〈坂本美雨さんの子育て日記〉85・9歳の娘に漢字で追い越され、教えてもらう側になった私

(2024年12月18日付 東京新聞朝刊)
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冬の柔らかい日差しを浴びる娘。今の娘と同じ9歳の頃、私は…

坂本美雨さんの子育て日記

本当は漢字で書きたいのだけれど

 もうすぐ娘の冬休み。3年生も2学期の終わりに近づき、漢字テストに向けて珍しく練習問題なんかを作って一緒に勉強していたら、いつのまにか娘に漢字で追い越されていたことに気づいた。

 私がニューヨークに引っ越したのは今の娘と同じ、9歳の頃。日本で小学3年生まで暮らしてから、いきなり現地の小学校に通い、英語は体当たりで自然と身についていったけれど、日本の教育はそれっきり。日本語の本が好きだったので、読むことやボキャブラリーはなんとか自力で習得してきたけれど、書くほうはさっぱり。そのうち日常にパソコンが入ってきたこともあって、全く上達しないまま大人になってしまった。

 どれだけ書けないかを告白すると、例えば娘のテストの中では、「班」や「絹」は、形はわかるけれどちゃんと書く時には不安になりケータイで調べてしまうレベル。サイン会などでも、本当は美しく漢字で宛名を書きたいのだけど、お名前を間違えてしまうのが申し訳ないし、調べながら書くのも恥ずかしく、ついつい英語に逃げてしまっている。

 「『総』は『糸、ハム、心』だよ」なんて教えてもらいながら、一緒に勉強している同級生。これからは教えてもらうばかりになるのだろう。

世界を自分の体に吸い込むように

 反対に私からは、英語を伝授している。教える、という雰囲気になるとお互い身構えてイライラしかねないので、お風呂の壁に張った知育ポスターを見ながら簡単な単語を教えたり、好きな英語の曲の歌詞を書き出して歌ってみたり。

 発音をまねようと、わたしの口元をじっと見ている娘を見るのが好きだ。発音には、唇の形や舌の場所、息の吐き方や勢いなどさまざまな要素が関係していて、それらをよーく観察して取り入れようとしている、その様子がとてもいとおしくなる。大げさな想像だけれど、その目から、世界を自分の体に吸い込もうとしているようだなと思う。

 そういえば、今年も娘といろんな舞台を観に行ったのだけど、入り口でもらうチラシの束をいつも熱心に眺めていて、私も同じなのでうれしくなり、チラシ見るの好き?と尋ねると、「好き。だっていろんなことが知れるから」と言っていた。

 そうだよなぁ、私たちは知らないことだらけ。たまに疲れて、知ろうとする気持ちが薄れてしまうけれど、こうして娘と一緒にいると、新たに目が開かれるのだ。

坂本美雨(さかもと・みう)

 ミュージシャン。2015年生まれの長女を育てる。SNSでも娘との暮らしをつづる。

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