「親の体罰禁止」法案成立へ…でも踏み込み不足 「教育上必要」なら体罰を許すことに
23区や中核市の「児童相談所の設置」は義務化しないまま
「一律に義務化することは適切でないという声が寄せられている」
安倍晋三首相は、改正案を可決した24日の衆院厚生労働委員会で、中核市(58市)や東京都の23特別区に児童相談所の設置を義務づけなかった理由について、そっけない説明に終始した。
児童虐待事件では、児相が問題を把握しながら対応が後手に回るケースが多く、児相の数も質も改善が必要との声は強い。都道府県と政令市には児相の設置義務があるが、中核市や東京23区にはない。中核市で自前の児相を持つのは金沢市、神奈川県横須賀市、兵庫県明石市だけだ。
与野党の修正協議で、野党は中核市などにも設置を義務づけるよう求めたが、与党は最後まで拒否。財政上の理由で設置に消極的な自治体への配慮とみられるが、「児相がカバーする人数が多すぎて、子どもを守る仕組みが行き渡らない」(立憲民主党の阿部知子衆院議員)との懸念は強い。
表現が曖昧 野党「正当な体罰はない」 与党、修正に応じず
体罰禁止についての表現も曖昧との批判がある。
改正案は、親権者による体罰を禁じ、「民法の規定による範囲を超える行為により懲戒してはならない」などと定める。「親権者は、監護及び教育に必要な範囲内で子を懲戒できる」とする民法822条を踏まえた表現だが、「教育上必要な懲戒」と称した体罰を許すことになりかねない。
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野党は「正当な体罰があるという余地を残さない規定にすべきだ」(共産党の高橋千鶴子衆院議員)と修正を求めたが、与党は応じなかった。厚労省は、体罰の定義についてガイドラインを作るとしている。
民法の懲戒権に関し、改正案は施行後2年をめどに必要な措置を講ずるとしている。野党からは「2年間ゆっくり検討している暇はない」との批判が出た。
専門家「法改正の効果は予算次第。制度設計できているのか」
国がどこまで予算をつけるかで、実効性が左右されそうな項目も多い。
改正案は、児相に医師と保健師を配置し、いつでも弁護士が助言できるようにするなど、児相の体制強化を前面に出した。これらの人材を確保するには十分な予算が必要だ。
4月に児相を開設した明石市の泉房穂市長は、国会に参考人として出席した際に「中核市が児相をつくることは可能。課題はお金と人だ」と、児相を増やすためにも国の財政支援が必要と訴えた。
だが、これまで国が十分な予算措置を講じてきたとは言えない。2014年度の厚労省調査では、児童虐待防止を含む「社会的養護」(困難な境遇の子どもを社会で養育すること)にかける国の予算は、国内総生産(GDP)の0.02%。米国(2.6%)などと比べて大きく見劣りする。根本匠厚労相は「低水準にあるのは事実」と認める。
花園大学の和田一郎教授(子ども家庭福祉)は「社会福祉養成系の大学を卒業した学生は、厳しい社会福祉の現場を志望しにくい。待遇が悪いからだ」と説明。改正案に関し「財政面も含めた制度設計ができているのかと問いたい。法改正の効果は予算で決まる」と指摘する。
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