目と耳が不自由な盲ろう児 相談窓口で「いるはずない」と言われ… 全国初、東京で始まった支援事業はなぜ必要なのか
難しい子育てに悩む保護者
「盲ろう児支援事業」は6月にセンターが台東区から現在の新宿区に移転したのを機に始まった。センターは、当事者らでつくる認定NPO法人「東京盲ろう者友の会」が都の委託事業として運営している。
センターによると、生まれつき全盲で後に聴力も衰えるなど後天的に盲ろう者になった人は、ある程度のコミュニケーション手段を身に付けていることもある。
これに対し、盲ろう児は先天的に視力、聴力双方に障害があることが多く、後天的な場合よりも情報の入手や認識、コミュニケーション手段の獲得が難しい。しかし、国内に盲ろう児を専門に指導する教育機関はない。
保護者も難しい子育てに悩んでいることが多く、療育や教育機関の指導員も関わり方に戸惑うことが多い。事業はこうした状況を改善しようと、専門家のアドバイスを受けたり、当事者同士が交流したりしやすい環境づくりを目指す。
障害を早く見つけて支援を
相談事業では、対面や電話、オンラインで盲ろう児の指導経験がある専門家らが保護者や教員らの声に耳を傾ける。すでにコミュニケーションや通学、就労など幅広い分野について相談や悩みが寄せられているという。教員研修のため、特別支援学校への訪問も実施している。
当事者の子どもや保護者らが集まる「交流広場」は、月1回のペースで開催。体を動かしたり触ったりして遊べる遊具を備えた部屋で、子どもたちに遊んでもらいながら親同士は話ができるようにしている。これまで3回開き、親子ら計24人が参加している。
東京盲ろう者友の会理事長の藤鹿一之さん(58)は「盲ろう児の障害を早く発見し、早めに専門的に支援していくことが重要。盲ろう児にとって明るい未来が開けるよう支えていきたい」としている。
検索してもほしい情報なく…
目と耳が不自由な「盲ろう児」の成長や子育てをサポートする「盲ろう児支援事業」。法的に定義が確立しておらず、障害についての理解も乏しい中、重いハンディがある子どもをどう育てていけばいいか悩んでいる保護者は多く、それぞれの特性にあった教育や頼りにできる相談先を求める声は強い。
9月下旬、都盲ろう者支援センター内の「盲ろう児支援室」に盲ろう児と保護者、支援者が集まった。支援事業の一環の「交流広場」で、子たちが遊具で遊んだりしながら楽しんでいる様子を、親たちが談笑しながら見守っていた。
「全く見えていない、聞こえにくい状態なので、周りの状態が分かりません」。東京都板橋区の小林裕子(ひろこ)さん(41)は長男の蒼士(あおし)くん(8)が盲ろう児だ。この日は発熱で一緒に来ることができなかったが、これまで親子で参加している。
三重県で蒼士くんを出産した時に全盲難聴と伝えられた。どう育てていったらいいのか。ネットで「盲ろう児」と検索してもほしい情報は得られなかった。
相談しようとした窓口では「そんな子(盲ろう児)はいるはずがない」という趣旨の言葉を受け、がくぜんとした。その後、よりよい教育環境を求めて都内に転居。蒼士くんは、盲ろう児の指導経験がある筑波大付属視覚特別支援学校(文京区)に通っている。
支援事業について「アドバイスももらえるし本当に心強い」と裕子さん。「盲教育、ろう教育と分けるのではなく、盲ろう児のための教育や相談先を確保することが大切」と訴える。
この日は、研究者や保護者でつくる「全国盲ろう教育研究会」のメンバーらも見学していた。会に参加する堺市職員の浅田塁さん(36)は、妻と娘の祈里(いのり)ちゃん(2)との3人で訪れた。祈里ちゃんも盲ろう児だ。浅田さんは「つながりがないのでどう育てていいか想像もつかない」と悩みを打ち明けつつ「事業には期待している。オンライン中心だが積極的に関わりたい」と前を向いた。
盲ろう児教育の3つの課題は
国立特別支援教育総合研究所の2017年度調査によると、特別支援学校に在籍する盲ろう児は315人。子どもの86%は知的や肢体などにも障害があり、学校種は視覚、聴覚、知的、肢体などとさまざまだ。盲ろう児に特化した特別支援学校はなく、視覚や聴覚などの各学校は指導方法を手探りしながら受け入れている。
当時研究所で調査に当たり、現在はセンターで盲ろう児支援事業を担当する星祐子さん(66)は、筑波大付属視覚特別支援学校で盲ろう児を指導した。同校でもノウハウがあったわけではなく、教員全員で手話の指文字を覚えたり、ろう学校に教えを受けたりして指導方法を探った。
盲ろう児教育の課題について星さんは「数が非常に少ない希少性」「全国各地にいる点在性」「一人一人が本当に違う多様性」の3点を挙げる。その上で「盲ろう教育の継続性は大きな課題。そのためにも、最低限の情報を提供できる窓口はあった方がいい」と話す。センターでは保護者、教員らの相談に乗り、特別支援学校に出向いて研修なども実施している。
事業開始から4カ月近く。交流広場には東京だけでなく神奈川県や千葉県などからも参加者があり、支援が求められていたことを改めて痛感している。「就学前も含めて盲ろう児を支援するというのは全国でも初めての取り組み。ここにとどまらず、全国に広がってほしい」
年内の「交流広場」は3回、問い合わせはセンターに
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