「福島をランドセル作りの聖地にしていきたい」と話す安東社長＝川口市で

世界に一つ　オーダーメイドの先駆け

　「購入したランドセルが津波で流されてしまった」。安東さんは2011年3月の震災直後、こんな相談が被災地から寄せられたのを覚えている。入学式まで時間がない。急いで同じ商品を作り直し、避難所の子どもたちに送り届けた。

　羅羅屋はランドセルの販売会社として、1974年に創業。「羅羅」は「希少なもの」を意味するイタリア語からとった。川口の本社工場で1999年から本格的に自社生産を始めると、社名の通り業界に先駆けた商品を次々と生み出してきた。

　その一つが、今では各社が取り組むようになったオーダーメイドだ。本体の色や大きさからポケット、糸の色まで選べ、組み合わせは170億通り以上。「世界に一つだけのランドセル」をうたう。

前年に孫を失い「人ごとと思えない」

　震災があったのは、ちょうど増産に向けて新たな工場用地を探していたころ。安東さんは地震や津波で家族を失った人たちの悲しみにニュースで接し、自らの過去を重ね合わせた。

　2010年7月、4歳だった孫を事故で亡くした。展示会でランドセルを背負い、元気に走り回っていたのに…。「いつもそばにいた人と突然会えなくなったら、どんな気持ちなのか。それが分かるので、人ごととは思えなかった」

工場が観光スポットに　雇用も貢献

　震災で職を失い、東京電力福島第一原発の事故で風評被害に苦しむ人がいることも知った。「何か役に立てれば」とすぐに福島県に連絡し、紹介されたのが会津若松の工業団地だった。

ガラス張りの会津若松工場。地元の観光スポットになっている＝福島県会津若松市で（羅羅屋提供）

　新工場は2012年8月に稼働し、製作の風景が見学できるガラス張り。年間1万人が訪れる人気の観光スポットになっている。20～30代が中心の従業員約90人はほぼ地元採用で、雇用にも貢献している。

子どもを笑顔にすることが恩返し

　来年の新入生を対象にしたランドセル商戦は早くも始まっているが、コロナ禍で様変わりしている。羅羅屋はランドセルに抗ウイルス・抗菌加工を施し、密を避けるための青空展示会や自宅で試しに背負える貸し出しサービスなどを展開。子どもたちの学校生活を支えるランドセルを安心して選べるよう、工夫を凝らしている。

　その拠点となる福島へ、いずれは本社を移すつもりの安東さん。「多くの人に助けられ、ここに定着できた。子どもたちが笑顔になれるランドセルを作り、福島に恩返ししていきたい」という。

［元記事：東京新聞 TOKYO Web　2021年4月7日］