戦争が町にやってくるとどうなるか ウクライナの絵本作家が日本の小学生に伝えた、戦時下の日常と平和の大切さ
「今も警報が鳴ると避難しています」
「戦争中でも、野菜や花を育て、なるべく普通の生活を過ごしています。笑顔で頑張っていかないと」 9月22日、桐朋小学校(調布市)の6年生約60人にアンドリーさんが語りかけた。ウクライナ西部のリビウで創作を続ける2人。この日は、現地の生活や街の様子、破壊されたホテルなどの写真を映し出し、1枚ずつ説明。「今も、ミサイルの警報が鳴ると、街の人たちはシェルターに避難しています」と伝えた。
「リーダーになって戦争をなくして」
2人は、日本語版が昨年刊行された絵本「戦争が町にやってくる」(ブロンズ新社)の著者。絵本は2015年、ウクライナ南部・クリミア自治共和国へのロシアの侵攻後に制作した。「平和な日常の大切さは、戦争が始まって、初めて分かった」とロマナさん。桐朋小の子どもたちに「しっかりと勉強して、この国のリーダーになって、世界から戦争をなくして」と呼びかけた。授業を受けた安良岡紗綾子(やすらおかさやこ)さん(11)は「日本も平和をかみしめて、生活していかなきゃダメだと思った」と話した。
ロマナさんによると、ウクライナでは今、お気に入りの絵本を心の支えにしている子どもが多いという。「絵本を触り、ページをめくることで気持ちを落ち着かせ、自分の存在を感じ取っているのかもしれません」
ウクライナ避難民もワークショップに
2人は翌23日、渋谷区内で開かれたワークショップに参加。親子連れら約75人とウクライナから避難してきた3人が大きな画用紙にそれぞれ行ってみたい場所を描いた。ウクライナから避難中のアリサ・ボイチャクさん(5)は色とりどりのペンでハートマークや動物の絵を描いて「楽しかった」と笑顔を見せた。
犠牲はいつも…戦争は最大の児童虐待
2人がウクライナで開いたワークショップでは、戦争で甚大な被害を受けた東部マリウポリから避難してきた少年が黒一色の絵を描き、「僕の世界は今、この色です。他の色はない」と話したという。
日本で2人のイベントを主催した国際アートセラピー色彩心理協会の末永蒼生(たみお)代表理事(79)は「絵には苦しい時に、その感情をはき出せる力がある。戦争の犠牲はいつも子ども。戦争は最大の児童虐待だ」と指摘。アンドリーさんは「日本の皆さんに、ウクライナの現状を直接話すことができて良かった」と話した。
絵本「戦争が町にやってくる」
絵本「戦争が町にやってくる」の舞台は、彩り豊かで美しい架空の町。人々は花を育て、家を建て、鳥や草木に話しながら、楽しく暮らしていたが、突然「戦争」がやってくる。ガラスや風船、紙などの壊れやすい素材でできた主人公たちが、それぞれの力を生かして団結し、町から暗闇を追い出すという物語だ。
ロマナさんとアンドリーさんが「戦争について、親子で考え、話すきっかけになるように」との思いを込めて制作。2人は戦争で友人を亡くした経験があり、「今は怖いけれど、必ず未来に明るい希望が待っている。そう信じて、この本を作りました」と話す。
ロマナ・ロマニーシン、アンドリー・レシヴ
絵本作家、アーティスト。共に1984年生まれ。ウクライナのリビウを拠点に活動している。主な絵本の作品に「うるさく、しずかに、ひそひそと 音がきこえてくる絵本」(河出書房新社)、「旅するわたしたち On the Move」(ブロンズ新社)がある。
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