手塚治虫の「火の鳥」が初の絵本化 作者の鈴木まもるさん「生きる喜びを伝えたい」
手塚プロから制作依頼「驚いた」
鈴木さんが「火の鳥」と出合ったのは中学生の時。漫画雑誌「COM」で連載されていた。「生と死という大きなテーマは普遍的。登場人物や人間模様、絵の表現など、どれもすばらしくて夢中になった」
絵本化は昨年夏、鈴木さんが出演したラジオ番組を、手塚プロダクションの人が偶然聞いたことがきっかけ。鈴木さんは手塚作品に大きな影響を受け、平和と命をテーマに絵本を描いているほか、鳥の巣を長年研究、収集している。こうしたことを知ったプロダクション側が、子どもでも読める絵本の火の鳥の制作を依頼。鈴木さんは「驚いたとともに、畏れ多かった」と振り返る。
絵本版は、地球の絵から始まる。続いて、海や山、野原、森、湖、川などで多くの生き物が暮らし、命を育む様子が描かれる。それぞれの命はどこからくるのか、死んだらどこへいくのか、なぜ生きるのかを、火の鳥が語りかける内容になっている。
「手塚先生が何を伝えたかったか」
原作は内容的に難しい面もあり、コンパクトにしただけでは伝わりにくい。そこで、「手塚先生が何を伝えたかったか」を考え、小さな子どもたちにも分かりやすいように工夫し、絵本化したという。
鈴木さんは、漫画の中で、永遠の命を持つ火の鳥が炎の中に飛び込むシーンに着目。絵本では、その後、生まれ変わった小さな火の鳥が巣で休み、やってきた動物たちに語りかける場面を新たに描き、原作のメッセージを込めたという。
ありのままで、元気に生きていこう
鮮やかで生命力あふれる絵は水性のアクリルガッシュで描き、生き物が誕生する場面は「神秘的な場面だからこそ、下絵を描かず一発勝負で描いた」という。
絵本の中で、火の鳥は「あなたの命の中には、たくさんの命が集まっている。みんなの命が集まって、今のあなたがいる」と語りかける。鈴木さんは「読んだ人に、生きる喜びを伝えたい。ありのままでいい、元気に生きていこうと感じてもらえたらうれしい」と話す。絵本版の「火の鳥 いのちの物語」は金の星社から刊行。1540円。
手塚治虫のライフワーク「火の鳥」
「火の鳥」は手塚治虫が生涯にわたって描き続けたライフワークとされる作品。1954年に月刊誌「漫画少年」で発表された。その後、さまざまな漫画雑誌で描かれ、黎明(れいめい)編、未来編、ヤマト編、宇宙編、鳳凰(ほうおう)編などがある=写真。89年に手塚が亡くなり、未完のままとなった。各編は独立した物語で、過去や未来、地球や宇宙を舞台に壮大なスケールで描かれる。
各登場人物は永遠の命を持つ火の鳥を捕まえ、その血を飲めば不老不死になれると追い求める。こうした人間の業を描いたほか、時空を超えて存在する超生命体の火の鳥を通じ、人間はどう生きるべきか、生命と死、輪廻(りんね)転生など哲学的な問いを投げかける。
手塚治虫公式サイトによると、手塚は「おのおののエピソードは、どれも生命というものを、さまざまなみかたから描いた」などと説明している。
「火の鳥 いのちの物語」原画展開催中
絵本化を記念し、「火の鳥 いのちの物語」原画展が東京都港区の大垣書店麻布台ヒルズ店Ehonギャラリーで開催されている。
6月2日までで、時間は午前11時~午後8時。入場無料。5月19日は午後1時~3時(受付は午後0時30分から)に作者の鈴木まもるさんのトーク&サイン会も行う。定員は40人。詳しい参加方法などは大垣書店のWebサイトで紹介している。
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