子どもの権利条約批准30年(下)「子どもの意見」をもっと! 声を反映した条例を定める自治体が増加
シール投票で子どもの権利を考える
考えや思いを込めてシールを貼っていく。11月上旬の土曜、愛知県長久手市青少年児童センターで開かれた「じどうかんまつり」。遊びのブースと並んで、シール投票を通じて子どもの権利を考えるコーナーが設けられた。市は2026年度の子ども条例制定を目指しており、市民に理解を深めてもらおうと企画した。
壁に張った模造紙に子どもの権利条約の中身を記し、一番大切な権利と一番守られていないと思う権利を、子どもにも大人にも選んでもらった。大切な権利は「安心できる場所があること」、守られていないとされたのは「好きなことを自由にできること」が最も多かった。市子ども政策課の水野真紀子課長補佐は「大切な権利にはすっと貼る人が多い。守られていない権利は考え込む姿がみられる。ちょっと立ち止まって考えてもらうことが周知の一歩」と語る。
「こども会議」の進行は学生が担う
職員とともに投票を呼びかけたのは、市内にある愛知県立大で児童福祉を学ぶ学生たち。会場に張った模造紙も準備した。市が条例をつくる過程で重視する、子どもの意見表明権(権利条約12条1項)の行使のために力を借りている。市内の子どもから意見を聞く「こども会議」で進行を担うファシリテーターを務める予定で、「子どもたちとより年齢が近い学生の方が意見を引き出しやすい」と水野さんは期待する。
子どもの権利条約を日本が批准して30年。子どもの声を反映した条例を定める自治体が増加している。昨年4月施行のこども基本法に沿って同12月に「こども大綱」を策定した国の動きも後押しした。
子どもたちから市長へ提言
先進する自治体へは視察が相次ぐ。三重県名張市には11月上旬、静岡県沼津市議らが訪れた。名張市は06年3月、全国6番目となる総合的な子どもの権利に関する条例を公布し、翌年の1月に施行した。
意見表明権を保障するため、条例には子どもに市政への意見を求めるための会議(通称・ばりっ子会議)の開催を明記。毎年市内の小中学生40人ほどが登録し、市長に通学路の危険箇所について提言したり、市のマスコットキャラクターを提案したりしてきた。併せて、子どもの権利救済委員会も設置している。
沼津市側から課題を問われた名張市子ども家庭室の浪花武志室長は、ばりっ子会議の活動が小学生中心になっている現状に触れ「中高生の意見をもっと引き出したい」と回答。市内に三つある高校との連携や、交流サイト(SNS)の活用を課題に挙げた。
「子どもたち自身に知ってもらいたい」
今年5月のアンケートでは、条例の認知度は市内の中学2年生で14.7%、小学5年生では15%。浪花室長は「子どもたち自身に知ってもらいたい」と啓発のためのグッズが入ったカプセルトイを手作りするなど知恵を絞る。
12月8日には名張市内で、東海地区の研究者や行政関係者らが子ども条例を考える集会が開かれた。ばりっ子会議の子どもたちによる活動報告を予定しており、条例周知の機会にしたい考えだ。
迷ったら子どもの最善の利益を考えて
総合的な子ども条例が求められる背景には、子どもをとりまく問題の多様化、深刻化がある。子どもの権利条約総合研究所の副代表を務める日本体育大の半田勝久准教授(写真、子どもの権利論)は「例えば、いじめ防止対策推進法を受けて各地でいじめ防止条例はできたが、公園がなくなって遊べない問題や体罰には対応できない。幅広く権利を保障する総合的な条例が必要だ」と話す。
具体的な相談を救済に結びつけるには独立性を持つ公的第三者機関(子どもオンブズ)が欠かせない。子ども、保護者、行政機関などそれぞれの意見が対立するケースも。東京都の小金井市や武蔵野市など各地の子どもオンブズの活動に関わる半田准教授は「迷ったら子どもの最善の利益(権利条約3条1項)を考えること」と強調する。
さらに、権利が守られているかのモニタリングと啓発の機能も重要だと指摘。「文化として根付くには低学年からの権利学習が欠かせない」とし、自身も小学校の授業に出向く。
自治体には「条例を作って終わりではない。施策を実施する計画やその推進体制、子どもの声を代弁し権利を市民に伝えるオンブズ…。生活の場である自治体がやるしかない」と求める。
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