僕も吃音だから、悩む子どもを支えたい 言語聴覚士になった当事者が教える「いわたコトバの相談室」

佐藤圭 (2025年5月5日付 東京新聞朝刊)
写真 岩田よしきさん

自らの経験を交えながら、吃音のある子どもへの対応の仕方を話す岩田よしきさん=川崎市で

 自分と同じように吃音(きつおん)に悩む子どもや家族が気軽に相談できる場所をつくりたい-。当事者でもある言語聴覚士の岩田よしきさん(29)が、小田急線向ケ丘遊園駅(川崎市多摩区)の近くに自前の教室「いわたコトバのそうだん室」を開設してから2年余り。吃音のある子どもに特化した施設は少なく、岩田さんの教室には市内外から約100人が定期的に通っている。原因や症状に関する正しい知識を広めようと、インターネットでの発信にも力を入れている。

吃音とは

 話し言葉が滑らかに出ない発話障害の一つ。2~4歳頃に発症することが多く、成人の100人に1人が該当する。「わ、わ、わたし」と同じ音を繰り返す「連発」、「わーたし」と音を伸ばす「伸発」、言葉に詰まる「難発」がある。原因は特定されていないが、最近の研究では、環境的な要因よりも、生まれ持った体質が大きいとされている。

クラスメートに笑われ不安に

 自宅マンションの一室に設けた「いわたコトバのそうだん室」には絵本やおもちゃが並ぶ。主に3~10歳の子どもと保護者が訪れ、それぞれ約1時間、悩みに耳を傾けたり、楽な話し方などをトレーニングしたりする。

 岩田さんは「その子のペースに合わせたオーダーメードの支援を行っている。子どもと同じ目線に立ち、安心できる相手として向き合うことを大切にしている」と強調する。

図表 吃音の子どもと接する時の心構え「聴こう」「待とう」「私たちが変わろう」

 埼玉県所沢市出身。小学生のとき、国語の音読や算数の九九暗唱の際にうまく言葉が出ず、クラスメートから笑われた。

 話し始める前に不安や恐怖を感じ、次第に友だちとの付き合いを避けるようになった。中学校から陸上部で長距離走に打ち込んだのは「話さなくても結果を出せばいい」と思ったからだった。

 とはいえ、大学の駅伝部では、体育会特有の大声であいさつする習慣が嫌で仕方がなかった。「吃音のことを知らない先生も多く、やる気がないからだと根性論にすり替えられた」と振り返る。

TVドラマに触発され資格取得

 転機は、2016年に放映されたフジテレビ系のドラマ「ラヴソング」だった。

 吃音で対人関係が苦手な少女と元ミュージシャンの臨床心理士のラブストーリー。ドラマを見て、吃音であることを初めて知った。

 吃音を意識させると治らないとする「吃音診断起因説」などの古い知識が根強く残る中、両親が吃音だと伝えていなかったからだ。

 ドラマに触発された岩田さんは「吃音に悩む子どもを一人でも減らしたい」と言語聴覚士を志し、大学卒業後は都内の専門学校に入学。国家資格を取得すると、川崎市麻生区の病院や高齢者施設を経て、2023年1月に教室を立ち上げた。

 岩田さんによると、小児専門の言語聴覚士はほどんどおらず、相談できる場所は限られているという。

写真 啓発ビラ

いわたコトバのそうだん室として作成した啓発ビラ。幼稚園、保育園、学校の先生に向けたメッセージも

落ち込む子に、自分を重ねて

 最初に教室の門をたたいたのは9歳の男の子だった。

 学校でからかわれ、精神的に落ち込んでいた。それはかつての自分自身の姿に他ならなかった。「すごく共感できた。先生と生徒ではなく、どうしたらいいかを一緒に考えた」

 母親は、しつけや愛情不足が原因とする俗説にとらわれており、「遺伝的な要因が大きいことが分かってきている」と説明した。

 男の子は現在も月1、2回ほど教室に来るが、「将来の夢はアナウンサー」と語るほどに自信をつけた。

YouTubeやnoteでも啓発を

 活動は教室の中にとどまらない。YouTubeに解説動画を投稿するほか、文章投稿サイト「note」でも、子どもや保護者にアドバイスを送る。

 地域の保育園や放課後デイサービスと連携し、スタッフや保護者をサポートしている。啓発ビラも作成した。

 学校や職場での無理解に苦しむ人は今も多い。岩田さんは力を込める。「動画を見た子どもを勇気づけられればうれしい。当事者や家族だけではなく、周囲の理解も深めたい」

 教室の予約や問い合わせは「いわたコトバのそうだん室」のホームページで受け付けている。

元記事:東京新聞デジタル 2025年5月5日

1

なるほど!

6

グッときた

1

もやもや...

2

もっと
知りたい

すくすくボイス

この記事の感想をお聞かせください

/1000文字まで

編集チームがチェックの上で公開します。内容によっては非公開としたり、一部を削除したり、明らかな誤字等を修正させていただくことがあります。
投稿内容は、東京すくすくや東京新聞など、中日新聞社の運営・発行する媒体で掲載させていただく場合があります。

あなたへのおすすめ

PageTopへ