年生まれの長女を育てる。SNSでも娘との暮らしをつづる。
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