保育園の入所、申し込む前に… 園の「家計簿」で保育の質をチェックしよう!
都のサイトで支出の内訳がわかる
―財務情報って何ですか。どんなことが分かるのでしょうか。
東京都は、保育士の処遇改善のための「キャリアアップ補助金」の交付を条件に、各保育園に財務情報とモデル賃金を提出させて、都の子育てポータルサイト「こぽる」で公表しています。「こぽる」では都内の認可保育所のほか、0~2歳児の小規模保育施設、認可外保育施設、幼稚園も含めた施設の所在地や設置主体、定員などの情報を掲載しています。このうち、2017年度に保育士の賃金アップを目的にしたキャリアアップ補助金制度を使った認可保育所などは、「施設・事業所等関連情報」の中に「財務情報」「モデル賃金」の項目があり、クリックすると各施設が都に提出した資料がPDFで見られるようになっているのです。
社会福祉法人や株式会社などが運営する認可保育所の収入は、園児の年齢、人数に応じて行政から出る委託費(税金と保護者が支払う保育料)と、補助金がほとんどを占めています。これをどこにどう使ったか、各施設の支出の内訳が分かるのが財務情報。いわば園の「家計簿」ですね。
モデル賃金→保育士の給料は十分か
モデル賃金は、保育士の経験年数などに応じた基準となる給与が記載されています。自分の子どもを通わせる、もしくは通わせている施設は保育士に十分な給料を支払っているのか、保育以外に多額の費用が使われていないかをチェックできます。
これら財務情報やモデル賃金を見れば、保育園の運営スタンスが分かります。保育園選びの参考にするのはもちろん、保育士の賃金や園の運営に疑問がある場合は、運営する事業者に申し入れたほうがいいと思います。
「人件費」5割を切ったら要注意
―財務情報にはたくさんの項目が並んでいます。具体的にどこを見ればいいですか。
ぜひチェックしてほしいのは、支出の中の「人件費」「給食費」「保育材料費」の3つです。
まずは人件費。ここには保育士のほか、園長、事務員、給食調理員などの給与が含まれています。でも、金額だけでは適切かは分かりませんね。財務情報2枚目下の「事業活動収入に占める人件費の割合」が何%かを確認しましょう。
この人件費の割合が5割を切ったら要注意です。保育士が不足しているか、保育士に支払われている賃金が低い可能性があります。私がかつて取材した園には3割という園もありました。
都の報告では、キャリアアップ補助金を受けた認可保育所の人件費率の平均は65.2%。社会福祉法人の運営する施設は平均70.5%に対し、株式会社では同51.9%と20%近く違います。若い保育士が多いことや、給食調理員や事務員を外部委託している園ではその分の人件費が加算されず、業務委託費に計上されるため、数%下がるなどの理由もあります。財務情報の2枚目には保育士らの平均経験年数も書かれているので、これらと合わせ、平均値は1つの目安になるでしょう。
派遣が多い→保育士確保が困難?
モデル賃金も見てみましょう。都の報告では、キャリアアップ補助金を受けた認可保育所に勤める保育士の平均賃金(賞与も含む)は、社会福祉法人で月額35万6292円、株式会社で月額29万1486円です。年齢や経験年数などにより金額は変わりますが、調べた園のモデル賃金があまりにも低い場合は保育士の労働環境は良くないかもしれません。保育士に十分な賃金が行かない状況は、保育士不足や過重労働に拍車をかけます。
財務情報の人件費の内訳を見ると、保育士など職員が常勤か、非常勤か、派遣かなどの傾向も分かります。人件費支出の中の「非常勤職員給与支出」「派遣職員費支出」の金額を見ると、例えば、派遣職員が多いところは保育士の人材確保が難しい様子がうかがえます。
「給食費」「保育材料費」の意味
次に給食費もポイントです。この金額は、給食が自園調理か業者への委託かによって金額に差が出ます。自園調理の園ならば、近隣の同じ規模の保育園をいくつか比べてみましょう。もし、給食費が他園に比べてかなり高いなら、総菜を使っている可能性があります。一方、低いと手作りで費用を抑えている場合もありますが、無理なコスト削減をしていることも。弁当持参日が多い園は要注意です。
最後に、金額に差が出る項目として、保育材料費も注目です。園児が使うおもちゃや遊具、本、保育で使う折り紙やクレヨンなどの費用です。私がかつて取材した園では、コスト削減のため、保育士に牛乳パックなどで手作りおもちゃを作らせているところもありました。手作りおもちゃ全てを否定はしませんが、園に手作りおもちゃしかなかったり、絵本が数冊しかなかったりした場合は、必要なお金が子どもたちの保育に使われていない可能性があります。
おもちゃが不足すると、子ども同士の取り合いからトラブルになり、保育士の負担も増します。金額を人数で割り、単純に園児1人当たり年間いくらが使われているのかを見てみましょう。子どもの保育の質に直接関わる支出だけに要チェックです。
「委託費」から見えることもある
―他に確認した方がいい項目はありますか。
細かなところでは、「旅費交通費支出」が何十万円と高額の場合、保育士不足で遠方にリクルートに行っている可能性がありますね。
「業務委託費支出」には、英語やリトミック講師への費用も含まれます。給食を委託している保育園は、この項目が1000万円を超えることもあります。園の規模にもよりますが、2000万円を超える場合、保育園を運営する法人グループ内で高い金額で業務を委託している場合もあるので、目を光らせましょう。
「賃借料支出」は、特に株式会社運営の保育園の場合は、土地や建物を借りるため高くなりがちです。ただ、賃借料の金額が高い保育園は、その分どこかを削っているともいえます。保育に関わる部分で無理なコスト削減をしていないか、確認しましょう。
改善へ声を上げることが大切です
「事業区分間・拠点区分間・サービス区分間繰入金支出」は、同一法人の他の保育園に回されていることもあります。運営している法人グループが急速に新設園を増やしている場合は、この額が高額になっているかもしれません。取材した例では、収入の5~6割が他園に流用されていた園もありました(詳細は月刊「世界」2019年11月号でも書いています)。
保育園選びでは、外から見えないこうしたデータも重要になります。委託費がきちんとその保育園のために使われているのか、保護者もチェックし、おかしいと思った場合は改善するように声を上げることが大切だと思います。保育の質をみるとき、数字から見えてくることもたくさんあります。
◇東京都が公開している報告書はこちら→「保育士等キャリアアップ補助金の賃金改善実績報告等に係る集計結果」
なるほど!
グッときた
もやもや...
もっと
知りたい