10回目の「妻の命日」 僕と息子の変化〈清水健さんの子育て日記〉68

(2025年2月12日付 東京新聞朝刊)
写真

写真の前に飾るお花はいつも息子が選ぶ

清水健さんの子育て日記

体重計に残っていた妻のデータ 

 しばらく使っていなかった体重計を再度、セッティング。電池を入れ替え、スイッチを入れると、無事に電源が入った。大丈夫、まだ使えそうだ。体脂肪率などを計測するため、登録番号1番にデータを入力しようとしていたら、使用していた当時の年齢、身長、平均体重が表示された。

 37歳。11年前、大阪マラソンを走るため、自己管理のために買った体重計であることを思い出す。一緒に作業していた息子と「体重、変わってないね」なんて話していたら、登録番号2番に妻のデータが表示された。妻は「なんで見せるの!」なんて言っているかもしれないが、息子は「お母さんも使っていたんだ」とうれしそうに話している。

 僕は夜に目が覚めると冷蔵庫を開け、甘いものを探して食べてしまうことがあった。なかなか体重が落ちない僕をみて、カロリーゼロのデザートを作り、冷蔵庫にしのばせてくれていた妻。見た目はおいしそうなデザート。食べた後に「これは違う!」と何度、思ったか(笑)。「おいしかったの?」と聞いてきた息子に「いや、ほとんど味がなくて」。食事も工夫し、サポートしてくれていた。

 当日も沿道から、愛犬を抱っこして心配そうに応援してくれた光景をはっきりと思い出す。

今の方が克明に思い出せるあの頃

 あれから10年。2025年2月、10回目の妻の命日。慌ただしい毎日に、写真の前でゆっくり手をあわせる回数は減っている。でも、記憶は全く薄れていない。それどころか、2年前や3年前より、克明に思い出すことができるようになっている自分に気付く。思い出すことに抵抗感がなくなっているのかもしれない。

 今、仕事がない土日は、息子の少年野球で、コーチとしてグラウンドに立っている。体を休める日はほとんどない。でも、甘えてくることも少しずつ減ってきて、今でさえさみしく感じる時もある。あと何回こうやって一緒に? そう考えると毎週、筋肉痛になることなんてたいしたことではない。

 「なんで死んだの?」「死んだ時、泣いた?」、そう聞いてくる息子の友だちもいる。小学生の素直な質問。今までだと、それを近くで聞いている息子が気になったと思うが、今は、これからもっとこんなこともあるよね、と。

 僕たちは強くなれているのか。強くはなっていない。でも、自然の会話の中で、笑いながら息子と母親の話もできている。親子ふたり、この成長の続き、これからどんなことが待っているんだろう。

清水健(しみず・けん)

 フリーアナウンサー。10歳の長男誕生後に妻を乳がんで亡くし、シングルファーザーに。

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  • 南初子 says:

    清水さん、お疲れ様です。読んでいると涙が出てきました😂奈緒さんが亡くなられて10年!早いですね!

    息子さんも小学4年なのですね(´-ε-`)大好きなパパを支えていたのは息子さんかもしれないですね。パパの背中を見て頑張っているのかな❓

    奈緒さんもパパとても頑張っているよと思っていると思いますよ。息子さんの成長につれてまだまだ大変だと思いますが挫けずに前向きに頑張って欲しいと思います😊応援しています😊

    南初子 女性 70代以上

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