「産後クライシス」調査でわかった妻の本音 夫婦仲が悪化する原因は? 夫が理解すべきこと、社会全体でやるべきことは?

(2019年11月18日付 東京新聞朝刊)
〈ニュースがわかるAtoZ〉
 出産後、夫婦仲が急速に冷え込む「産後クライシス」。放っておくと離婚や2人目以降の出産をためらう要因にもなる。「家庭の問題」と捉えられがちだが、「男は仕事、女は家庭」という根強い固定観念や長時間労働を前提とした働き方も絡み、子の養育や少子化に影響を及ぼしかねない社会的な課題だ。11月22日は「いい夫婦の日」。最新の調査から夫婦関係を考える。


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「夫を愛していると実感」する妻 0歳児期に74%→45%と激減

 「産後クライシス」は、本来は新たな幸せの始まりであるはずの出産を機に、良好な夫婦の関係が急に悪化する状態を「危機(クライシス)」と捉えた言葉だ。2012年のNHKのテレビ番組に登場したのをきっかけに、ここ数年で広まった。

 根拠となった数字がある。ベネッセ教育総合研究所が配偶者への愛情の変化を追った2011年の調査。夫を「本当に愛していると実感」している妻は妊娠期に74.3%いたが、0歳児期には45.5%に激減。子の成長に応じてさらに減る傾向にある。

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愛情が赤ちゃんに向くから? いいえ、原因はむしろ男性にある

 産後に夫婦関係が冷え込むのは、出産を境に、愛情が夫から子どもに向くという妻の「心変わり」が原因とされてきた。ただ、男性の育児への意識改革セミナーを企業向けに開くファザーリング・ジャパン理事の塚越学さん(44)は、原因はむしろ男性にあると指摘する。「育児が始まった時点での男性の関わりの薄さと、妻が産後に陥る心身の深刻な状態への理解のなさこそが、妻の愛情を冷めさせる」

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カラダノート「産後クライシス調査」2019年/乳幼児を育てる妻1202人にネット調査

 実際、産後まもない女性は出産による身体のダメージを抱えたまま、睡眠不足の状態で赤ちゃんを世話している。ホルモンバランスの崩れもあり、心身ともに不安定な状態とされる。

 夫婦での育児を後押しする活動「patomato(パトマト)」代表の狩野さやかさん(46)は、産後の夫婦の状況を「出産による環境の変化が、隣り合って暮らす男女で全く異なる。女性の側の変化は想像をはるかに超えて激しく、高負荷だ」と説明する。

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「妻の生活は産前産後で激変してしまう。夫も自分にできるところから行動を変えてみてほしい」と話す狩野さやかさん

 しかし、「日本の男性は、こうした女性の事情を事前に知る機会が少ない。知識と心の準備がないまま父親になってしまうことが多い」と塚越さんは問題視する。そして妻側も「本当は限界なのに、『お母さんはみんなやっていること』との思い込みから、SOSを発することをためらう人が少なくない」(狩野さん)のだという。

調査で分かった妻の本音 「生活が変わらない夫」への強い不満

 産後クライシスの態様はさまざま。今年9月に、子育てアプリ開発会社・カラダノート(東京)が子育て中の全国の母親1202人に「産後クライシス調査」を実施した。なかなか表に出てこない妻側の本音を聞き出したユニークな調査で、心身ともに大きな負担を強いられている妻が、「生活が変わらない」夫に強い不満を抱いている傾向が浮かび上がった。

 調査に寄せられたリアルな妻の声の中から、代表的なものを6つのテーマに分けて紹介する。
   

夫への気持ちが冷え込むきっかけとなった出来事や発言は?

妻のコメント「産後のつらさに寄り添ってほしいのに」 何度訴えても産後の体のしんどさを分かってもらえない。「子どもを見ておくし、家事もできるところまでやるから、気の済むまで寝て」と言ってほしい。(東京・37歳/夫35歳) 「そんなにつらいなら実家に帰ったらいいよ」と言われた。「一緒に頑張ろう」と言ってほしかった。(愛知・28歳/夫35歳) 子どもが泣き止まないのに、夫は寝てしまう。少しでもあやしてくれたり、「疲れているから寝かせてほしい」の一言があれば。(神奈川・32歳/夫31歳)

