「しってほしい わたしのはなしかた」 吃音と向き合う小学3年生が母親と作った絵本に込めた願い

作製した絵本を広げる著者のまりさん(右)と母のふーこさん(笠原和則撮影)
きっかけは夏休みの自由研究
まりさんは東京都内の小学校に通う3年生。昨年8月に『わたしのきつおん しってほしい わたしのはなしかた』を出版しました。「どうして、絵本を作ろうと思ったんですか?」と尋ねると、「お母さんが、『吃音のことを書いてみない?』って言ってくれて、ちょうど、私も絵本作家になりたい夢があったので、書いてみました」と、元気よく話してくれました。
きっかけは夏休みの自由研究でした。何にしようか、思案していた娘に、母・ふーこさん(41)が、吃音をテーマに絵本を作ることを提案したのです。
「たまたま、夏休みの前に絵本の作り方の本を読んでいて、思い付きました。以前から、娘と歩んだ道のりを何かの形にして残せたらと、思っていたんです」と話すふーこさん。まりさんが「やる!」と即答すると、Amazonのシステムを利用して、個人で手軽に本が出せる「Kindle出版」を使って、制作に取りかかりました。

「わたしのきつおん」の表紙(画像はいずれも、まりさん親子提供)
製作課程について、まりさんに聞きました。
―文章は自分で考えたのですか?
「お母さんと一緒に考えました。いい文章を思い付くのが、いつもお風呂で、お母さんは、『わー、今、メモできないから~』といって大変でした」
―楽しそうですね! 難しかったのはどういうところですか?
「どうすれば、伝わる文章になるのか、考えたところです。例えば、こそあど言葉の使い方とか。これ、あれ、それ、どれ、とか、わからないときは、国語の教科書を見て、考えて、書きました」
2週間ほどかけて作った絵本は、91ページの大作になりました。「きつ音ってなあに?」「話し方のことで不安だった頃」「こまっていること」など、8つの章ごとに、吃音の基本事項や体験談が記されています。出版された絵本は学校で話題になり、吃音について学べる貴重な資料として、教育関係者からも注目されるようになりました。
吃音と分かったのは2歳のとき
まりさんは、バレエやピアノが大好きな、おしゃべりで活発な女の子。たまに思うように言葉が出ないときがあります。吃音が判明したのは2歳のとき。以来、親子3人で悩みながら、迷いながら、歩んできました。

絵本「わたしのきつおん」から
こんなことがありました。小学1年生のときのこと。学校で、違うクラスの男の子に話しかけられた際に、吃音が出たそうです。その子は「何、その話し方。あはは」と言って、どこかへ行ってしまいました。少し待ってくれたら、しっかりと自分のことを伝えられたのに、まりさんは、悲しくて、涙が止まりませんでした。
先生に相談すると、吃音について、学校の全てのクラスで話してくれることになりました。すると、後で、その男の子がまりさんのところにやって来て、「知らなくて、ごめんね。今度、一緒に遊ぼうね」と謝ったそうです。
ふーこさんが静かに口を開きます。
「吃音について説明した人から、笑われたり、からかわれたりしたことは、今まで一度もありません。みんな、ただ知らないだけ。だから、吃音のことを、できるだけ多くの人に知ってもらいたいんです」
「しってほしい わたしのはなしかた」という絵本のタイトルは、親子の願いそのものでした。
吃音は、その子の自然な話し方
「絵本を作るのは楽しかった」と声をそろえる2人ですが、ここまで来るのは、長い道のりがありました。特に、母親のふーこさんには、葛藤やさまざまな思いがあったそうです。改めて、ふーこさんに聞きました。

