【選択的夫婦別姓がわかるQ&A⑩】通称(旧姓)を法制化すればいいのでは?

選択的夫婦別姓がわかるQ&A

【疑問17】旧姓の通称使用を広げればいいのでは?

 通称は、法律上の姓ではありませんので、職場や日常生活でその使用が認められる保証はありません。実際、住民票、マイナンバーカード、パスポートなどにおいて結婚前の姓(旧姓)を併記することができるようになったものの、年金、納税・税金還付、不動産登記、成年後見等の登記事項証明書など、依然として結婚前の姓(旧姓)を使用できない公的場面は多く、民間の機関ではなおさらです。通称の使用可能な範囲には限界があるのが現状です。

 結婚前の姓を通称として使用する場合、その人には姓が2つ(戸籍姓と通称)あることになり、本人にとっても所属する組織や周りの人達にとっても、使い分けの煩雑さや混乱が生じるほか、個人の同一性の把握ができないといった不利益も発生しています。

 さらに、結婚前の姓にアイデンティティを持っている人からしてみれば、通称使用の許可を求めること自体、自分の結婚前の姓が「正しい姓」として認められていないことを思い知らされることになります。

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旧姓の通称使用を法制化しても、本名があいまいになるなどのダブルネームの混乱は続く(写真はイメージです)

 つまり、どんなに通称使用が可能な範囲が拡大しても、通称使用には限界および問題点があり、通称使用では、結婚改姓により生じる不利益の救済として不十分だと言わざるを得ません。

 経団連が会員企業と各社の女性役員を対象にした2024年の調査では、91%の企業が旧姓の通称使用を認めている一方で、88%にする目標の女性役員が海外出張などで不都合や不利益を感じていると答えました。経団連による選択的夫婦別姓制度導入の提言には、こうした通称使用の限界が背景にあると考えられます。

【疑問18】通称を法制化すればよいのではないですか。

 通称の限界に対し、すべての場面で結婚前の姓(旧姓)を使用できるよう法律上の根拠を与え、どの場面で旧姓を使用し、どの場面で戸籍姓を使用するかは本人が自由に選ぶことができるように「通称を法制化すればいい」という声もあります。

 ただ、ダブルネームによる本人をはじめ、企業や行政のシステムコスト、管理コスト、使い分けの煩雑さ、同一人物かの誤認リスクなどは続くと考えられます。

 その混乱を避けるために、すべての場面で旧姓のみを使用できるようにするとすれば、結婚する際に決めた「夫婦が称する氏」を使用する場面はなくなります。すると、日常的・社会的に使用する姓(結婚前の姓)と戸籍姓(結婚の際に決めた姓)とが一致しなくなり、戸籍姓は完全に形骸化してしまいます。

 そうであれば、最初から選択的夫婦別姓制度を導入して、夫婦が結婚の際に夫婦同姓か夫婦別姓かを選べるようにすれば、夫婦が結婚の際に決めた姓(夫婦同姓の場合には夫か妻いずれかの姓。夫婦別姓の場合には夫と妻のそれぞれの姓)が形骸化することなく、法律に根拠を有する姓は現在と同じく一人につき1つという大原則を維持したまま、戸籍姓と社会生活で実際に使用する姓を一致させることができます。

◆次の疑問は、近日公開予定。

選択的夫婦別姓がわかるQ&A

【子育て世代の疑問に答えます】

 2024年9月の自民党総裁選で争点の一つになった「選択的夫婦別姓」。夫婦が、同じ姓を名乗る(夫婦同姓)か、それぞれ結婚前の姓を名乗り続ける(夫婦別姓)かを選べる制度です。夫婦同姓を法律で義務づけているのは世界でも日本だけで、晩婚化やグローバル化、IT化など時代の変化に伴い、さまざまな不都合が生じています。そして、その不都合を感じているのは、ほとんどが女性。男性の議員や経営者、裁判官らに訴えても理解を得にくい問題でもあります。

 最近よく耳にするようになったけれど、詳しい内容が分からず、「今までと違うのは、なんとなく不安」という人もいるでしょう。衆院選を前に、子育て世代にも身近な疑問を、別姓訴訟弁護団にかかわる弁護士、榊原富士子さんと寺原真希子さんの著書「夫婦同姓・別姓を選べる社会へ」(恒春閣)を基に解き明かします。

家族の絆がなくなる? 周りは分かりづらい?

