手塚治虫の「火の鳥」が初の絵本化 作者の鈴木まもるさん「生きる喜びを伝えたい」

(2024年5月1日付 東京新聞朝刊)
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「火の鳥」を絵本化した鈴木まもるさん=東京都台東区の金の星社で

 漫画家の手塚治虫(1928~89年)の代表作で、発表から70年を迎えた「火の鳥」が、4月に初めて絵本化された。作者は、自身も子どもの頃からファンだったという絵本作家の鈴木まもるさん(71)=静岡県下田市。「戦争や災害で不安の多い今だからこそ、物語を通じて、生命の尊さを感じてほしい」と話す。

手塚プロから制作依頼「驚いた」

 鈴木さんが「火の鳥」と出合ったのは中学生の時。漫画雑誌「COM」で連載されていた。「生と死という大きなテーマは普遍的。登場人物や人間模様、絵の表現など、どれもすばらしくて夢中になった」

 絵本化は昨年夏、鈴木さんが出演したラジオ番組を、手塚プロダクションの人が偶然聞いたことがきっかけ。鈴木さんは手塚作品に大きな影響を受け、平和と命をテーマに絵本を描いているほか、鳥の巣を長年研究、収集している。こうしたことを知ったプロダクション側が、子どもでも読める絵本の火の鳥の制作を依頼。鈴木さんは「驚いたとともに、畏れ多かった」と振り返る。

画像データ

火の鳥の登場シーン ©TEZUKA PRODUCTIONS、Mamoru Suzuki

 絵本版は、地球の絵から始まる。続いて、海や山、野原、森、湖、川などで多くの生き物が暮らし、命を育む様子が描かれる。それぞれの命はどこからくるのか、死んだらどこへいくのか、なぜ生きるのかを、火の鳥が語りかける内容になっている。

「手塚先生が何を伝えたかったか」

 原作は内容的に難しい面もあり、コンパクトにしただけでは伝わりにくい。そこで、「手塚先生が何を伝えたかったか」を考え、小さな子どもたちにも分かりやすいように工夫し、絵本化したという。

 鈴木さんは、漫画の中で、永遠の命を持つ火の鳥が炎の中に飛び込むシーンに着目。絵本では、その後、生まれ変わった小さな火の鳥が巣で休み、やってきた動物たちに語りかける場面を新たに描き、原作のメッセージを込めたという。

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巣で休む火の鳥が動物たちに語りかける場面 ©TEZUKA PRODUCTIONS、Mamoru Suzuki

ありのままで、元気に生きていこう

 鮮やかで生命力あふれる絵は水性のアクリルガッシュで描き、生き物が誕生する場面は「神秘的な場面だからこそ、下絵を描かず一発勝負で描いた」という。

 絵本の中で、火の鳥は「あなたの命の中には、たくさんの命が集まっている。みんなの命が集まって、今のあなたがいる」と語りかける。鈴木さんは「読んだ人に、生きる喜びを伝えたい。ありのままでいい、元気に生きていこうと感じてもらえたらうれしい」と話す。絵本版の「火の鳥 いのちの物語」は金の星社から刊行。1540円。

書影

絵本「火の鳥」の表紙

手塚治虫のライフワーク「火の鳥」

 「火の鳥」は手塚治虫が生涯にわたって描き続けたライフワークとされる作品。1954年に月刊誌「漫画少年」で発表された。その後、さまざまな漫画雑誌で描かれ、黎明(れいめい)編、未来編、ヤマト編、宇宙編、鳳凰(ほうおう)編などがある=写真。89年に手塚が亡くなり、未完のままとなった。各編は独立した物語で、過去や未来、地球や宇宙を舞台に壮大なスケールで描かれる。

手塚治虫の漫画「火の鳥 黎明編」

 各登場人物は永遠の命を持つ火の鳥を捕まえ、その血を飲めば不老不死になれると追い求める。こうした人間の業を描いたほか、時空を超えて存在する超生命体の火の鳥を通じ、人間はどう生きるべきか、生命と死、輪廻(りんね)転生など哲学的な問いを投げかける。

 手塚治虫公式サイトによると、手塚は「おのおののエピソードは、どれも生命というものを、さまざまなみかたから描いた」などと説明している。

「火の鳥 いのちの物語」原画展開催中

 絵本化を記念し、「火の鳥 いのちの物語」原画展が東京都港区の大垣書店麻布台ヒルズ店Ehonギャラリーで開催されている。

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絵本「火の鳥 いのちの物語」原画展=東京都港区の大垣書店麻布台ヒルズで

 6月2日までで、時間は午前11時~午後8時。入場無料。5月19日は午後1時~3時(受付は午後0時30分から)に作者の鈴木まもるさんのトーク&サイン会も行う。定員は40人。詳しい参加方法などは大垣書店のWebサイトで紹介している。

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