発達障害のパートナーに苦しむ「カサンドラ症候群」とは? 理解されにくい悩み、自助グループで共有

出田阿生 (2022年6月30日付 東京新聞朝刊)
 一緒に暮らすパートナーなど身近な人が発達障害のため、日常生活で共感し合えなかったり、理解不能な行動を取られたりして苦しむ「カサンドラ症候群」。正式な病名ではないが、周囲に理解されにくい悩みに名前がついたことで、少しずつ知られ始めている。1人で悩まず、自助グループなど相談できる場所を見つけたい。 

カサンドラ症候群とは

 発達障害(自閉スペクトラム症、注意欠陥多動性障害など)のある人と適切な意思疎通ができない苦しみから、うつやパニック障害、自尊感情の低下など心身の不調に陥っている状態。正式な病名ではない。周囲に理解されにくい特徴から、予知能力を信じてもらえない呪いをかけられた、ギリシャ神話の王女カサンドラにちなんで名付けられた。

元夫は「穏やかなロボットのよう」

 「私、体調が悪いんだけど」と話しかけても、「そうですか」の一言だけ。子どものことで相談すると、体が固まり無言になる…。発達障害のパートナーを持つ人の自助グループ「フルリール」代表の真行(しんぎょう)結子さん(53)=写真=は、離婚した元夫を「穏やかなロボットのようだった」と語る。

真行(しんぎょう)結子さん

 元夫は堅実な仕事に就いており、真面目な人。友達に悩みを話しても「男は無口なものでしょ」といなされた。わらにもすがる思いで相談した精神科でも、「相手に求め過ぎでは」とカウンセラーから突き放された。真行さんはひどいうつ状態になり、3年間休職した。

 ある時、知人から「あなたの夫は発達障害では」と指摘された。調べるうち、日本語に翻訳された外国の本でカサンドラ症候群を知った。「自分と同じだ!」。すとんと腑(ふ)に落ちた。「同じような人は大勢いるはず。誰にも分かってもらえないなら当事者で集まろう」と2014年、神奈川県内でフルリールを立ち上げた。

本人は生きづらさを感じないことも

 毎月、語り合いの場を開催し、参加者が体験談を共有する。

  • 出産が近づいて破水し、「タクシーを呼んで」と頼むと、趣味に没頭する夫に「これ終わるまで待って」と言われた
  • 子どもが体調を崩してキャンプの予定をキャンセルすると「自己管理できない子どもが悪い」と夫が激怒した
  • みそ汁の温度を0.1度単位で指定されている

 真行さんによると、誰に相談していいか分からず、何十年も苦しみ続ける人が多かった。パートナーは医者や学者など社会的評価の高い人も多い。勉強もできるので発達障害と気付かれにくく、パートナー自身は生きづらさを感じていないため、当事者間にずれがあって解決に向けた話し合いが難しい。

「夫に尽くすのが良い妻」との偏見

 夫が悩む場合もあるが、カサンドラ症候群は圧倒的に妻が多いという。真行さんは「耐えて夫に尽くすのが良い妻との偏見がある。女性は家事や育児などに追われ、外で気晴らしもしにくい。女性の経済的自立が困難な社会構造も足かせになっている」と指摘する。

 フルリールにはこれまで3000人以上が参加。自治体や医療機関の紹介で訪れる人も増えている。一昨年に著書「私の夫は発達障害? カサンドラな妻たちが本当の幸せをつかむ方法」(すばる舎)も出版した真行さんは「パートナーの特性に応じた関わりを探って」と提案。具体的な選択肢として、

  • 夫と話し合って対処法を実践する
  • 友達や趣味の場をつくり、仲間や生きがいを別の場所で見つける
  • 別居して、たまに会う
  • 離婚する

―などを挙げる。「1人で悩むと問題が深刻化する。相談できる場所につながってほしい」

 都道府県や政令市などが運営する「発達障害者支援センター」は、発達障害のある人の家族への支援も行っている(支援内容は施設ごとに異なる)。

コメント

  • いつも自分のことを優先する夫。私や子供が体調を崩しても、遊びに行きます。そしてそれに触れられないようにする為、機嫌悪そうにします。 そんな夫に疲れ会話がなくなり2年がたちました。最近、夫が発達障
     女性 40代 
  • 結婚13年目、ずっと夫の言動に何で?何で?って思ってきました。大変な時、辛い時も自分から声をかけてくれたり助けてくれたことはありません。こちらからお願いしても気持ち良く動いてくれません。それに対して私
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