親子の思いが詰まった絵本
―まりさんの吃音に気付いたときのことを教えてください。
「すごく、不安になりました。何とか治してあげたいという気持ちと、大変だ、このままだと将来、苦労するんじゃないかという気持ちが入り交じって、どうしたらいいかわからず、精神的に不安定になりました。正直にいうと、私自身が娘の吃音を受け入れられるようになるまで、2年くらいかかりました」
―先ほど、小学1年生のときの話を聞きましたが、絵本には、幼稚園のときにも、園児や親御さんに吃音について説明した話が書いてありました。
「そうです。娘と一緒に手紙を書いて、お友達やそのお母さんに渡しました。その頃、娘は、幼稚園で吃音が出て、『どうしてそんな話し方になるの?』って聞かれたらどうしようと、不安になっていたので」
―母子で話し合って決めたんですね。
「吃音とはこのまま付き合っていくかもしれない、私も前を向かなければと思って、いろいろな本を読んで勉強しました。その中で、『自然に出てくる吃音の話し方は、その子の自然な話し方。だから、その話し方を守り育てる』という考え方に出合ったんです。それが、今の私たちの考えの原点になっています。それで、幼稚園のみんなにも伝えようと思ったのです」
―周囲に伝えるのは、勇気がいりますよね。
「どう思われるんだろうって、すごく怖かったです。でも、みんな、わかってくれたんです。お友達もそうですが、『家で、子どもと話してみますね』って、親御さんが前向きに受け止めてくれて。娘も、周りがわかってくれていると思うと、それからは、安心して話せるようになりました」
―そのままでいい、と思えるようになったんですね。
「はい。そのことを、これからも伝え続けていきたいと思います。吃音の最も大きな問題は、話し方を治そうとすればするほど、悪化してしまうことです。だから、本人が『自分はこの話し方でいいんだ』と思えることに加えて、周りの人も、同じように「その話し方でいいんだ」と理解してくれることが必要です。本人も周囲も、『吃音は多様な話し方の一つ』だと考えることが大切だと思っています」
100人に1人 日本に約120万人
吃音は発達障害の一つで、日本にはおよそ100人に1人の割合で、約120万人いるといわれています。

吃音について説明するページ。小学生でもわかりやすいよう書かれている
主に3つのパターンがあり、
- 「わ、わ、わ、わたし」と最初の音を繰り返す連発(れんぱつ)
- 「きーーのう」と音が伸びる伸発(しんぱつ)
- 「…」と最初の音がすぐに出てこない難発(なんぱつ)
があります。専門家でも、はっきりとした原因は分からず、おのおので治療法を模索しているのが現状だそうです。
ふーこさんは信頼できる専門家と出会い、相談を重ね、まりさんが幼いころから吃音について、話をしてきました。
「娘と、初めて吃音について話をしたとき、まだ幼い娘が、自分の話し方を一人で不安に思っていたことを知り、胸が張り裂ける思いでした。幼児期の吃音は、約7割が自然に消失するので、『様子を見ましょう』という考え方もあります。けれど、私は、子どもが一人で抱え込まずにいられることが何より大切だと思っています。その第一歩は、家庭で話し合うこと、幼いうちから子どもがどう感じているのかを、丁寧に聞くことだと思います」
ふーこさんにはずっと胸に秘めた思いがありました。
「吃音については、恥ずかしいものだとか、マイナスだというふうに思っている人が多いと思います。でも、自然に出てくる吃音は、その子の自然な話し方です。『絵が得意』『本が好き』と同じように、その子の一部、話し方の違いとして認められるようになってほしいと思います」
まりさんは今、長期休みのときに、専門家の下で、国語の教科書の音読をみてもらっています。吃音を治すのではなく、自然な吃音を出しながら読めているかをチェックするのだそうです。
知ろうと思ってくれてありがとう
明るくて、元気なまりさんは、取材の際、いろいろなことを教えてくれました。おしゃべりするのが大好きなこと、児童文学の「探偵チーム・KZ(カッズ)事件ノート」にはまっていること、お菓子を食べること、絵を描いたり、工作をしたり、編み物をするのが好きなこと。何より、友だちや家族と一緒にいるのが大好きという言葉が印象的でした。

絵本にはまりさんのメッセージが込められている
「将来、なりたいものはありますか?」と尋ねると、「たくさんあります。ありすぎて、困るくらいです。今は、漫画家か小説家か女優になるのが夢です」と、笑顔で話してくれました。
まりさんは、絵本の中でこんなふうに呼びかけています。
「友だちに『きつ音、早く治るといいね』って、言われたことがあった。わたしはそれを聞いて、『あれ? なんかちがうな…』と思った」
「きつ音はかわいそうなことじゃない。話すのが苦手なわけでもない。きつ音は話し方が少し違うだけ」
「きつ音は、わたしにとって、しぜんな話し方。『そんな考えもあるんだ』とか『そんなふうに思ってもいいんだな』って、感じてもらえたらうれしいです。きつ音を知ろうと思ってくれて、ありがとう」

「わたしのきつおん しってほしい わたしのはなしかた」(1480円)は、書店ではなく、インターネット通販Amazonで購入可能です。
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