【選択的夫婦別姓】過去に却下された通称使用案が再び浮上 選択的別姓求める当事者は「家制度の名残」と指摘

写真・選択的夫婦別姓を求める訴訟の報告会

選択的夫婦別姓を求めて国を訴えた原告らの報告会=東京都港区で

 結婚後も夫婦が同姓を選べるほか、それぞれが婚前の姓を使うことも認める「選択的夫婦別姓」を巡り、制度の導入に反対する一部の保守系議員から、旧姓の通称使用に法的根拠を与える案などが浮上している。従来施策の拡充によって導入を阻止する狙いとみられるが、選択的別姓を求める人が抱える問題の解決にはならず、当事者からの反発は強い。

「お茶を濁さないで」 当事者の訴えと異なる案に

 1月中旬、選択的夫婦別姓を認めない民法の規定などは憲法違反として国を訴えた訴訟の原告や支援者ら約40人が、都内で集会を開いた。原告の1人で都内の団体職員、上田めぐみさん(47)は保守派の動きを念頭に「お茶を濁すことなく、当事者の求める制度にしてほしい」と求めた。

 国会審議に向け、各党で議論が始まった選択的夫婦別姓。制度導入に反対する自民党の保守派は、通称使用の拡大や法制化を唱える。日本維新の会も昨年の衆院選公約で、旧姓使用に法的効力を与える制度の創設を訴えた。いずれも同姓を維持するという保守派の意向を反映している。

 しかし海外では、本名である戸籍名と通称とのダブルネームの使用は理解されにくく、混乱に拍車をかける可能性も高い。一般社団法人「あすには」の井田奈穂代表理事は「海外で二つの名前が記載された戸籍謄本を示して『こちらが本名だ』と説明しても通じず、逆に怪しまれる可能性が高い」と指摘。「通称の法制化はトラブルの根源になり苦痛が上塗りされるだけ。選択的夫婦別姓賛成派と反対派の折衷案でもない」と批判する。

 個人の人格(アイデンティティー)を守りたいとの思いで別姓を望む人にとっても、生まれ持った姓がそのまま認められず、尊厳を傷つけられることに変わりない。別姓訴訟弁護団長の寺原真希子弁護士は「夫婦で話し合えば姓を選択できると言う人がいるが、現在の日本の同姓強制は必ずどちらかが自分の姓をあきらめなければならない制度。配偶者の同意がなくても、自分の意思で決めることができて初めて、姓を選択する権利が保障されているといえる」と力を込めた。

高市早苗

「氏制度のあり方に関する検討WT」に出席した高市早苗氏(右から2人目)=2月12日、自民党本部で(佐藤裕介撮影)

家制度の名残 「執念とも言えるものを感じる」

 戸主が大きな権力をもつ家制度においては、姓が「家」の名称だった。家制度は1947年の民法改正で廃止され、現行民法で夫婦が名乗る姓は「家」の名称ではない。ただ、当時の著名な憲法学者が残した「家破れて氏あり」という言葉が象徴するように、夫婦同姓の義務付けによって、女性が結婚すると男性の「家」に入るという家意識の名残を支えてきた。

 上田めぐみさんは一部保守系議員の案に「廃止されたはずの家制度を温存したい執念とも言えるものを感じる」という。

 通称に法的根拠を与える制度については、戸籍姓が社会的に使われなくなるので、むしろ家族の識別をする戸籍姓の機能を果たさなくなるとの指摘もある。1996年、法制審議会(法制審)による選択的夫婦別姓の導入を含む法案要綱の答申が、自民党の反対によってほごにされた後、当時の法学者有志288人は「通称の法制化は夫婦のどちらかが改姓する現状は変わらず、姓の概念が混乱する」などと抗議した。

 2022年、当時の野田聖子男女共同参画担当相は参院において、法制審で3つの試案が提示されて議論されたことを踏まえ「旧姓の通称使用の法制度に相当する案については、長期的な展望に立った氏の制度として採用することは相当ではないと却下された経緯があった」と答弁している。

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