虫歯菌説を信じて… わが家から失われたもの〈古泉智浩さんの子育て日記〉54
大人の唾液NGを徹底していたら
親の唾液が子どもの口に入ると、虫歯菌がうつってしまう。また、唾液が入らなければ虫歯にならずに済む。という説を信じて、うちでも大皿に載った食べ物を直箸(じかばし)で取らない、鍋料理を直箸でつつかないなどの対策をしていました。
すると、うーちゃんはいつの間にか、大人が箸を付けたものは徹底的に口にしなくなりました。ちょっと潔癖症気味ですらあり、大人の唾液を完全に汚いものとして扱います。
僕は適当な性格で、衛生基準は「食べておなかを壊さなければOK」なのですが、直箸にはそれなりに気を付けて、取り分け専用の箸を使ってきました。しかし80歳の母はその意識が薄く、ちょくちょく直箸で取ります。すると、うーちゃんは「僕はそれ食べない」となってしまいます。
この虫歯菌説を検証する、東京新聞の記事によると、親の唾液の虫歯菌は特に気にする必要はないとのことでした。それより、甘いものを食べ過ぎないこと、フッ素の濃度が高い歯磨き粉を使うことの方がよっぽど重要だそうです。子どもの虫歯は奥歯が8割だそうで、確かにぽんこちゃんの虫歯も奥歯でした。
家族で鍋料理を囲む時間が恋しい
しかしそうなると、うーちゃんが歯磨きをしなくても、虫歯にならなかったことが不思議です。うーちゃんは、1週間歯を磨かなかったことがあるのに虫歯はゼロ。赤ん坊の時、目を離したすきに親のスプーンをべろべろとなめていたぽんこちゃんは、僕が仕上げ磨きをがんばっていますが、虫歯になりました。うーちゃんはお菓子をあまり食べないせいかもしれません。
最近特によく聞くのが、ガムと食感が似ているグミは、ガムと違って虫歯のリスクが高いということです。グミは甘いものばかりで、歯にくっつきやすいからです。ぽんこちゃんは本当にグミが好きで、しょっちゅう食べています。クラスで一番体が大きくて、ぽっちゃり気味です。
うーちゃんはお菓子をそんなに食べませんが、ひどく偏食で、ご飯すらあまり食べてくれません。大人の虫歯菌は気にしなくていいのに、人が箸を付けたものを食べなくなったことは、かなりの痛手です。ぽんこちゃんは、とっくに虫歯になっているので「あんたは大丈夫だよ」と言うと喜んで食べます。
水炊きなどの鍋料理を家族で囲み、気軽に箸でつついて食べるという温かい食文化が、うちからは失われています。一体この虫歯菌説は、どうしてここまで定着したのでしょうか。時間を巻き戻したいです。
古泉智浩(こいずみ・ともひろ)
漫画家。養子の10歳男児うーちゃんと、6歳女児ぽんこちゃんを育てる。
なるほど!
グッときた
もやもや...
もっと
知りたい
虫歯菌、私も20年くらい前にテレビで言っていたのを聞きました。それを聞いた当時は小学生でしたが、母親が愛してやまない弟には虫歯があり、愛されていなかった私には虫歯がなかったのでものすごく悲しい想いをしたのを思い出しました。
最近になり顔のそばで喋るだけでも虫歯菌はうつるとネットで見て、我が子にはキスハグしまくってます。
大人になってからはきちんとした歯磨きが習慣化したのですが、私もその頃まで一切虫歯もなく、そのせいでかなりおざなりな歯磨きでした。そんな私の母はかなり子供大好きな人でしたので、恐らく散々キスもしていたでしょうし、当然直箸にしろ全く気にしては居ませんでした。
そもそもこの説が正しいとするなら、虫歯が無い人は、親から普通の愛情表現を得られなかった人か、代々父母共に虫歯の無い家系でもなければ成立しないのでは?と思っていたので、この唾液媒介説が出たときにはかなり懐疑的でした。
そしてこの説を信じ、配偶者や祖父母の示す親愛の表現や接し方に憤ったと言う話を見聞きした時に、本当にそれが子供のために正しい行為なのかと深く疑問に感じていました。
研究が杜撰だったのか、報じられ方が表面的だったのか分かりませんが、かなり多くの親たちを不当に不安にさせた話でしたよね。