日本人として、英語を使いこなす 子どもをジャッジしない教育で高まる自己肯定感 相模原・LCA国際小学校の取り組み

 日本人として自覚、誇りを持ちながら使える英語を身につけていく。そのような教育を提供している幼稚園と小学校が神奈川県相模原市にあります。子どもたちは大変じゃないの?どんな子に育つの? 普通の公立学校に通う子どもたちにも学べることはあるの? さまざまな疑問を頭に浮かべながら、LCA国際小学校を訪問しました。
写真 LCA国際小学校

神奈川県相模原市にあるLCA国際小学校(同校提供)

LCA国際小学校

 教科指導を英語で行う小学校。1985年に私塾LCAとしてスタート。学習だけではなく、自転車、キャンプなどアウトドアでの体験を重視した。1990年に英会話スクールを開設。2000年に幼稚園「LCAインターナショナルプリスクール」、2005年に「インターナショナルスクール小学部」を開設。2008年には政府の「構造改革特区」制度を利用し、外国人教師が英語で指導する日本初の株式会社立小学校になる。在学生は約290人。F1ドライバーの角田裕毅さんは卒業生。LCAは「Language Culture Activity」。

独自の「メトロラーニング」 算数も英語

 記者は2024年1月下旬、相模原市が提供したプレスツアーで初めて訪問しました。LCA国際小学校はリニア中央新幹線の「神奈川県駅」(仮称)が建設中のJR・京王線橋本駅から徒歩30分ぐらいのところにあります。

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英語の授業風景

 まず低学年の英語の授業をのぞきました。子どもたちは、LCAで開発した独自のデジタル教材「メトロラーニング」から流れるテンポに合わせ、教室の白板に映る英文を教師の誘導で繰り返し、読み上げます。子どもたちは私たちが気になったようで、振り向いておしゃべり。その言語も英語でした。自然と英語が出てくるんだ、と感心しました。

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算数の授業も英語で行われる(相模原市提供)

 続いて英語による算数の授業も見学しました。こちらではグループに分かれ、子どもたちは先生の指示を受けて、ノートに書き込んでいます。もちろん英語です。低学年では授業の8割を英語、2割を日本語で受けています。

高学年になると日本語と英語が半々に

 中学受験をする児童が多い同校では、高学年になると英語と日本語の授業の割合は半分ずつになります。記者がのぞいた教室では、日本人の先生が日本語で授業していました。児童の会話も日本語です。「日本人に戻ってる!」と再び驚きました。

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英語と日本語の本が並ぶ図書館

 他の教室も覗きました。図書館には英語と日本語、両方の本があります。英語の小説には難易度別に色の違うシールが貼られ、自分の英語力に見合った読書ができるよう、工夫されています。

 校舎の入り口にはアレクサンドロス大王と高松塚古墳の絵を設置するなど、日本と欧米それぞれのアートがあちこちに飾られており、建物を明るく感じさせています。

英語の早期教育の意義とは? 山口学園長に聞く

 LCA国際小学校は、相模原市の公立小学校教諭だった山口紀生学園長が「子どもたちがやりたいことをやれる場をつくりたい」と1996年に始めた私塾が原点です。1クラス20名、英語を話す外国人担任と日本人副担任がつくという手厚さ。授業料は月12万円ほどですが、夏冬のイベント代(キャンプやスキー)まで含まれています。そのほか、英語のスピーチコンテスト、タレントショーなど児童らが自己表現する場が用意されています。子どもたちは臆することなく、発表し、表現力やコミュニケーション力が培われるといいます。山口学園長に詳しく聞きました。
写真 LCA国際小学校 創設者

相模原市のLCA国際小学校の創設者で校長の山口紀生さん

きっかけは「もっと英語を話せたらな」

―なぜこの学校を立ち上げたのでしょうか。

 相模原市の公立教諭をしていて、子どもたちがやりたいことを言えない、本当に楽しい事を経験していないと痛感したからです。

 子どもたちがワクワクすることってちょっとリスクがあることが多いので、公立の学校では、基本的に全て禁止なんですよ。私はアウトドア好きだったので、子どもたちと一緒にやりたいと。自転車で山中湖まで行ってブラックバス釣りするとか、自然の中で楽しく過ごす経験を積ませました。

 つらいことがあっても自分で乗り越える。その力は身につけたほうが人生を豊かに生きられます。塾のときはそういう体験を重視してやってきました。今はそこまでリスキーなことはやっていませんが。

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メトロノームを使った英語授業、メトロラーニングの授業風景(LCA国際小学校提供)

―英語教育を重視したきっかけはなんでしょうか。

 富士山、北海道と行き先がどんどん遠くなり、「次は海外だ」と米国の知り合いに手紙を書き、ホームステイを受け入れてもらいました。ロッキー山脈のトレッキングなどを体験した帰りの飛行機で子どもたちが「もっと英語を話せたらな」とつぶやいていたのがきっかけです。確かに子どもたちは事前に練習した自己紹介以外は話せませんでした。

 その後、英会話教室を立ち上げましたが、教室では週1、2回。よっぽど自分で練習しないと身につかない。そこで英語で幼児教育を行うプリスクール、小学部と子どもたちが毎日英語に触れる環境を整えていきました。

英語が話せれば、生き方が違ってくる

―なぜ英語を学ぶ必要があるのでしょうか。

 たとえばインターネットである事柄を調べたときに、日本語よりも、英語のほうが圧倒的に情報量が多いです。同じニュースを聞くとしても、日本のニュースだけを聞いている人たちに比べて、BBCやCNNなど英語媒体も聞くことで視野が広がります。

