保育所、幼稚園、認定こども園…複雑化する就学前の保育・教育制度 こども家庭庁発足でどう変わる?

(2023年3月27日付 東京新聞朝刊)

【ニュースがわかるAtoZ】保育所は厚生労働省、幼稚園は文部科学省の所管。さらに内閣府も加わり、認定こども園や新スタイルの保育施設も設置された。複雑化した就学前の子ども施策は4月から原則、幼稚園を除き、新設のこども家庭庁に一本化される。同庁はどの施設にも通っておらず、行政の支援が届きにくかった「未就園児」対策にも力を入れる。

待機児童対策で「量」は拡大したが

 就学前の子どもの通い先のうち、厚労省が所管する保育所は1948年施行の児童福祉法で設けられた。一方、幼稚園は文科省の所管で学校教育法に基づき運営される。所管の違う「幼保二元体制」が長く続いた。

 待機児童対策もあり、内閣府と厚労省、文科省が関わる「認定こども園」が新設されたのは2006年。従来は3歳以上が通っていた幼稚園に2歳以下も受け入れ、教育時間終了後も保育する「幼稚園型」など、成り立ち別に4種類を設定した。

 その後も待機児童解消の名の下に、さまざまな制度が継ぎ足され、施設の多様化が進む。2015年には「子ども・子育て支援新制度」が始まり、市区町村が認可して0~2歳児の預け先となる小規模保育事業が新設された。保育士の有資格者の有無などでA-Cの3タイプに細分化。保育士資格なしでも研修修了者がいればよい「家庭的保育事業」や、従業員の0~2歳児らをみる「事業所内保育事業」なども追加された。

 新制度では、保育士や幼稚園教諭の資格がなくてもよい形態が生まれた。「国の規制緩和で『認可』の中にも差を生み出した。それ以降、基準の低い認可外の保育施設も公然と認める流れにつながった」。村山祐一・帝京大元教授(保育学)は新制度の弊害を指摘する。

園庭がない… 広がる「質」の格差

 2016年には内閣府所管の「企業主導型保育事業」も新設。「事業所内保育事業」と違って市区町村の認可は不要で、職員は半数以上が保育士なら良いなど基準が緩い。にもかかわらず、認可施設並みの手厚い助成金で後押しした。当時の安倍政権の待機児童対策の目玉として始まり、2022年までに定員10万人超の施設が都市部などに整備された。ただ助成金目当ての事業者の参入も目立ち、架空工事や整備費の水増し請求も各地で発覚した。

 施設の多様化で「選択肢が増えた」と歓迎の声もあるが、都市部では園庭なしの認可保育所が増えるなど環境の格差は広がった。保護者団体「保育園を考える親の会」(東京都豊島区)の2022年度の調査では、園庭保有率は千代田区17.4%、中央区18.4%などと2割以下の区もある。村山元教授は「政策は子どもの育ちや環境を中心に考えるべきだ」と話す。

 こうした保育施設は4月から基本的にこども家庭庁の所管に移るが、幼稚園は文科省に残った。縦割り行政が成育環境の平等や業務効率化に向けた「幼保一元化」を阻んでいる。

配置基準と労働条件の見直しが急務

 こども家庭庁には保育現場の環境改善や、行政の手が及びにくい未就園児への支援に期待がかかる。

 厚労省の2022年4月1日時点のまとめでは、待機児童は全国で3000人を下回った。希望する保育所に入れないなど課題は残るものの、2017年の約2万6000人から大きく減った。

 保育施設の「量」が充実したためとみられるが、保育士不足や園庭のない保育所の増加など「質」の問題は今も残る。例えば保育士1人で4・5歳児30人を受け持てるという国の最低基準は1948年から変わらない。また、東京都の実態調査(2018年)では保育士の退職理由の上位に「給料が安い」「仕事量が多い」が挙がり、労働条件の見直しも急務といえる。

未就園児を預かるモデル事業に着手

 従来の課題に加え、こども家庭庁は保育施設や幼稚園に通わない未就園児の支援も手がける。2019年度時点の推計で、未就園児は1歳で53万人(55.2%)、幼稚園の受け入れ可能年齢となる3歳でも3.3万人(3.5%)いる。中には、保護者が外国出身で日本の保育制度を知らない▽保護者に被虐待歴や精神疾患がある▽子どもの発達に課題がある▽経済的な困窮-などの背景があるケースもみられる。

 支援策の1つとして、こども家庭庁は2023年度、保育所などの空き定員を活用して未就園児を定期的に預かるモデル事業を始める。週1~2日のペースで預かり、保護者面談などを通じて継続的に支える方針だ。

 これらの施策のベースとなる「就学前のこどもの育ちに係る基本的な指針」は、2023年度中に策定される。指針に関わる有識者懇談会メンバーで、認定NPO法人「児童虐待防止全国ネットワーク」理事の高祖常子(こうそ・ときこ)さんは、未就園児支援について「子どもは保育所や幼稚園に通うなどし、近い年齢の子や保育士らと関わる中で成長する。専門職の目が入ることは虐待を防ぐ意味でも重要」と強調する。

こども家庭庁はプッシュ型の支援を

 また、こども家庭庁はデジタル技術の活用推進も掲げる。高祖さんは「支援を必要とする親ほど、時間や心の余裕がなく、子育てサービスに届かないことが多い。困っている人に行政側から情報を届けるプッシュ型の支援や、申請などのデジタル化が必要だ」と話す。

 こども家庭庁は「保育所保育指針」や「幼稚園教育要領」を文科省と共同で策定するなど連携を強化する。同庁には、子ども施策で他省庁の対応が不十分な場合に是正を求める「勧告権」もあり子どもの権利を守る司令塔として機能を果たせるか注目だ。

コメント

  • 先ず、保育士不足。教員不足。の解消が必要ですよ。 働き方改革というが、業務が増えてしまい。若い人が頑張っているが、モチベーションが下がってきている。 処遇改善がある。とは言え、税金、年金で
    かつ 無回答 40代 
  • 2019年の息子は認可は入れず。市役所の対応は冷たいもの…「認可外行ってください。1歳はもっと認可は入れないですよ」と。でも市は2019年から待機児童ゼロと言っているようです。 幸い補助金のでる
    認可外保育園児母 女性 40代