療育ってどんなことするの? 生活習慣を身に付け、社会性を育む 現場・専門家・経験者の声を取材
2歳の孫が健診後に勧められ…
「孫の2歳の男の子が健診後に検査を受けた結果、担当者に『コミュニケーション力がないので将来困りますよ』と療育を勧められた。孫は2語文も話せるのに…と戸惑っている。勧める基準やどんなことをする場なのか知りたい」という悩みが読者から寄せられました。療育とは何なのか、読者や専門家の声とともに現場も取材しました。
療育とは
医師や保健師、理学療法士らが連携して障害のある子どもや、その可能性のある子どもの心と体の適正な発達を促し、日常や社会生活を円滑に送れるように手助けをすること。専用の通園施設や幼稚園・保育園と並行して通うなどする児童発達支援、学校の授業後や長期休暇に利用する放課後等デイサービスなどがある。厚生労働省によると、2012年度から2021年度の10年で、児童発達支援の利用者は1月平均で約3倍、放課後デイは約5倍に増えた。
経験者は:少人数で丁寧に 自信がつく
「良い機会と受け止めて」と助言するのは、三重県桑名市の女性(51)。長男が3歳児健診で勧められたのをきっかけに通い、周囲との付き合い方などのサポートを受けた。「身内は何も問題がないと思い込みがちだが、第三者から見れば違和感があることも。確かに担当者の言い方は配慮がないように感じるが、療育を色眼鏡で見るのではなく、気軽に相談に行ってみては」と勧める。
療育施設の保育士として働いていた愛知県西尾市の女性(62)は「保護者が身構えてしまう言い方は本当に残念だし申し訳ないこと」とした上で、「療育は職員1人あたりの子どもの人数が少なく、大勢の中では見過ごされてしまうことでも見逃さず丁寧に対応してくれる」と説明する。「強制ではないが、一度体験してみてもいいのでは」
長男が3歳の時から療育に通っていた名古屋市北区の女性(45)は、自治体によって認識に差があるように感じた。療育自体は息子に「できた!」という自信を持たせてくれて満足している。だが、岐阜県内から名古屋市に引っ越す際に、区役所で保育園について相談すると、「療育に通っていたことを必ず園に話して」などと言われ、何か特別なことのように取り扱われていると感じたという。
愛知県東浦町の女性(57)は「初めて会う保健師に物おじしないで話せる子もいれば、おびえて黙ってしまう子も。療育を勧めた人は、その場の様子で主観を述べたにすぎないのでは。他の人に診てもらうか、もう少し様子を見てもいいと思う」とアドバイスする。
現場では:職員に豊富な経験と専門知識
名古屋市昭和区の市中央療育センターにある通園施設「みどり学園」。発達に遅れや偏りのある、年少~年長児計32人が週5日通う。1クラス園児8人に対して、保育士を3人配置し、手厚く見守る。
あるクラスでは、午前中に遊戯室とプールでたっぷり遊んだ後、給食の前に「朝の会」を実施。子どもたちが1人ずつ、今日の日付と曜日、天気が書かれた紙を手作りのカレンダーに差し込んで次の子に渡し、完成させた。障害などで姿勢が安定しない子には専用のいすを用意。給食では、必要に応じて食材の大きさや硬さをそれぞれの子どもに合わせて調節する。
プールの時間がクラスごとに異なるため、朝の会の時間は日によって変わる。「毎日同じ時間割の方が落ち着くという子もいるが、社会ではそうもいかない。ルーティンが変わっても対応できるように」と、伊藤亜木園長は狙いを語る。子どもが不安にならないように、当日の朝に1日の予定を絵カードで説明し、視覚からも情報を伝える。
食事や着替え、排せつなどの基本的な生活習慣を身に付け、集団生活を通じて社会性を育てることを目標とする。幼稚園や保育園との違いについて、伊藤園長は「全ての職員が豊富な経験と専門知識を持っている」と強調。「子どもが問題行動を起こしたときに、なぜそういう行動をとるのかというところまで目を向け、気持ちを理解した対応をとれる」と話す。
専門家は:子育てが楽しくなるお手伝い
名古屋市中央療育センター所長の谷合弘子さん(小児科医)は「療育を保護者に無理強いするのは良くない」と話す。受けさせるかどうかを悩んだ上で「もっと早く来た方がよかったでしょうか」と、吐露する保護者も多いという。谷合さんは「来たいと思ったタイミングで来てもらえたらそれでいい」と語る。
センターでは、子どもの発達や行動面について保護者が相談したい場合、電話で初診の予約を受け付ける。3~4カ月待ちのため、その間に職員が話を聞く初回相談を実施する。他施設との分担で、未就学児については市内16区のうち5区を管轄し、2023年度は577人が相談に来所。2、3歳が約6割を占める。0~1歳は医療機関、2~4歳は区の保健センターからの紹介が最も多い。名古屋市の場合は、健診の際などに相談を勧める明確な基準はなく、総合的に判断しているという。
初診で発達検査と医師による診察の後、必要に応じて、親子で週1回センターに通う「療育グループ」などを案内。グループに参加する中で、幼稚園や保育園よりも小さい集団での支援が適していると判断した場合は、みどり学園などの通園施設を紹介している。
20年近く療育の現場で働いてきた谷合さん。「当初は専門的なことをする場だと思っていたが、子育てが楽しいと感じるお手伝いをしているんだと思うようになった。一人じゃないということを伝えたい」