子どもが政治と選挙に興味を持つには? 普段の会話が大切です 小さい頃から「自分で決める」「認められる」習慣を
主権者教育とは
国や社会の問題を自分の問題として捉え、自ら考え、自ら判断し、行動していく主権者を育てるための教育。2015年の公職選挙法改正で選挙権年齢が18歳以上に引き下げられ、各地で選挙管理委員会などが出前授業や模擬投票を行う取り組みが加速した。
伝え続けた「意見を言うことは大事なことだよ」 浦和大学社会学部 林大介准教授
「自分で選んだ」という当事者意識
―著書(『「18歳選挙権」で社会はどう変わるか』)などで、家庭や学校で、もっと議論することが大事だと説いています。
子どもたちは「みんな違ってみんないい」と学んでも、実質的には違いは認められない。「違ってちゃダメだよね」と思っています。大人が「そういう考え方もあるよね」と認めてあげてください。言葉や説明が足りない時は「こう言えば伝わるよ」とフォローしてください。大人も何でも知っているわけではありません。子どもと一緒に学んでください。「それはどういうことなの」と親が子どもに聞く場面もあるでしょう。
新型コロナ感染が広がる中で、政治が全て解決してくれるわけではないことが見えてきました。自分たちでより良いと思うものを選び取っていくのか、受け身になるのか、「コロナ前に戻りたい」と考えるのか。「正解のない問い」に向き合い、「自分で選んだよね」という当事者意識が必要です。
意見を認められることが自信になる
―高校生、中学生、保育園児の3人の父。ご家庭ではどうしていますか。
親子の会話は多い方だと思います。小さい頃から「意見を言うことは大事なことだよ」と言い続けてきました。2歳でも2歳なりに意見を持っている。どの靴下を履いていくとか、下着は上下で同じ色にしたいとか。「自分で決めた」「認められた」というのが自信につながります。「大人が選んだ方が楽だけど、ほかに被害が及ぶわけでなし、本人が満足しているんだったらいい」。上の2人と年の離れた3人目ができて思えるようになりました。
平日の昼間に高校生の長女からLINEで「ブラック・ライブズ・マターって何?」と聞かれたことがあります。なぜ興味を持ったか聞いてみたら、若者に影響力のあるモデルがインスタグラムのライブで話していた、と。子どもたちが身近に感じている人の影響は大きいですね。
日頃から「会話のキャッチボール」ができていると、政治的なことだけでなく、困り事や不安も相談できるようになると感じています。皆さんも忙しい日々だとは思いますが、5分でも10分でも、子どもと会話する時間をつくり出してください。
大人も権利行使の仕方を知らない
―「若者の政治離れ」と言われています。当事者意識が持てないのは、なぜ?
政治が自分の生活に関わっているという実感がない、つまり、生活と政治がかけ離れているからでしょう。身近な学校生活を例にとっても、自分が関わることで改善された経験がない。板橋区で小学生(当時)が公園利用について区議会に陳情し、状況が変わったように、公園行政も政治で決められています。言えば改善できるのに、権利行使の仕方を学ぶ機会がなく、子どもだからと大人が何でも決めてしまい、半人前扱いされている。大人自身も、権利行使の仕方を知らない人が多いですよね。
「人と違う意見でもいい」安心感
―林先生が教える学生も、そうですか?
最初は、自分の意見は書けても話せない学生が多い。でも、授業で毎回、ディスカッションをするうちに変わっていきます。同じテーマでも違う感じ方があり、それを表明していい、結論が同じだけどプロセスが違う、違っていいんだという安心感が生まれます。
日本財団が、日本やインド、中国、イギリス、アメリカなど9カ国で行った18歳意識調査にあるように、日本は「社会課題について、家族や友人など周りの人と積極的に議論している」という割合が低い。
誰に投票すれば?という親世代へ
―「選挙で誰を選べばいいか分からない」という親世代にアドバイスを。
選び方はいくつかあります。自分と全く同じ考えの人はいません。基準を決めてみてください。自分が大事だと思うことに共感できる人、政策抜きに女性なのか、若いのか、といった属性、この人には入れたくないという消去法もあるでしょう。
候補者のポスター掲示板も主権者教育の入り口になります。小さい子なら「見た目でどの人がいい?」から始まって、文字が読めるようになればさらに会話が広がります。「自分も大人になったら、こういう人たちの中から選んで投票するんだな」という意識付けにもなります。自分が誰に投票するか、子どもに言いたくなければ言わなくて構いません。「こういう政策の人に入れるよ」「あなたはどういうテーマに興味があるの?」と、子どもの年齢に応じて聞いてみてください。
林大介(はやし・だいすけ)
1976年3月、東京都生まれ。浦和大学社会学部准教授。法政大大学院社会科学研究科の修士課程(政治学専攻)を修了後、障害児介助員、文部科学省専門職などを経て現職。模擬選挙推進ネットワーク事務局長、子どもの権利条約ネットワーク事務局長。主権者教育、子どもの社会参画などをテーマにしたワークショップの企画や執筆、講演などを各地で行っている。
親はまず、自治体の子育て支援制度を調べてみましょう NPO法人「DAKKO」横張寿希代表
子育て世代に”政治”の余裕がない
―「子育て世代と社会をつなぐ」をテーマに活動しています。具体的にどんなことを?
