<ホンネで学ぶ性のこと 瀧波ユカリが聞く性教育講座>遅れている日本…父親の出番です

【第2回】 何をどうやって子どもに説明すればいいのか悩んでしまう「性教育」。学校での性教育は十分とは言えず、親や友達と本音で語り合える場もあまりありません。SNSなどネット上には玉石混交の情報があふれ、子どもたちは大人が伝えるより先にいろんな情報を仕入れています。性について正しい知識を得て、自分ごととして考えてもらうには、どうすればいいのか。「東京すくすく」で「しあわせ最前線」を連載中の漫画家、瀧波ユカリさんと、晴海ウィメンズクリニック(東京都中央区)の三島みさ子医師が、性教育について「本音」で語り合いました。今回は3回連載の第2回です。
【第1回】いつから必要?何をどう話す?
【第2回】遅れている日本…父親の出番です
【第3回】望まない妊娠は自業自得?「男消し構文」に潜むもの
気まずい?「父親どこいった」案件
瀧波 「家庭で性教育の話をしているか」という質問は「ある」の方が多かったのですが、「ない」という回答もあって、どうやら男の子のようです。
他に「子どもは少し気まずい可能性もあるので、親はもう少し慎重に話してほしい」という意見もありました。こちらも男の子が書いたのかなと思うのですが、異性であるお母さんに対して気まずさを感じているのでしょう。「父親どこいった」案件ですね。

三島 性教育って、私たち産婦人科医も女の子を対象に一生懸命やってきましたが、実は男の子の性教育が置き去りになっています。
思春期で体の違いが出て、LGBTQなど自分の性に違和感をもつ子もいます。夢精が始まって射精できるようになったら、女の子が胸の大きさを気にするように、男の子も陰茎の大きさを気にします。「自分のは小さい」と悩んでも、お母さんにも言えないし、友達同士だとからかわれるだけ。お父さんにもあまり聞けていない傾向があります。
ちゃんとした性交渉ができない若いカップルも結構いて、きちんとした膣(ちつ)内射精ができないケースもあります。すごく強い刺激や、ちょっとこだわった刺激があると膣外ではできるけど、奥さんが相手だとできないという人もいます。
「10代のころ、どんなマスターベーションをしていましたか?」とは聞けませんが、それが理由で「不妊です」とお越しになるカップルもいます。男の子が健全に育つには、母親だけの教育ではやはり限界があり、お父さんにも出てきてほしいところです。
役立つサイトを父親が案内すれば
瀧波 先日コラム(〈瀧波ユカリ しあわせ最前線〉「エロ広告」ここからは男性の声が必要)にも書きましたが、ネットフリックスで配信されているイギリスの「アドレセンス」を見ると、日本の父親よりずっと子どもとのコミュニケーションをとっているのだけど、足りていなかった、または間違っていたと示唆するストーリーになっていて、日本は足元にも及ばないのにと、途方に暮れました。
三島 コンドームは、サイズが合っていないと破れたりずれたりします。泌尿器科医の有名な性教育の先生が「コンドームの達人」と題してYouTubeで紹介しています。大人のおもちゃのメーカー「TENGA」のサイトでは、マスターベーションの適切な方法なども書いてあります。
お父さんから、こういうサイトがあるよ、と言ってみるのはどうでしょうか。動画サイトは玉石混交ですが、医師によるものなどは参考にしていいと思います。

子宮頸(けい)がん予防のためのHPVワクチンは女子だけでなく、東京23区のほぼすべてで男子にも接種費用の助成が始まっています。HPVの感染は、男性から将来の自分の妻に感染することもありうるし、男性もかかる中咽頭がんや肛門がんなどの病気の原因となります。世界では男女どちらも接種するのが流れです。
あなたが加害者にならないために
瀧波 「なぜ性教育が必要なのか」という大人からのメッセージが足りていないと感じます。
三島 「あなたの体と心を大事にしてほしいから」という思いは伝えたいですね。性教育の先進地、北欧では、性教育が一度予算の関係で途切れた時期があり、その後性感染症が増えたことで、やっぱり性教育の予算はつけなくてはという揺り戻しがありました。
瀧波 さらに言うと、「あなたが被害者にならないために」「加害者にならないために」必要だと言いたいです。親自身がこうした必要性をちゃんと自覚していれば、お互い気恥ずかしくなるということはないと思います。
三島 アジアの新興国ではWHO(世界保健機関)の国際セクシュアリティ教育ガイダンスに沿って、性教育に力を入れている国が結構あります。

