障がいのある人が困っている時は? サポートを学べるカードゲーム ダウン症児の母が開発
目の見えない人や100歳になりきって
「大変! 急いで高いところに逃げて!」
テーブルの上で裏返しに並べられたカードの中から「緊急避難速報発令!」という札をめくった参加者が、一緒にプレーする小学生たちに呼びかけた。
参加者は、手ぬぐいで目隠しをした目の見えない役の人の手を引いたり、100歳の役の人を背中におぶったり。互いに助け合いながら、カードの指示に従って「旅」を進める。
参加者は11種類の役のうちの一つになりきる。目や耳、手の働きに制限があったり、コミュニケーションを取るのに工夫が必要だったりするほか、4歳児、貧困などの設定もある。
カードを順番にめくり、さまざまな出来事を協力して乗り越えることで、互いにどのような手助けが必要なのかを学べるようになっている。参加人数は3~5人で、対象は8歳以上。ゲームは1回10~20分ほどだ。
学校での障がい体験は1度に1種類だけ
カードを考案したのは東京都文京区の会社員高橋真(ちか)さん(49)。小学3年の長女はダウン症と中度の難聴、注意欠陥多動性障害(ADHD)がある。
子育てをする中で「小学校入学時に障がいの有無で学ぶ場が分かれてしまうことが多く、多様な背景を持つ人とともに過ごすことができない」と歯がゆさを感じてきた。「子どもの頃から一緒に遊んで過ごすことが、自分と異なる他者を理解するきっかけになるはずなのに」
NPOなどで障がい児の家族を支援する傍ら、2018年に入学した慶応大大学院で社会課題を解決するためのゲーム作りに着手。ブラインドサッカーをはじめ、数十種類の障がい体験も重ねた。子どもたちが学校で学ぶのは車いす体験やブラインドサッカーなど1種類に限られることが多く、「より幅広い経験の機会をつくりたい」と考えてきたという。今回のゲームは昨年秋に試作し、1年間かけて改良を繰り返した。
こだわり、苦労したのは肯定的な表現
製作で一番こだわり、苦労したのは、参加者の役割を示すカードの名前と説明。「目が見えない」「声が出せない」などと否定的に表現することには抵抗感があった。このため、一緒に製作した仲間と議論の末、「音で世界を知る旅行者」「みぶりてぶりの旅行者」といった肯定的な表現にした。
10月にクラウドファンディングで製作資金を募ると目標額を上回る78万円が集まり、当初の予定の倍となる400組を製作。カードは1組2750円でネット販売を始めた。
製作の一部や梱包(こんぽう)は地域の福祉作業所に委託している。高橋さんは「ゲームで楽しく学び、それが誰かの仕事につながるという循環をつくりたい」と、共生社会の裾野の広がりを目指している。
障がい者を手助けしない理由「どうしたらよいか分からない」が最多
日本財団(東京)が2018年に17~19歳の800人に実施した障がいについての「18歳意識調査」によると、「障がいのある人が困っているときに手助けをしたことがある」と答えた人は45.8%にとどまった。「機会はあったが手助けをしなかった理由」は「どう手助けしたらよいか分からなかった」が34.6%とトップ。「おせっかいまたは迷惑になるような気がした」(16.7%)、「恥ずかしかった」(13.4%)という回答もあった。
こうした距離感を埋めようと開発された今回のカードゲーム。参加した子どもたちは「目が見えないと『そこ』と言われてもどこか分からない。手を添えてもらう方がいい」「みんなの声が聞こえないとつまらないし、マスクで口元が隠れていると話しているのも分からない」と当事者の感じ方に気付いた様子。
手が不自由で小指しか使えない役の参加者からは「周りがカードを取ってくれる気持ちはうれしかったけど、本当はゆっくりやれば取れるから自分で取りたかった」との感想も。心地よいサポートは人それぞれ。一緒に過ごす時間を重ねた先に、自然に助け合える未来がありそうだ。
なるほど!
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知りたい
私は大学で特別支援について学んでおり、ゼミ活動等で、障害のある方もない方も楽しめるようなアナログゲームを数種類体験したことがあります。記事を読ませていただく中で、私の知らない素敵なアナログゲームがあり、ぜひ体験したいと思いました。