学校プールの廃止が増加 水泳授業は校外の屋内プールで 理由は「猛暑、見られない配慮、コスト削減」
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葛飾区は本年度以降、プール造らない方針
東京都葛飾区教育委員会は昨年12月、2021年度以降に改築する小学校にはプールを造らず、校外の室内温水プールを水泳授業に使う方針を決めた。葛飾区教委は「以前よりも夏場が猛暑となるなど、屋外プールでの水泳指導が思うようにできなくなってきている」と理由を説明する。
今秋からの学校改築に合わせ、校庭の一角にある25メートルプールの取り壊しが決まっている区立水元小学校など、現時点でプールを造り直さない方針が決まっているのは3校。プールがない学校は、区営のスポーツセンター2カ所と、民間のスポーツクラブ10カ所のどこかに徒歩かバスで移動して授業を受ける。施設のインストラクターも教員とともに子どもたちの指導にあたる。水元小の児童たちは来年度から、学校から約1キロ離れた区営スポーツセンターの温水プールを使う。
屋外にある学校プールは、熱中症に気をつける必要があるほか、雨天や水温が低いために授業ができないなど不安定な要素がある。日焼け予防や、水着姿を外部から見られないよう配慮するなど学校側に求められる負担も大きくなっている。「時代の流れを踏まえ、学校のプールがどうあるべきかを自治体として考える時に来ている」。葛飾区教委の学校施設担当、森孝行さんはこう話す。
校外利用なら、1校で年間260万円が削減
葛飾区教委はコスト面のメリットも挙げる。学校プールを作り直して使っていくよりも、利用料を支払って屋内プールを使う方が、1校につき年間約260万円を抑えられると試算する。
区立小に通う4年生の子がいる母親(46)は「炎天下のプール授業で具合が悪くなった子もいたと聞くので、屋内にシフトするのは時代に合っているのでは。インストラクターに習うことができるのも良いかも」と理解を示す。一方で「移動に時間が取られ、プールに入る時間が短くなってしまわないか」と心配も口にした。
授業自体をなくす、指導を民間スクールに委託…各地で広がる動き 課題は移動手段と成績評価
海老名市、着衣泳ができなくなり「残念」
神奈川県海老名市は、2011年度までに19小中学校のプールを全廃した。2006年に埼玉県内の市営プールで小学生が吸水口に吸い込まれて死亡した事故を受け、学校プールの改修を検討した際、財政面から今後の維持管理は難しいと判断。市営の屋内プール4カ所に徒歩やバスで移動して授業を行う。移動があっても授業時間が確保できるよう授業は2~3時間の連続としている。
海老名市教委の担当者は「屋外プールでは6~7月の間に授業をしなくてはならなかったが、5~10月までに広げられたことで、授業計画通りに進めやすくなった」と利点を挙げる。ただ、着衣泳は実施できなくなり、「安全面から有意義だったので残念」と話す。
埼玉県加須市は少子化を理由に2021年度から小学校のプールの統廃合を進める。廃止する小学校の児童は、存続する近くの学校か民間のスイミングスクールで授業を受ける。中学校でも2022年度から水泳の授業を取りやめる。隣接の埼玉県羽生市も2020年度に全中学校のプールを廃止した。民間プールの利用を検討したが、想定よりも費用がかかりすぎることや移動時間を考慮して断念したという。
千葉市は民間に委託「プロの指導で上達」
指導も含めて、外部施設に委託を始めた自治体もある。千葉市は2019年度から、試験的に民間のスイミングスクールの利用とスクールの指導者による授業を開始。本年度は9校で実施予定で、児童の泳力や教員の負担軽減の効果を検証するという。千葉市教委は「多くの児童が意欲的で、プロの指導で上達を実感している」と手応えを感じている。
一方、課題は成績評価と移動だ。千葉市教委保健体育課の担当者は「学校とスクールでは評価の基準が違う。判断基準の作成を綿密にする必要がある。バス移動の場合、交通量の多い地域で渋滞し、時間通りに移動できないときもある」と話す。
スポーツ庁によると、小学生と中学2年生までの学習指導要領では、水泳授業は必修となっている。民間施設の活用について、担当者は「安全面に考慮し、指導要領に示された内容を適切に実施していれば問題ない」としている。
水泳は「命を守る」義務教育 民間任せには不安も
◇筑波大付属小学校 体育研究部の平川譲教諭の話
水泳学習は義務教育の教育課程に入っており、プールを設置・維持する義務は本来、学校設置者の自治体にある。水泳教室に行けない子どもにとっても、いざというとき命を守る技能を身に付ける機会だ。一部の自治体で指導を民間任せにした場合、教員が指導経験を積めず、他自治体に異動した際に困るといったケースが出てくることも懸念される。
◇この記事への反響をまとめました。
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