日本で働く外国人が増えていますが、日本では入手方法が限られている避妊具やピルも、ネパールやマレーシアなどの方はよく知っていて、診察では、もう子どもはいらないから自国の保健所で無料で避妊具を入れてもらったという人もいました。
日本はアジアの中でも知識量が少なく、30代近くになっても「結婚したけれど、子どもってどうやってつくるの」「思っていたのと違う」というギャップに苦しんでいる女性もいます。正常な発育をもう少しオープンに伝える場所やツールはないのかなとちょっと心配しています。
瀧波 すべてが圧倒的に足りないのが日本の現状ですね。
「日本は先進国だと思ったのに」
三島 日本人は今そういう立ち位置だと認識しておいた方がいいと思います。有効性が明らかなピルの利用やHPVワクチンの接種率も伸び悩み、なかなか受け入れられていないと感じます。
瀧波 よく外国人観光客が旅行中に避妊に失敗して、日本の薬局に行ったら「緊急避妊薬なんて置いていない」と言われた、という体験談を耳にします。
三島 そうです。一応、望まない妊娠を防ぐために性交後に服用する72時間緊急避妊薬はクリニックでもらえますが、「日本は先進国だと思っていたのに薬局には置いていないのか」と、びっくりして来院される方もいます。
8月下旬、厚生労働省の専門家会議が、医師の処方箋なしに薬局やドラッグストアで購入できるようにする方針を了承しましたので、今後、今よりはアクセスしやすくなります。
瀧波 でも、土日をはさむと時間もすぎてしまいますね。

三島 72時間って結構ギリギリなので、日本ではあきらめてしまう女の子もいます。世界的には、120時間有効な緊急避妊薬の方が推奨されています。フランスなど海外では、保健所だったら無料でもらえるような国もあります。
日本でも一応輸入が可能になり、とりそろえているクリニックもあります。探せばあるので、駆け込めるところはあると伝えたいです。
緊急避妊も月経の仕組みも知ろう
瀧波 そのことが日本の女性にあまり知られていないのも問題。
三島 基本的なことですが、もっと月経の仕組みについても知ってほしいです。危ないと思った性交渉から2週間たって予定の生理がこなかったら、妊娠している可能性があります。今は簡単に妊娠検査薬で調べられるのに、日本人は楽観的なのか、しない人も少なくありません。

高校生に伝えているのは、「たとえば4月1日にそういう性交渉があったら、お産は12月だから、21週6日に当たる8月中旬を過ぎると中絶はできなくなるよ。自分で思っているよりすぐだよ」という具体的な日数です。「だから、2、3週間たっても生理がきていなかったら妊娠検査薬を買いなさい。男の子にもそう言うんだよ」と。
やんわりとした性教育だと、生理が2カ月きてなくても、「生理はきてる?」と聞かないと気づけないのんびり屋さんになってしまいます。性感染症も「自分は大丈夫だと思っていた」という子が多いですね。今は簡単にキットで採尿して郵送し、2日間ぐらいで検査結果が返ってきます。
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第3回では、性的同意などについて語り合います。

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性教育をテーマに対談する瀧波ユカリさん(右)と三島みさ子医師
プロフィール
◇瀧波ユカリ 漫画家、エッセイスト。1980年、北海道生まれ。漫画の代表作に「わたしたちは無痛恋愛がしたい~鍵垢女子と星屑男子とフェミおじさん~」「モトカレマニア」「臨死!! 江古田ちゃん」など。母親の余命宣告からみとりまでを描いた「ありがとうって言えたなら」も話題に。東京すくすくの連載「しあわせ最前線」では、自身の子育て体験や家事分担など家族との日々で感じたことをイラストとエッセーでつづる。夫と中学生の娘と3人暮らし。
◇三島みさ子 晴海ウィメンズクリニック院長。筑波大医学専門学群卒業後、米国カリフォルニア大SanDiego校Cancer Center留学。東大病院、都立駒込病院、虎の門病院など勤務。前河北総合病院産婦人科部長。日本産科婦人科学会専門医・指導医。
関連リンク
・YouTube「コンドームの正しい着け方」(「コンドームの達人」泌尿器科医・岩室紳也さんによる解説)
・適切なマスターベーションの方法(「TENGA」公式サイト)
・これだけは知ってほしい「はじめてのHPVワクチン」(東京都のサイト)
・国際セクシュアリティ教育ガイダンス(UNESCO公式サイト)
・緊急避妊について(東京都福祉局のサイト)
・緊急避妊の診察ができる病院検索(東京都福祉局のサイト)
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