魚の面白さと海の未来を学べる「おさかな小学校」オンラインで開講中 校長・鈴木允さん「食卓に届くまでの背景を伝えたい」
「1匹の魚が食卓に届くまでの背景を想像できるようになってほしい」という思いから、子どもたちを対象にしたライブ形式のオンライン講座「おさかな小学校」を、日本サステナブルシーフード協会(東京)代表の鈴木允(まこと)さん(42)が開いている。「魚のことをあまり知らない子でも興味を持てるよう、楽しくやさしい授業をしたい」という鈴木さんが、実物の海の生き物を見せて動き方などを説明し、漁師ら水産・漁業関係者と結んで現場の声も伝える授業は、子どもたちの好奇心を刺激し、持続可能な漁業への関心も高めている。
飽きさせない工夫 クイズ、模型…
キーンコーンカーンコーン。画面から学校のチャイムが響くと、土曜午前9時からのおさかな小学校の授業が始まる。9月は「貝」がテーマだ。
「魚と貝の種類って、どっちが多いと思う?」。おさかな小学校の校長を務める鈴木さんの問いかけに画面の向こうの子どもたちが頭をひねる。中にはチャット欄に「魚!」「貝?」と回答を書き込む子も。「魚はおよそ3万種類だけど、貝は10万種類。見つかっていないものも含めると、20万種類くらいいるんじゃないかと言われているよ」。鈴木さんがそう説明すると、驚きの表情が浮かんだ。
要所要所でクイズを取り入れるのは、子どもたちに楽しんでもらい、集中を途切れさせないための工夫だ。この日は、生きているサザエやアサリも登場し、鈴木さんが手作りの模型を使って体のつくりを説明した。
別の回では、川と海をつなぐ環境保全活動を展開するNPO法人「アンダンテ21」(島根県)の佐々木隆志副理事長が、世界中から集めた大小さまざまの貝殻を次々に紹介。島根県の沿岸に打ち寄せられる貝の種類の変化を例に、海流や地球温暖化の影響を伝えた。
未来に危機感 持続可能な漁業を
おさかな小学校は2021年4月に開校。1年間のオンラインプログラム(入学はどの月からでも可)で、4月はマグロ、5月はタイ、6月はサンゴ…と、毎月1つの魚介類などを題材に海洋や漁業、流通や環境問題を学ぶ。これまで100人を超える児童が「卒業」し、現在は30人が受講している。
10代の頃から食料問題に関心があった鈴木さんは、京都大在学中に漁師の見習い体験をしたのをきっかけに、卒業後は水産卸売会社の競り人として築地市場(東京都)で8年間勤務。その後、持続可能で環境に配慮した漁業や水産物の認証制度を運営する国際団体「海洋管理協議会(MSC)」の日本事務所で「海のエコラベル」の普及に携わった。
こうした活動を通し、「海や魚を巡る日本の未来への危機感が強まった」と鈴木さん。「将来的な日本の食料事情を考えると、乱獲を防ぎ、持続可能な漁業を確立すること、そして魚食文化や漁業への理解を深めることがとても大事」と考え、漁師の支援と消費者への発信を続ける。おさかな小学校はその一環だ。
「食や世界に関心が深まりました」
第1期生として2021年度に受講した東京都の小学4年、織茂(おりも)和佳奈さんは、エビがテーマの回で「安いエビと高いエビは何が違うんですか?」と質問。鈴木さんが質問を持ち帰って専門家に聞き、翌週「産地や希少性、加熱用か生食用かの違い」を説明してくれたことなどから興味を深め、昨夏の自由研究では世界のエビについて調べた。マングローブを伐採するなど環境破壊につながる養殖を行う産地があると知ったこともあり、買い物では「海のエコラベル」が付いた魚介類を選ぶようになったという。
織茂さんの母親は、「娘のように、いわゆる『
危機感…「魚は給食だけ」の子も
漁業の現状を伝える活動は、幼稚園や保育園、学校などにも広がる。鈴木さんも関わる「気仙沼の魚を学校給食に普及させる会」(宮城県気仙沼市)は、全国の園や学校で漁業関係者とともに出前授業を展開する。
日本人1人の魚介類の年間消費量は2001年度の40.2キロをピークに減り続け、2021年度には23.2キロに。2011年度には初めて肉類の消費量を下回った。同会代表で遠洋マグロはえ縄漁業会社「臼福(うすふく)本店」を経営する臼井壯太朗さん(52)は「若い世代を中心に家庭で魚料理をする人が減る傾向にあり、魚食と接するのは給食だけという子どもが増えている」と説明。「学童期に魚のおいしさと口に入るまでの背景を知ってもらうことが、日本の漁業にとっても力になる」と強調する。
鈴木さんは今夏、「おさかな小学校」から生まれた本「いただきます!からはじめるおさかな学 1匹の魚から海の未来を考えよう」(リトルモア)を刊行。「海に囲まれた島国に住んでいる子どもたちに、海や魚と上手に付き合っていけるようになってほしい」と期待する。
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