 英語が話せれば、人との交流も広がる。世界の人とコミュニケーションがとれる。そうなれば子どもたちの生き方が違ってくると思います。日本に誇りを持って、世界に出てほしい。日本のことを伝えるのにも、英語が必要なんですよ。

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プリスクールの様子(LCA国際小学校提供)

―プリスクールと小学校で学ぶのはなぜですか。

 高等教育まで待っていては「勉強」になってしまいます。そしてその年頃には、他の教科も勉強しなくてはならず、時間的な制約がすごくあります。この学校の取り組みを通じて、幼児教育、小学生ぐらいまでは英語を学ぶことは勉強と思っていないのではないかな、と感じています。

欧米と比べながら、日本を知っていく

―おしゃべりから始まるからでしょうか。

 学校で自然に生活する中で身についている英語があります。それを利用しない手はない。人が聞く、話すに関しては臨界期があります。耳がちゃんと聞ける時期に聞いた音を自然に出せる年に学ぶのがいいと思います。後から学ぶと何倍も大変になりますから。

 私たちのカリキュラムでは6年生でほとんどの子が英検2級を取得しています。外国人とのコミュニケーションは問題ないし、本を読んだり、英語を自分で学ぶ力も得られます。おそらく大学受験の問題も解けるでしょう。英語はあくまで道具。使いこなせるレベルまで習得できます。

 何よりも、日本の勉強を犠牲にして英語をやっているわけではありません。日本の勉強は全部やります。英語もやります。子どもたちは、自然と日本と海外を比べることができます。日本の良さもよく分かり、それを世界に伝えたいと思うでしょう。

 以前は早期の英語教育に反対する学者が結構いらっしゃったけど、今は本当に減ったと思います。

―日本人としてのアイデンティティーと早期の外国語教育は並立できるということでしょうか。

 できます。日本はこうだけど、欧米はこうだよね、と常に比べながら日本を知ることができるので、かえっていいと思います。

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算数の授業(相模原市提供)

母国語は大切 家ではきちんと日本語

―幼児や小学生には負担が大きいことはないですか?

 子どもたちは学習って思っているかなあ、と思います。少なくともプリスクールの頃は学習と思っていないです。日本語も英語も入る頭の状態で、プリスクールでは英語だから自然に英語を吸収しながら遊んでいます。

―でも小学生は日本のカリキュラムをこなした上で、英語を学んでいるんですよね。

 英語の部分は学習と思っていないと思います。そうなると日本語が崩れるかというとそんなこともない。家庭でも全部英語でやりますというのは困ります。母国語はとても大切です。家庭ではきちんとした日本語で生活し、日本の絵本を読んでもらえれば、プリスクールを英語で全部やっても問題がないというこれまでの実績が出ています。

―算数や理科も一部英語で学ぶそうですね。

 理科は高学年になると3時間授業がありまして、2時間を英語、1時間を日本語でやっています。英語で学んだ方が英語力はつきますが、中身が分からないのが一番困ります。

 卒業させるにあたって、小学校の理科の中身はきちんと分かることが必要です。その上で、英語をどこまで頭に入れられるか。また英単語だけではなく、日本人として日本語での名称も知っておく必要があると考えています。

写真 LCA国際小学校のミニ図書館

低学年用のミニ図書館

―なぜメトロノームを使うのでしょうか。

 最初は文章を体で覚えるため、何秒かで言おうということから始めました。ただそれを教室でやるとみんなのスピードが違うので先生が聞き取れない。うわーっとなってしまって、誰がどういう発音しているか分からない。私はピアノを弾くのでメトロノームを活用することを思いつきました。

 英語ってリズムの言語で、こういうリズムに合わせて英語を話せば、みんなそろうし、独特のリズムを身につけられるよね、ということで始めました。

ありのままの自分で表現、挑戦できる

―メトロノームのリズムに合わせて英文を唱和するというメソッドは爆発的に広がってもよいのではと思うのですが、なぜ広がらないのでしょう。

 先生方が英語の授業をするのに精一杯で、子どもたちに英語を話させようと考える余裕がないからだと思います。自分で授業をしなくてはいけないと思っていて、子どもたちが英語を話せるようにしましょうというところまで考えていませんから。コロナ禍では話してはいけないというのもありましたし。ですが、東京都の自治体で新年度から採用してくれるところもあります。

―英語学習面以外の特徴はありますか?

 人と違うことは宝物。子どもたちのは、ありのままでいい、競争しなくていい、君は君の輝きがあるよと伝えています。教員、大人たちはジャッジ、いい悪いの価値判断をしません。

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学校の運営方針を説明した漫画(LCA国際小学校提供)

 集団生活していてトラブルはありますが、先生が頭ごなしに子どもに謝りなさい、ということはありません。私たちは子どもたちに自分の気持ちをしっかり相手に伝えようね、と言っています。1年生でも自分たちで解決できます。大人がジャッジしないから、子どもたちは安心して自分の意見を言えますし、挑戦できます。

―武道など日本文化を学ぶ機会も設けているそうですが。

 それはアフタースクール(学童保育)でです。新年度は古事記を取り上げる授業を行う予定です。日本人としての考えがにじみでていますから。

山口紀生(やまぐち・のりお)

 1953年、東京都生まれ。横浜国立大学卒業後、相模原市立小学校の教諭を約6年勤めた後、私塾LCAを立ち上げる。現在は中学校設立に向け奔走中。保護者と居酒屋で飲んでコミュニケーションとることも。趣味はピアノ。

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