子どもの本でジェンダーを学ぼう 専門家がブックガイド刊行「いろんな知識、世界へ誘う窓口に」

山本哲正 (2025年11月26日付 東京新聞朝刊)
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専門家が厳選した絵本などを紹介する「子どもの本でジェンダーレッスン-学びたいあなたのためのブックガイド」

 多様な性や生き方が尊重される社会とは?-。説明が難しいテーマの理解が進むよう、専門家が厳選した絵本やまんが、児童書を紹介する書籍「子どもの本でジェンダーレッスン-学びたいあなたのためのブックガイド」が出版された。「どの本が、どんな理由で良いのか」との観点で、日々、子どもに接する親や保育士らに案内。子どもと一緒に学ぶきっかけにもなりそうだ。

ジェンダーに関する40冊を選書

 編著者5人は、ジェンダーや幼児教育学などが専門。2019年に東京都内であったシンポジウム「子どもの本のいま-感動物語・貧困・家族」に登壇した。シンポの書籍化を望む声が上がったことが出版のきっかけになった。

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「これがこういう理由で良いと明確に示すブックガイドを作りたかった」と話す藤木直実さん

 その一人、藤木直実さん(日本近現代文学)によると、ジェンダーに関する本は多く、選ぶのに苦労したという。テーマをうまく説明しながらも、物語の深みや面白さを備えた本は少なかった。藤木さんらは他のブックガイドや新刊も読み込み、これまで注目されていなかった作品の再評価も試み、約40冊を選んだ。

ロングセラーから新刊まで幅広く

 長く親しまれる絵本「はなのすきなうし」(1954年、岩波書店)。花の香りが好きな牛の男の子「ふぇるじなんど」は、誤解から連れて来られた闘牛場でも角を突き合わず、花をかぐばかり-。

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「子どもの本でジェンダーレッスン-学びたいあなたのためのブックガイド」で紹介している絵本の一部

 書籍では、これを「男性性」を巡る物語と読み解く。戦って男らしさの称号を手にするのではなく、自分らしく生きるという「人間の真の幸福について考えさせる良質の物語」とした。ドイツでは第2次大戦中に出版され、ナチス・ドイツのヒトラーが「堕落した民主主義のプロパガンダ」とこの絵本の焼却を命じたという史実から「戦火のやまぬ現代社会においてこそ読まれなければ」と薦める。

 米国の絵本「ジュリアンはマーメイド」(2020年、サウザンブックス社)は、人魚の扮装(ふんそう)をしたお姉さんたちに地下鉄で出会ったジュリアンが「ぼくもマーメイドなんだ」と花をつけ、化粧をし、体にカーテンを巻き付けて人魚になり切る物語だ。

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「ジュリアンはマーメイド」(ジェシカ・ラブ 文・絵/横山和江・訳 サウザンブックス社)

 書籍では、人魚が心と体の性が一致しないトランスジェンダーの人にとって特別な存在とした上で「姿を変えたいという人魚姫の願いに、自らの切実な感情を重ねる人々の存在が、ジュリアンの造形に繫(つな)がっている」とした。性的少数者への配慮も評価し、美しい絵本としての見応えもたたえた。

 藤木さんは「読み物としても楽しめる良いガイドになった。いろいろな知識、世界へ誘う窓口として活用してほしい」と話す。

 書籍では、約40冊を「装いの力」「戦争とジェンダー」など8つのカテゴリーに分けた。さらに知りたいという読者へ、中学生-大人向けの本も30冊以上、紹介した。1980円。

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