総合診療医(家庭医)が妊婦健診にも手を広げて 産科医が少ない地域でも安心して暮らせるように
地域住民の初期診察を一手に
12月初旬、森町の森町家庭医療クリニック。総合診療医を目指して研修中の医師吉持盾信さん(31)と産科医で総合診療医の鳴本敬一郎さん(45)がベトナム国籍の20代女性を前に、妊婦健診の対応をしていた。鳴本さんは、特定技能制度で来日した女性の経済状況を気にしつつ、おなかの張りがきつい時は無理をしないよう助言。女性は「ここの医師は優しいし、熱心」と安心しきった様子だった。
クリニックは、地域住民のプライマリーケアや訪問診療を担い、総合診療医を育てることを目的に2011年に開院した。当時の人口約1万9000人の町に産婦人科がなかったため、2016年からは妊婦健診も始めた。
鳴本さんらが研修中の医師にアドバイスしながら、毎月数人の妊婦健診を実施。鳴本さんは米国でプライマリーケアを学び、帰国後は同クリニックや浜松医科大、同町を含む中東遠の6市町などでつくる「静岡家庭医養成プログラム」で後進を育てている。
鳴本さんは「産後は子どもの予防接種に来てくれて、家族も含めてケアできるのは総合診療医としてやりがいがある」と話す。
女性のヘルスケア研修が必要
石川県七尾市の恵寿ローレルクリニックの吉岡哲也院長(53)も米国でプライマリーケアを学んだ一人。市内の恵寿総合病院の産婦人科と連携して妊婦健診や分娩(ぶんべん)にも関わる。
七尾市の両施設は総合診療医が女性特有の病気や不調を学ぶ研修施設として、日本プライマリ・ケア連合学会が紹介している。吉岡さんは「産婦人科医の偏在が目立つ地域では、総合診療医が妊婦健診や産前産後のケアを担うニーズはあるはずだ」と話す。
ただ、このような研修施設は全国で13と少ない。産婦人科の外来や妊婦健診も担うには、医師にも相応の知識や技量が求められ、産婦人科医や助産師との連携も欠かせない。
岐阜県恵那市の市立恵那病院の副管理者で、総合診療産婦人科養成センターの伊藤雄二センター長は「総合診療医を目指す医師が、女性のヘルスケアに関わる機会や研修を充実させるべきだ」と訴えている。
日本では少ない総合診療医
欧米では、かかりつけ医として総合診療医や家庭医が広く認知されている。日本では2018年、内科や外科と同様に、日本専門医機構が定める19番目の基本領域として、「総合診療専門医」の制度が始まった。
総合診療専門医になるには、初期臨床研修の後、内科、小児科、救急、総合診療を学ぶ3年の研修が必要。その後、日本プライマリ・ケア連合学会の研修を受け、総合診療をより深く学ぶこともできる。
日本専門医機構の総合診療専門医検討委員会によると、今年4月時点で658人が専門医の資格を取得した。ただ、医学部を卒業して専門医を目指すのは数%という。同委員会の生坂政臣委員長は「総合診療専門医の人数はまだ少なく、他の専門医がセカンドキャリアとして選べるような研修制度も用意して育成すべきだ」と話す。
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