お笑い芸人 すがちゃん最高NO.1さん 中1から一人暮らしになったけど…豪快なおやじこそナンバーワン

神谷慶 (2024年7月14日付 東京新聞朝刊に加筆)
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亡き父親とのことについて話すお笑いトリオ「ぱーてぃーちゃん」のすがちゃん最高No.1さん(松崎浩一撮影)

家族のこと話そう

 

5人暮らし 3歳で母が亡くなって

 生まれたのは東京です。お母さんは病気で、「出産すると危ない」と言われていたのに俺を産んでくれたと聞いています。入院中に幼い俺がお見舞いに行っても、お母さんと認識した上でいなくなってしまうと寂しいだろうから、「おばちゃん」と言わせていたそうです。すごく、感謝しています。

 3歳でお母さんが亡くなり、おやじの故郷の山形へ引っ越しました。一戸建ての実家で、おやじの姉、祖父母との5人暮らし。でもまさか、中1の春から5年間、一人暮らしすることになるとは思いませんでした。

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中学生時代のすがちゃん最高NO.1さん(本人提供、加工も)

 最初に離脱したのはおやじ。大柄で、「カッコつけ」で、とにかく豪快な人。酒、ギャンブル、女性が大好きで留守がちでしたが、小3の時に全然帰ってこないなと思っていると突然、子どもたちを連れた女性と家に上がり込んできて「俺は今日から、こいつらとこの家で住む!」と。知らない間に再婚していたようです。普段は寡黙なじいちゃんが追い返しましたが、おやじはそれからたま~に帰ってくるだけになりました。

 小5の時、母親代わりの伯母さんがストレスに耐えかね、東京へ。少ししてじいちゃんが亡くなり、中学入学後すぐ、ばあちゃんも体調を崩して施設に入りました。伯母さんから東京に来るように言われても、親譲りのカッコつけで断ってしまいました。

一人暮らしを隠すのが「カッコいい」

 一人暮らしをしていることを周囲には隠していました。隠した方が、影があってカッコいいと思って。それに、「普通の家庭じゃない」と思われるのがいやだったし、そもそも母親がいないことも、ばれたくなかった。「普通」への憧れがとても強くて、子どもの頃の夢は公務員でした。

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 友達の家に行き、お母さんたちが家事をする様子を盗み見て、洗濯の仕方やおいしいみそ汁の作り方を覚えました。友達の体操服から漂ってきた柔軟剤のいい匂いを再現したくて、体操服にせっけんを塗り、体に白く膜が張ってしまったこともありました。

 おやじは、外で何をしていたんでしょうね。「ビッグなビジネスをしている」としか言いませんでした。家は当然貧乏で、電気が止まり、ろうそくで暮らした時も。でも、恨みや憎しみを抱いたことは一度もないんです。何だかんだでおやじの愛情は感じていた。優しいし、何より、一緒にいると面白かったんです。

亡くなる前日、俺の目を見ながら…

 3年前、おやじが「狙っている」という女性から、「お父さん、血液のがんなの」と告げられました。酒とたばこをやめるのが嫌で病院に行かない、と。そうこうするうちに救急搬送されて、「長くても1カ月」と宣告されました。病室に行くと、おやじは女性の看護師さんを「ナンパ」しながら「あれ俺の息子。すがちゃんさいこうナンバーワンって芸人でよ。でも菅野家のナンバーワンは俺じゃい!」と豪快でした。

 何回目かの見舞いの日、おやじが本気の顔で「酒買ってこい」と。でも、渡した缶ビールのフタを開けられなかった。乾杯だけすると、俺の目を真っすぐ見て、「俺はよ、ほんと好き勝手、生きてきたけどよ。自分がカッコいいと思ったことだけ、信じてやってきた。だからおまえもナンバーワンっていう、その名前にふさわしいカッコいい生き方をしろ」と。その翌日、亡くなりました。

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 担当の看護師さんから、「苦しくて、私に弱音を吐くこともあったけど、息子さんの前では気丈なお父さんをしていてカッコよかったです」と聞かされました。良い父親だったとは到底、言えませんが、「すがちゃんさいこうナンバーワン」って、俺にとってはずっとおやじのことです。

 亡くなって5カ月後の正月番組をきっかけに、ようやくテレビに出られるようになりました。見てほしかった。今生きていたら、俺にあやかって、すごくモテたろうに。おやじ、もったいねぇな。

孤独な子どもたちへのメッセージ

 今、自分が孤独だと感じている子たちへ。自分は一人暮らしでもたまたま、前向きに生きてこられましたが、どうにもつらかったら誰かを頼った方がいいと思います。

 その上で、今のつらさや悲しみは、未来の自分の影をつくってくれます。いつか誰かと、笑い話や思い出話として分かち合える日が来ることを楽しみにしながら、できるなら孤独に酔いしれてみてください。影がある人は、色気があって、カッコいい。カッコいい人の周りには人が集まってくるから、孤独じゃなくなる。そのための準備期間と思ってほしいです。

すがちゃん最高NO.1(すがちゃんさいこうナンバーワン)

 1991年生まれ、山形市出身。2021年に結成した、奔放なギャル2人とチャラ男の異色お笑いトリオ「ぱーてぃーちゃん」のツッコミ。生い立ちをつづった「中1、一人暮らし、意外とバレない」(ワニブックス)が発売された。

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  • siro says:

    山形に在住です。多分、菅ちゃんと同学区で家も近かったと思います。娘が2つ下で中学一緒。こんな近くにいて、あの時、一人暮らしして頑張ってた子がいたんだと思うと、応援したい、今はただそれだけです。

    息子は芸人になる、といって大学中退し上京しました。3年ほど頑張ってましたが、今は違う仕事をしてます。芸人になるって大変な事だと思います。もっともっと大きくなってください。地元山形から応援してます。

    siro 女性 50代
  • sagaty says:

    お笑い芸人って割と複雑な家庭の出が多いと聞くけど、彼もその中の1人だったんだと初めて知った。そんな影を背負って活躍してるんだと思うと、彼に対する見方が、変わり応援したい気になった。

    sagaty 男性 50代

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