もうすぐ夏休み 親にとっては長い戦いの幕開け〈瀧波ユカリ しあわせ最前線〉4

(2024年7月17日付 東京新聞朝刊)

瀧波ユカリ しあわせ最前線

「見て見てー」の無限ループ

 もうすぐ夏休みが始まる。子どもたちはわーいと喜ぶが、親にとっては約1カ月に及ぶ長い戦いの幕開けだ。どんな戦いなのか? これが一言では伝えられない。なぜなら、子どもの年齢や通っているところによって、何が大変かが異なるから。

 私の場合、親として一番楽だった夏休みは、娘が保育園に通っていた時だ。お盆を除けば、ほぼいつも通り預かってもらえた。しかし幼稚園に移ると、夏休みが無慈悲に発生。ずっと家にいたら「お母さん見て見てー」「こっち来てー」の無限ループで仕事が進まない。英会話教室の半日コースと民営の預かりサービス、夫の実家への滞在などを組み合わせて、小学校卒業までなんとか乗り切った。

 中学生の今はさすがに「見てー」はないが、昼ごはんを出したり塾の夏期講習の送り迎えをしたりなど、まだまだ放っておくことはできない。

イラスト

イラスト・瀧波ユカリ

大変なのは個人の問題ではない

 先日、「夏休み短縮や廃止を希望する困窮世帯が60%」という記事が目に入った。民間団体のアンケートによると、その理由は「子どもが家にいると生活費がかかる」が最も多く、「給食がなく、昼食準備に手間や時間がかかる」「特別な経験をさせる経済的余裕がない」などが続いた。子どもを育てる前の私なら「なんだそれくらいで」と思っただろう。しかし今はわかる。私が子どもの夏休みを乗り切れたのは、お金で時間を買ったからだ。

 お金で時間を買うか、祖父母など身内を動員するか、親のどちらかが子どものケアに専念するか。そうしてやっと、夏休みを乗り切れる。頼みの綱の学童保育は、空きがなかったり混みすぎていたりと問題山積だ。預けるだけではなく、どこか遊びに連れて行くことも考えねばならない。経済的にも時間的にも余裕を持ちにくいシングルペアレントや困窮世帯の苦労は、いかばかりだろう。

 思い返せば私も、夏休みらしい特別な経験をあまり多くはさせてやれなかった。それでも、大切な思い出はある。札幌に住んでいた頃に、友人に毎年誘われて行った花火大会。おやつや飲み物を持ち寄って親子が集まり、みんなで夜空を見上げて花火を楽しんだ。夏でも涼しい札幌の夜風、煙の匂い、子どもたちの歓声。ささやかだけどかけがえのない、年に1度の夜だった。

 花火大会や縁日など、さほどお金をかけずに親子で楽しめる夏のイベントがもっと増えればと思う。他にも市民ができること、政治家がすべきことはたくさんあるはず。夏休みが大変なことは個人の問題ではなく、社会の問題なのだから。

【前回はこちら】運動会で「親」をやるのが苦手だった

写真

瀧波ユカリさん(木口慎子撮影)

瀧波ユカリ(たきなみ・ゆかり)

 漫画家、エッセイスト。1980年、北海道生まれ。漫画の代表作に「私たちは無痛恋愛がしたい~鍵垢女子と星屑男子とフェミおじさん~」「モトカレマニア」「臨死!! 江古田ちゃん」など。母親の余命宣告からみとりまでを描いた「ありがとうって言えたなら」も話題に。本連載「しあわせ最前線」では、自身の子育て体験や家事分担など家族との日々で感じたことをイラストとエッセーでつづります。夫と中学生の娘と3人暮らし。

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