野球部のない中学生の受け皿は? 強豪校を目指さない「ライト層」、地域のクラブチームへ〈野球のミライ〉

酒井翔平 (2024年6月9日付 東京新聞朝刊)
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守備練習に励む東京城北ノイヤーウインズの選手たち(酒井翔平撮影、いずれも東京都板橋区で)

野球のミライ

【第1回】地域の軟式野球クラブチームが、学校に野球部がない中学生たちの受け皿になっている。東京都練馬区、板橋区を拠点とする「東京城北ノイヤーウインズ」もその一つ。チームを昨春発足させた石沢淳一監督(59)は「子どもたちが野球を楽しみ、生涯スポーツとして続けていける環境にしたい」と語る。

野球を生涯楽しめるように

 荒川河川敷グラウンドで伸び伸びと白球を追う選手たち。ノックでミスをしても怒鳴り声はなく、監督やコーチからのアドバイスも最小限。選手同士で声をかけあい、プレーの確認や気づいたことを遠慮なく言い合う。体験入部の男子生徒が打撃練習で鋭い打球を放つと、「ナイスバッティング」の声が相次いだ。

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ノックを行う石沢さん(右から2人目)

 富山泰成さん(3年)は中学校の軟式野球部が部員減で休部となり、昨年4月にチームに加入した。「みんなうまいし、ストレスもなく楽しく野球ができている」。高校でも野球を続けるつもりだ。

 少子化やスポーツの多様化など、子どもの野球離れの要因はさまざま。日本中学校体育連盟によると、2023年度に連盟に登録した男子軟式野球部員は約13万人で、10年前から約11万4000人減った。東京は約7000人減り、野球部の休廃部が相次いでいる。

 硬式のシニアやボーイズなどに入る選択肢もあるが、強豪私立高校への進学を前提とするチームも多く、「とにかく野球を楽しみたいという、ライト層の受け皿はなかなかない」と石沢さん。レベルに関係なく、長く野球を続けてほしい-。選手が楽しむことを第一とする学童野球チーム「練馬アークス・ジュニア・ベースボールクラブ」でコーチ経験があり、その卒業生が野球を続けられる環境をつくりたいという思いもあって、昨年3月に新チームを立ち上げた。

選手を中心に周りも学び合う

 掲げるのは「プレーヤーズセンタード」。選手を中心に、周囲の人々も互いに学びながら成長しようという考え方だ。極端な勝利至上主義や旧態依然とした指導法が子どもを野球から遠ざけていると感じており、「ライト層が広がっていかないと野球人口はどんどん減っていく。同じ考えを持つチームがもっともっと増えれば、野球の全体像は広がっていく」と訴える。

 そうした理念の根底には、自身の実体験を基にした問題意識がある。高校の野球部では理不尽な指導を受ける毎日だったという。「自由はなかった。指導者の考えを押しつけられ、楽しめなくなった」

 卒業後は野球から離れていたが、15年ほど前、長男が入団した豊島区の学童野球チームのコーチになると、強豪チームとの練習試合で衝撃を受けた。「相手の1番から9番まで、2ストライクまでずっとバントの構えをしていた。私が高校で体験したことが小学校にまで広がっていた」。投手を揺さぶり四球を狙う戦術で、試合は有利に進められるかもしれないが、選手が自由に打つ機会は限られる。以来、勝利至上主義との決別を決意した。

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キャッチボールをする選手たち

 ノイヤーウインズの練習は週末に行い、1日あたり4時間まで。学校の部活動などがあればそちらを優先して構わない。試合では先発メンバーだけでなくベンチ入りした全員が順番に打席に立ち、守備に就く機会も必ず確保する。競技連盟に加入しないことで前例にとらわれず、自由な発想で選手が野球を楽しめる環境づくりに取り組む。

 現在は理念を同じにするチームを集めた新リーグ設立を目指している。全員参加などの独自ルールを導入し、年間を通したリーグ戦を行う構想だ。野球を心から楽しむ-。原点回帰こそ、未来を切り開く唯一の道だと信じている。

少子化を上回る野球人口減

 日本の野球人口は2010年から2022年にかけて約60万人減少している-。競技の普及、振興など球界の課題をプロ、アマ合同で取り組む「日本野球協議会」が昨年公表した調査報告書には衝撃的な数字が並んだ。

 報告書によると、2022年に各競技統括団体に登録された選手数は約102万人。17年まで16万人前後で推移していた高校硬式野球は13万人まで減少。学童野球も減少傾向が著しく、2022年度に全日本軟式野球連盟に登録したチーム数は約9800。初めて1万を切り、選手数も12年前から4割減の約17万人だった。

 報告書の調査、執筆に関わった山梨学院大の南方隆太・特任助教は「少子化で減少は当たり前と言えるが、その減り方が問題だ」と語る。同期間の15歳未満の子どもの減少幅は13.5%。少子化を大きく上まわるペースで野球離れは進んでいる。

 地方は特に深刻で、かつては「小学校ごとに1チーム」が珍しくなかったが、「一つの自治体に1チーム」になった地域もあるという。南方特任助教は「このままでは野球をしたくてもできない子がでてきてしまう」と危惧する。

 プロ野球は昨季2507万人の観客を動員し、コロナ禍以前の盛り上がりを取り戻した。2028年ロサンゼルス五輪での野球の復帰も決まり、球界には明るい材料が並ぶが、足元では子どもの野球離れが進行し、将来は決して楽観視できない。直面する課題を見つめるとともに、関わる人々の姿を通し、日本野球の未来を探る。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2024年6月9日

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