コロナ禍で突きつけられた「学校とは何か」 子どもの心に残る影響は?
授業や行事 現場手探り学校の混乱
「わたし特産を調べる」「これ、どのページにする?」などと言葉を交わしながらタブレット端末を操作する。4月下旬、千駄谷(せんだがや)小学校(東京都渋谷区)の4年1組では、東北地方について調べる社会の授業の真っ最中。「はい、まとめて」。担任教諭の顔にマスクはない。マスクなしの子どももちらほら見られた。
4年生が入学したばかりの3年前、学校現場は緊迫感に包まれていた。2020年2月27日夕、新型コロナウイルスの感染拡大で安倍晋三首相(当時)が突然、全国すべての小中高校と特別支援学校に臨時休校を要請。千駄谷小も休校になり、入学式は6月に延期された。
千駄谷小の中野有一郎校長(48)は当時、江東区の小学校の副校長。「残りの授業をどうするのか。卒業式は? 入学式は?と、現場はパニックだった」。分散登校、オンライン授業、行事の中止…。国や自治体の通知は参考になるが、最終判断は現場に委ねられた。「コロナへの考え方は保護者間でも違う。区のガイドラインに根拠を求め、悩みながら常に『間(あいだ)』を取っていくしかなかった」
子どもを尊重する機会が減った3年間
国は4月以降、学校の授業などで基本的にマスク着用を求めないとする通知を各地の教育委員会に出した。コロナに翻弄(ほんろう)され続けた子どもたちにも「コロナ前」の日常が戻りつつある。
国立成育医療研究センター(世田谷区)の臨床研究員で小児科専門医の山口有紗医師は「子どもたちの考えや意見が尊重される機会が減った3年間だった可能性がある」とみる。
運動会は中止、黙食…「つまんない」
学校が「静かに勉強だけする場所」に
学校が再開しても友達とは一定の距離を保ち、給食は「黙食」。音楽の授業ではリコーダーは吹けず、歌うこともままならない。遠足も運動会も中止。「学校が静かに勉強だけをする場所になった。学校とは何かを突きつけられた」
国立成育医療研究センターは2020~2021年に7回、延べ約4万5千人の親子を対象にコロナに関する調査を実施した。「コロナのことを考えるとイヤだ」と答えた子どもは各回3~4割。中野校長が「つまんない」との声を聞いた時期に当たる2020年9~10月の調査では、コロナによる変化について「理由をわかりやすく教えてくれない」が17%、「考えを伝えても取り入れようとしてくれない」が18%だった。
成育医療研究センターの山口有紗医師は「自分たちの考えが反映されることは、子どもたちの心の状態に影響する。子どもの意見を聞く重要性が、コロナ禍で再認識された」と指摘する。
デジタル化で「増えた選択肢生かす」
一方、コロナ禍が後押ししたのがデジタル化だった。全国の小中学生にパソコンやタブレット端末を1人1台配る「GIGAスクール構想」は、オンライン授業の必要に迫られて加速。千駄谷小でもデジタル授業が根付いてきた。
毎週月曜の全校朝会も、児童330人が校庭に集まるのは月1回。残りはオンラインで実施され、中野校長が各教室のテレビ画面越しに語りかける。移動時間の節約にとどまらず、写真などの参考画像も活用できる。
「いたずらにすべてコロナ前に戻すことはしない。増えた選択肢を、子どもたちによりよい形で生かさないと」と中野校長は強調する。
ずっとマスクで「外すと恥ずかしい」
コロナ禍に翻弄(ほんろう)されてきた子どもとどう向き合うか。山口医師は「子どもたちがどう工夫をして乗り越えてきたか。子どもの声に耳を傾け、良かった面にも注目して一緒に振り返って」と求める。
千駄谷小の休み時間。コロナ禍の最中で入学した4年生は口々に「友達と机をくっつけて給食を食べたい」「遠足が楽しみ」「マスクを外して出かけたい」。数えると7割がマスク着用。「入学からずっとマスクだから、外すと恥ずかしい」「着けてた方が落ち着く」。外している子も、ポケットにマスクを忍ばせていた。子どもたちの心の底には、コロナの影響がまだ横たわっている。
なるほど!
グッときた
もやもや...
もっと
知りたい