子どもの姓はどうなる? かわいそうではない?

別姓だと戸籍はどうなる? 制度が崩壊しませんか?

旧姓を通称として使用すれば問題ないのでは?

旧姓と戸籍姓を使うことで困ることって?

国連の女性差別撤廃委員会が法改正の勧告?

同姓でないと同じお墓に入れない? 一夫多妻制を認めることになる?

夫婦同姓は日本の伝統? 家制度が廃止された経緯は?

最近急に聞くようになった? もっと議論が必要?

⑩通称(旧姓)を法制化すればいいのでは?(このページ)

選択的夫婦別姓とは

 夫婦が、同じ姓を名乗る(夫婦同姓)か、それぞれ結婚前の姓を名乗り続ける(夫婦別姓)かを選べる制度。1996年、法相の諮問機関「法制審議会」が導入を盛り込んだ民法改正法案要綱を答申したが、自民党保守派から「家族の絆が壊れる」といった反対意見が強く、国会に上程されないまま30年近くの年月が流れた。以前は別姓を認めていなかった国も男女平等などの観点から制度を是正する中、日本は別姓を選べない唯一の国として取り残されている。2023年に婚姻した夫婦のうち94.5%が夫の姓を選択した。

 別姓を認めない日本に対し、国連女性差別撤廃委員会は再三の改善勧告をしている。日本は、旧姓を通称使用する独自の政策を推進しているが、グローバル経済の中、二つの名前を使い分けるローカルルールとして混乱のもとにもなっている。多様性や公平性なども含めて課題に対応する「DEI」の観点から、経団連は24年6月、選択的夫婦別姓の早期実現を政府に求める提言を発表した。

著者の紹介

写真 寺原真希子さんと榊原富士子さん

◇寺原真希子(左) 東京大法学部卒業後、司法試験に合格。長島・大野・常松法律事務所など東京都内の事務所で勤務後、米ニューヨーク大ロースクールに留学しニューヨーク州弁護士資格を取得。帰国後、旧メリルリンチ日本証券での企業内弁護士を経て現在、東京表参道法律会計事務所の共同代表。2011年に選択的夫婦別姓訴訟弁護団に加わり、22年から弁護団長。

◇榊原富士子(右) 京都大法学部卒業後、1981年から弁護士。婚外子相続分差別訴訟、子どもの住民票や戸籍の続柄差別違憲訴訟などを担当。離婚と子どもに関するケースを多く扱う。2009~14年、早稲田大大学院法務研究科教授。2011~22年、選択的夫婦別姓訴訟弁護団長を務めた。

 

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  • 建設会社経営者 says:

    サイボーズの青野さんが、十数年前に裁判を通じて、夫婦別姓を選択できぬことに抗議した。建設業の経営者が、結婚や離婚によって氏が変わることで、どのくらい不便を囲っているか政治家は知っているのだろうか。

    長く建築に携わっているので、代表取締役としてその両方を経験した。法人の代表としての法的な手続き、それにまつわる金融機関、借入の名義手続き、そして建設業という特殊な生業に関する法的手続き、建築の資格者としての名字の変更も含め、約1か月かけて、費用も掛かった。大変な無駄な労力であった。その間、通常の業務は半分もこなせなかった。

    自民党の高市早苗さん、ご自分がご主人の姓を名乗らず高市姓で選挙戦を戦えるように、お上手に法をおつくりになったかもしれないが、政治家ならば、別姓を選択できぬことで、こうやって不便を忍んで仕事を続けている女性もいるのだと、知らねばならない。

    建設会社経営者 女性 60代

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