妻のコメント「夫だけ生活が変わらない」 泣く子を放置する夫を注意したら、「俺のやりたいことはいつやるんだ」と言われた。私は24時間体制で赤ちゃんのお世話をしているのに対して、夫は仕事に行けば休憩もあり、一人でぼーっとしたり食事したりできるのに。自分と同じように子どもファーストにしてほしい。(愛知・32歳/夫35歳) 私は妊娠前と比べるといろいろできなくなって極端に生活が変わったけど、夫はさほど変わらない。飲み会など、変わらずの回数と帰宅時間。私は家出余り物をちょっとした時間に立ちながら食べてるのに。たまにはゆっくり食べて、ゆっくり寝たい。(奈良・36歳/夫24歳)

妻のコメント「指示待ちにうんざり」 育児や家事をもっと手伝うように言ったら「言ってくれればやるのに、言わないからやっていない」と言われた。(千葉・30歳/夫26歳) 指示をしないと動いてくれない。ぐずっていると、抱っこしてあやすこともしていないくせに「おなかすいてるんじゃない?」と言ってくる。(静岡・27歳/夫32歳)

妻のコメント「私が全部やるの?」 料理を作ろうとしたら、「赤ちゃんは誰が見ているの?」。誰の子だよと思った。(埼玉・28歳/夫35歳) 「俺は働いとる。お前は育休中なんやから子どもと家のこと全部できなあかんやろ」。(石川・27歳/夫28歳)

妻のコメント「一人の女性として接して」 スキンシップや子ども以外の会話が減った。前と変わりなく愛情を伝えてほしかった。(東京・31歳/夫31歳) 話をちゃんと聞いてくれない。昼間は赤ちゃんと二人きりの生活で、話したいことがたくさんある。赤ちゃんだけでなく、私にも目を向けてほしい。(長野・26歳/夫25歳)

妻のコメント「こんなんじゃ第2子以降を考えられない…」 夫の家事育児の協力が少ないので2人目は無理。もう一人子どもができたら私が倒れる。(神奈川・30歳/夫31歳)

「妻一人では背負いきれない」という危機感を、夫婦で共有する

 深刻な産後クライシスに陥りがちな時期を乗り切るには、どうすればいいのか。狩野さんは「まず育児初期の家庭にかかる負担は、質量ともに、妻一人では背負いきれないと、夫婦双方が危機感を持つこと」と指摘する。


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 この前提を確認した上で、次は現状に目を向ける。産前産後の変化を夫婦双方で書き出すと、互いの状況を客観視するのに役立つ。狩野さんは「自分のペースで食事や睡眠が取れているか、家族以外と会話することがあるかといった変化を挙げてみると、夫と比べ、妻が圧倒的な変化を強いられているのが分かる」と話す。

 こうして現状を把握したら、最後は家事・育児分担の見直しだ。妻はまず「一人では限界」と伝えよう。狩野さんは「夫はまず、妻が高負担で危険な状態と知って言葉をかけてほしい。そして少しでも家事を担えるよう工夫して」と方針転換を促す。

個人の意識改革には限界がある。企業や行政が制度を整えるべき

 育児休業などの制度を活用できればいいが、男性の育児休業の取得率は6.16%(2018年度)と伸び悩んでいる。千葉商科大専任講師の常見陽平さん(45)=労働社会学=は「子どもの誕生を機に働き方を緩められないのは、社内の人の目や男性自身の納得感も障壁になっている」と背景を分析。「個人の意識改革には限界がある。人生の一時期、働き方を緩めても不利にならず、職場も円滑に回るような評価や役割分担の仕組みや制度を、企業や行政の側が整えるべきだ」と話している。

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  • J says:

    結局、要するに夫にはイライラをぶつけて良い、妻は色々あるから理解して受け止めろって。我慢しろ。って事。

    夫も一人の人間であり、誰しもが我慢、耐えれる、受け止めれるような男ばかりではない。

    妊娠、出産、出産後、育児、女性は大変だから、イライラしても、夫にあたっても仕方ない。

    逆の立場になったらわかるよ。人からキレられるってどんなに辛いか。

    J
  • はむっこ says:

    育休中なんだから、お前がやって当たり前。なんで俺が面倒見やなあかんの?じゃあ、生活費も全部折半にしろよ。あとホルモンバランスとか、そういう理由つけてくるやつ、頭おかしいからな。そういうのやめろよ。と言われたこと。

