助産所に訪問看護ステーションを 低体重児や医療的ケア児と親を切れ目なく支援
低体重児の家族を週2訪問でサポート
「自分が産んだ子という実感が持てず、育てられるか自信がない」妊娠29週で体重700グラムの女児を昨年5月に出産した40代の母親は、助産師の安宅満美子さん(56)にこう漏らしたという。
安宅さんは、東京都台東区の「とりこえ助産院・訪問看護ステーション」の管理責任者。女児は肺の成長が遅れ、3カ月入院。鼻に酸素チューブを付けて退院した。コロナ禍のため、母親は入院中のわが子にパソコンの画面越しにしか会えなかった。退院後、安宅さんは週2回、自宅を訪問。女児の酸素飽和度が下がらない姿勢を考え、ミルクの微妙な温度調節や、飲みやすい抱っこの仕方など母親と試行錯誤を続けた。
「目を離したら大変なことになるかも」と恐れ、約2時間おきの授乳もあり、母親と父親のどちらかがいつも起きているという生活。訪問時に少しでも仮眠を取ってもらい、次の訪問まで安心して育児ができるように、授乳の必要量などできるだけ具体的な情報を伝えるようにした。
「母子を丸ごと支援できるのが助産師の強み。助産所が併設されているので、両親がいつでも相談できるのもメリット」と安宅さんは言う。
高齢出産が増え医療的ケアが必要に
少子化で助産所の分娩(ぶんべん)数は減少傾向。一方、晩婚化による高齢出産の増加などを背景に、低出生体重児や医療的ケアが必要な乳児は増え、シングルマザーなど支援が必要な人もいる。特に抑うつなど精神疾患がある人は出産への恐怖が強い傾向で、助産所が出産前から関わる例もあるという。
横浜市南区の「みやした助産院」の宮下美代子さん(69)は、助産所を営みながら訪問看護ステーションを開設した草分け的存在。「精神的に不安定な母と子に対して長期間の支援ができる」と意義を語る。長い人だと3~6年支援を続ける事も。「助産師は出産前後から切れ目なく関わる。母乳相談から離乳食の作り方、食べさせ方、生活支援など、生きづらさを抱える母子をセットで支える」と助産師の訪問の特長を話す。
まだ高齢者ケア中心 経験者確保に課題も
ただ、訪問看護ステーションを併設する助産所は全国的にはまだ少ない。また、一般的な訪問看護ステーションで小児を扱う事業所も少数派だ。東京都が2021年1月に1291の訪問看護事業所に行った調査では、小児のケアをしている所は33.5%のみ(複数回答)。大半は認知症など高齢者のケアが中心だった。
医療的ケア児を含む乳児や小児に訪問看護を提供する課題として、小児看護の経験がある看護師の確保や育成が難しいと回答する事業所が多かった。「特有の知識・技術を要することから苦手意識がある」「在宅で個別性を尊重したケアをするには時間が必要」との意見もあった。
日本助産師会の専務理事久保絹子さん(66)は「少し手を貸すだけで育児がうまくいくケースは多い。深刻な状況を予防するために、切れ目なく母子をケアするシステムの構築が必要だ」と話している。
なるほど!
グッときた
もやもや...
もっと
知りたい