自治体の保育所チェックがリモートでいいの? 実地検査の「例外」容認 保護者や専門家から不安の声
保育の質がさらに下がるのでは?
「こども家庭庁を新設して『こどもまんなか社会』を目指すというのに、なぜ例外を認めるのか」。保育事故遺族や研究者らでつくる「保育の重大事故をなくすネットワーク」の岩狭匡志さんは憤る。
内閣府によると、2021年に報告された認可保育所の重大事故は1191件で、2015年の約3.5倍。岩狭さんは「緩和が、保育の質をいっそう低下させるのでは」と不安を隠さない。
人手不足やコロナ禍で実施率低下
実地検査は自治体職員が認可保育所などに出向き、人員配置や保育内容、温度や採光などの環境、会計など多岐にわたって調べる。
認可保育所への検査実施率は、人手不足などで全国が62.5%(2019年度)、施設の多い東京都は8.2%(同)。対面が難しくなった新型コロナウイルス禍の2020年度は全国が38.7%、東京が4.4%に下がった。「保育園を考える親の会」顧問の普光院亜紀さんは「例外を設けることで実施率は今より悪くなるのではないか」と懸念する。
静岡の園児バス置き去り死が波紋
実は、検査緩和を求めたのは自治体側だった。コロナ禍の2021年、地方分権改革に関する提案として大阪府茨木市が書面やリモートでの監査を認めるように求め、首都圏では川崎市や埼玉県川口市が賛同した。
厚生労働省は2021年末、実地検査の義務を児童福祉法施行令から削除する方針を示したが、保護者らの反対もあり見直しを検討。昨年8月、天災などで実施できない場合や、前年度の検査で問題ない施設などは実地でなくてもよいとする例外規定を設ける案を示した。
ところが、昨年9月に静岡県牧之原市でバスに置き去りにされた園児が亡くなる事故が起きるなど、保育施設の安全管理を再考する声が上がり、11月に予定していた施行令改正を見送っていた。
行かないと分からないことがある
「監査に柔軟性を持たせ、実効性を高める」。実地以外の検査方法を可能にした施行令改正の狙いを、厚労省の担当者は説明した。3月22日に閣議決定され、2023年度からの運用が決まった。
保育施設が増え、質の格差が問題となる中、東京23区で監査を担当する職員は「雰囲気や音、におい、保育士の表情や子どもへの接し方など、行かないと分からないことも多い」と明かす。豊島区での検査を端緒に、大手事業者による約2000万円の不正受給が発覚したこともあった。
職員は「人員を増やすだけでなく、保育から会計まで広い専門知識とノウハウを持つ人材育成の難しさもある」。実効性を高めるために不可欠な「人」へのてこ入れはされぬままだ。
保育行政に詳しい大阪商業大公共学部の的場啓一教授は「子どもの命を預かるサービスの監査は本来、地方分権の文脈で考える話ではない」と強調。「誰のための監査か、国や自治体は目的を達成するための手だてを示すべきだ」と話す。
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