東京都文京区内で子育て広場を運営しています。また、世田谷区の子育て支援団体とワークショップを開き、子育て中の保護者が区の職員や区議会議員に子育ての悩みを伝え、一緒に解決方法を探りました。2019年4月の統一地方選の際は、投票先選びの参考にできる質問を保護者と一緒に考え、立候補予定者に「子育て世代は自分の望む子育て環境を選べていますか?」「若者・子育て世代の投票率向上のために必要なこととは何ですか?」などのアンケートを行いました。
もう一つの活動の柱は主権者教育です。「10年後になりたい自分」になるために必要な手段・制度を考え、多数決だけでなく議論により作られる政治を体感する中高生向けのワークショップを開いています。
―学生時代から政治に関わってきたそうですね。
両親が政治に関わっていたり、家でよく政治の話をしたりというわけではありません。いい意味で放任主義で、好きなことをやらせてくれました。「社会科が好きだから」くらいの理由で法学部に進み、地元選出の国会議員の事務所で4年間、選挙の手伝いなどをしました。そこで街おこしや子育て支援の活動をしていて、気づいたんです。「皆さん、家族のことで精いっぱいで、政治のことを考える余裕がないな」と。
「決める習慣」が自己肯定感に
―子育て世代は何を入り口に政治を考えればいいでしょうか。
世田谷でワークショップをやって、自治体の子育て支援制度を知らない親が結構多いことに気づきました。まずは、身近な子育てについての課題を解決する制度が自分の住む自治体にあるか、調べてみてください。
それと、自分のやりたいことは何か、自分はどうしたいかを考えて欲しいのです。例えば、「周りが0歳から保育園に入れているから」という理由で、育児休暇からの復帰時期を決めるのではなく、「キャリア形成のために早めに復帰する」「3歳までは仕事をセーブして子育てしたい」というように。そして自分の選択に近い政策を掲げる政党や候補者を見つけてください。でも、これが難しいんですよね。今の子育て世代は小さいころから「親や先生の言うことを聞け」「宿題はやらねばならない」と言われて育ち、自己決定の余地がなかったから。
だからこそ、自分たちの子どもには、自分のことを自分で考え、決める習慣をつけてあげてほしい。「このキャラクターが好きだから、毎日同じ服」でもいいと思いますよ。
神戸大の研究で、所得や学歴より「自己決定」が幸福度を上げるという調査結果が出ています。進学や就職に関して、自分で決めた人ほど幸福度が高いのだそうです。自分が決めたことだから、結果にも責任が生まれるし、うまくいけば自己肯定感も高まる。こうした経験をすると「自分1人くらい選挙に行かなくても変わらない」「行っても意味がない」という思考にはならないのではないでしょうか。
「誰に投票?」理由も答えよう
―わが子に「選挙で誰に投票したの」と聞かれたら?
素直に、理由も答えてください。自分の考えを伝える会話のキャッチボールにもなります。会話のキャッチボールができない家庭は、「何を言っても、やっても意味ないじゃん」と子どもに思われ、政治は「他人にお任せ」になりかねません。
横張寿希(よこはり・としき)
1994年10月、岡山県生まれ。岡山大法学部卒業後、大和総研ホールディングスを経て、2019年、子育て支援や主権者教育を展開する一般社団法人(現NPO法人)DAKKOを設立し、代表理事に。多胎児を育てる家庭に焦点を当てた子育て広場の運営も。民間学童保育を運営する株式会社ペタゴー代表。
なるほど!
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