子どもの権利条約批准30年(上) 思いっきり遊ぶ子どもを支え、虐待から命を守る児童館

加藤祥子 (2024年11月20日付 東京新聞朝刊)
 国連によって「世界子どもの日」が制定されて、20日で70年になる。「子どもの権利条約」が採択されたのも35年前のこの日。日本が条約を批准して30年がたつが、児童虐待やいじめの認知件数は増え続けている。子どもが健やかに成長するために、大人は何ができるのか。2回にわたって考える。
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児童館のホールでバレーボールを楽しむ中学生たち。カーテンの陰には輪に加わらない子も=名古屋市緑区の緑児童館で

目黒区の結愛ちゃん事件きっかけに

 「『あほみたいにあそぶ』は とてもとてもだいじ」。こう書かれた模造紙が張られた階段を上ると名古屋市の緑児童館にたどり着く。11月上旬には、こまを回す小学生や、マージャンを楽しむ高校生の姿があった。

 メッセージを掲げたのは館長の塚本岳さん(50)。6年前に東京都であった5歳児の虐待死事件がきっかけだった。「あそぶってあほみたいだからやめるので もうぜったい、ぜったいやらないからね」と、保護者への反省文があったことを知った。「衝撃だった。子どもは遊んで育つのに」。権利条約では、遊びと休息の権利(31条1項)が定められている。

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 中学生の男女7人が夕方、1時間近く夢中でドッジボールやバレーボールを楽しんでいた。以前、集合住宅の前でキャッチボールをして大人に怒鳴られたことがある男子生徒の1人は「ここなら怒られない」と息を弾ませた。

 近くの中学2年、大橋彩乃さんは昨夏、友人と流しそうめんを企画。竹から水があふれるトラブルもあったが「達成感があった」と振り返る。やりたいことに挑戦できるのもこの場所だ。

 時々訪れるという愛知県内の小学4年、高野千良(せら)さんはバスケットボールや一輪車で思いっきり遊び、疲れたら漫画を読み、ベンチで寝転ぶ。「自由なのがいい」。館は特にルールは設けず、月に1回、「こども会議」を開き、みんなで使いやすいように話し合っている。

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地域のイベントに向け、箱に絵を描く子どもたち=京都市の修徳児童館で

子どもの考えを支え、児相とも連携 

 京都市の修徳児童館も、子どもの権利を大切にする。館主催の地域イベントを控えた11月上旬、併設する学童保育所では、出店を希望する子が、段ボール工作やダンスの練習に励んでいた。スタッフは必要に応じて手助けをする。

 児童館や学童保育の職員有志でつくる「全国児童厚生員研究協議会」の会長でもある館長の木戸玲子さん(62)は「どうしたらできるのか、子どもたちが考えられるように」と願う。以前、学童をやめたいという高学年の児童の相談に乗り、保護者との交渉に付き添った。自立を支えることも役割だと考えている。

 木戸さんの原点は大津市の児童館での経験だ。20年以上前、満足に食事を取れていない子や、たたかれた痕がある子に出会った。声を受け止め、できる限り寄り添った。

 今は、児童相談所などとも連携する。ひとり親だった母を亡くした小学生とは、キャッチボールする中でさみしい気持ちに耳を傾けた。祖父母の元に引っ越す際、「困ったら電話して」と伝えると、その後の長期間の休みに遊びに来てくれた。「児童館は遊ぶ場所。それだけでなく、自分で選択できる場所、子どもを守る場所でもある」

 とはいえ、木戸さんもスタッフも日々、子どもにどう関わるか試行錯誤する。悩んだ時に、立ち返るのは「それって子どもにとって、どうなん?」という視点だ。 

 

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地域の大人はナナメの関係でいること

 日本では昨年度、子どもの権利条約の精神にのっとった「こども基本法」が施行された。だが、遊びの権利は盛り込まれていない。子どもの権利に詳しい工学院大の安部芳絵教授は、「遊びは子どもに主導権がある。児童館や学童保育では、遊びを通して小さな成功体験を積み上げたり、問題を解決できたりする」と説く。

 遊び以外の権利も保障できるのが、これらの場だ。まず、条約の土台となる四つの原則が重要になる。「生存および発達に対する権利」には、文化的、社会的な発達も含まれ、「意見の尊重」は、言語にならない気持ちを、遊びの中で大人が酌むことでもある。

 また、親などによる虐待からの保護(19条)も役割の一つ。心身の発達が阻まれるほど厳しい習い事などが当てはまる「あらゆる形態の搾取」からの保護(36条)を担うこともできる。

 安部教授は親子を縦の関係、友達を横の関係と捉え、「児童館の大人はナナメの関係でいることが大事」と助言する。子どもと保護者の橋渡し役になったり、子どもの挑戦に適切な手助けをしたりできるという。

 こども家庭庁は、児童館ガイドラインや学童保育の運営指針の改正を進めており、子どもの権利を保障する内容を充実させる。専門委員会の委員でもある安部教授は「全国の施設で取り組みに差がある。改正によって底上げされれば」と願う。

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