    すぐお金の話になるので、育休中で収入減っているのに辛く感じる。育休中だけど、寄り添う気持ちはあって欲しいと思う。

    はむっこ 女性 30代
  • 産後の恨みの前に許しあえたらな says:

    一緒に育児をしているつもりが、「人間として頼れない」「育休取るなら仕事に行け」と言われた。

    人間誰しも弱さがあり、できること・できないこと、人それぞれあります。そしてできなくて申し訳ない気持ちから努力をする人もいると思います。私はその1人です。

    私は3ヶ月の育休をもらい、育児を一緒にする機会をもらっています。しかし深夜の授乳のタイミングに一緒に起きれません。子供の夜泣きにも気付くことができません。妻からは「育休とっているのに起きれないなら、仕事に行け」と言われます。私自身も仕事もしていないのになぜ夜中に起きれないんだと悩んでいます。また妻1人で辛い経験をさせてしまうことに申し訳ないと思っています。

    なので日中は授乳以外のできる家事育児をして挽回しているつもりです。

    しかしその努力も水の泡で、「人間として頼れない」そう言われる始末です。産後は心身のバランスが崩れることを産前から勉強していたのである程度のことは受け入れていました。幾ら努力しても妻の目から見て、できない夫なのです。そう思うのも無理ないかと理解していても、その前に悲しさがあります。

    望んで産んだ子供ができたことをきっかけに、夫婦関係が悪化することはとっても悲しい。この悪化が一生続くと言われると、いなくなりたくなる。

    男性も生き辛い世の中です。

    産後の恨みの前に許しあえたらな 男性 20代
  • 匿名 says:

    以前はお互いの行いに対して感謝の言葉を伝え合っていたが、産後は何をやっても感謝の言葉の前に粗探しをされて文句を言われる。
    正直これを手伝ったらどんな文句を言われるのだろうと思ってやる気が削がれてしまう。

    妻の方が大変なのは頭では分かっている。生活環境やホルモンバランスの変化で攻撃的になっているのも理解はしているつもり。
    それでも露骨に冷めた愛情が伝わる中でサンドバッグのように攻撃されるのか辛い。妻は自分が孤独だというが、お互い様だ。

    ネットで調べるとこの時期に冷めた愛情は今後も戻らないみたい。それなのに子どもを産んだ選択が本当に正しかったのか思い悩む毎日。
    この生活の果てがどうなるのか今から不安でしかない。あまり先行きは考えずに今は上手くいくように前を向くしかないのか。

    原因は妻への理解が浅い自分なのかと聞かれると答えはイエスなのかもしれない。
    ただ、自分が何もやらずに妻への負荷がかかりすぎているのかと聞かれるとそうではないと思う。

    仕事から帰宅後は子どもと遊び、食後は洗い物をしてお風呂にも入れてミルクを上げて寝かしつけもする。その後は哺乳瓶を洗ってゴミ捨てをする。
    翌朝は子どもが起きても横になったままの妻を横目にミルクを用意する。

    妻からしたら全然家事をしていないのかもしれないが家にいる時間を相対的に考えてほしい。頭が回らないのは仕事で頭を使っているのだからと理解してほしい。

     男性 30代
  • あら says:

    0才児の父です。

    働きながら普通に夜中もミルクをやって、3時間毎に起きて…当たり前なんだろうけど睡眠不足によって精神面を蝕んでいるのがわかります。

    育休とれと言われたらそれまでだけれど、一緒の時間が多すぎることの弊害もたくさん聞いてきました。だからうちは(夫である私が)育休を取らずにやっています。だから辛いんだけどね。

    子供に罪はないし、大人同士でつぶしあいをしている。すごく悲しいように思える。もちろん全家庭がそんなわけはないけれど。しあわせに家庭を築いている人もたくさんいる。

    さいきん毎日この投稿を見て、頑張ろうと思えています。必死なときは自分しか見えないからどうしても余裕がなくなって、相手を攻撃してしまう。

    余裕が欲しい。つらいです。。

    あら 男性 30代

出産後、夫(妻、パートナー)への気持ちが冷え込むきっかけとなった出来事や発言はありましたか? そのエピソードや「本当はこうしてほしかった」という内容を教えてください。逆に、うれしかった出来事や発言がある方も教えてください。

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