親子ワーケーション 4歳娘とプチ体験してみたら最高だった 「親子にこそ体験してほしい」理由とは

旅行中は雨で見られなかったが、澄んだ青色が広がる東郷湖。カヌーやSUPなどの水上アクティビティーが楽しめる(湯梨浜町提供)
子どもたちだけで遊び回ってくれる
ワーケーションはワーク(仕事)とバケーション(休暇)を組み合わせた造語。テレワークが言われ始めたころからよく聞きますが、新聞記者として担当エリアから離れられない私にとっては遠い憧れ。今は東京すくすくのサイト運営の仕事なので、担当エリアはなくなり少し状況は変わりました。田んぼに囲まれた地方出身なので、大自然にある保育園に期間限定で通う「保育園留学」はいつかやってみたいと思っていたところ、湯梨浜町のツアーの紹介に「地域交流×親子ワーケーション」とあるのを見つけました。地域の人とも触れあえるのは、娘にとって知らない土地に行く「保育園留学」の練習にいいのでは!と申し込みました。
でも、不安もありました。湯梨浜町って聞いたことないけど、子どもと楽しめる遊び場はあるの? 夫は仕事で行けないので、初めてのワンオペ旅。余裕を持って楽しめるだろうか? そんな不安はツアー初日から娘が同年代の子どもたちと楽しそうに遊び回ってくれたおかげで、一瞬で吹き飛びました。

穏やかな天気の日は沖縄の海のような透明感だという(湯梨浜町提供)
湯梨浜町は鳥取県の真ん中にあり、日本海に面した町です。海の幸に恵まれ、町の中心にはシジミやウナギも取れる東郷湖が広がります。その湖底から湧くという温泉施設がいくつもあります。海あり湖あり山ありの自然豊かな町です。人口は1万6000人。人口減少のさなかにある一方で、子育て世帯の流入は増えているといいます。
いざ、親子ワーケーションへ。羽田空港から鳥取砂丘コナン空港まで飛行機で1時間20分。そこから連絡バスに40分乗り、集合場所近くのJR松崎駅に向かいます。飛行機の到着予定は10時40分で、バスの発車時刻は10分後。バスは2~3時間に1本。「逃すまい」とドキドキしながら、到着するや子どもと手をつないでバス停へダッシュしましたが、運転手さんは乗り合わせる人たちをのんびりと待ち、出発したのは11時ごろ。「そうだ、ここは東京じゃない。慌てなくていいんだ」と、鳥取の時の流れを感じました。さらに驚いたのは、到着した松崎駅前の月決め駐車場が1350円! 東京のわが家周辺は2万円前後のため、泣く泣く車を手放した身としてはうらやましい~。

マイクを持って恥ずかしそうに名前を言う子どもたち=「中国庭園 燕趙園」で
集合場所の「中国庭園 燕趙園(えんちょうえん)」へ。ツアーに参加したのは東京や大阪などから来た5家族で、子どもは2歳から小学6年生(取材当時)まで8人と事務局スタッフの子どもたちもいて、とてもにぎやかです。
香取慎吾さん主演のドラマ「西遊記」(2006年)のロケ地としても使われた本格的な庭園を散策しました。そこでの自己紹介タイムで娘にマイクを向けてみましたが、恥ずかしがって名前を言わない予想通りの人見知りぶり。散策後、庭園の隣にある「ゆアシス東郷龍鳳閣」で温水プールに入ると緊張がとけたのか、大阪から来た5歳のあみちゃんとすっかり打ち解けて楽しそうにじゃれ合っていました。
ゲストハウスは参加者の貸し切り。子どもたちはまるで普段から同じ保育園に通っているかのように一致団結して廊下やリビングで遊び続けていました。部屋の中にいても娘の大きな笑い声が聞こえてきて、来てよかった~としみじみ感じました。

すっかり仲良し。朝ご飯の直後だけど甘いイチゴは何個でも食べられた=小林農園で

「採れたよ~」とポーズするいつきくん(4)。同じ年の子どもたちが多かったのもよかった
2日目は、イチゴ狩りとヒラメの養殖場へ。朝食の後にたらふくイチゴを食べた後、「海の駅とまり 元気海」でヒラメのエサやりを楽しみ、プリップリのヒラメ丼をいただきました。なぜヒラメかというと、鳥取県は古くからヒラメ漁が盛んで県魚にも選ばれたからだそうです。最近は温暖化の影響などもあり水揚げ量が減り、今では「名誉県魚」なのだとか。

うじゃうじゃいる名誉県魚に餌づけ=「海の駅とまり 元気海」で

エサやりの後(大人は)プリプリのヒラメ丼を食す
家族旅行にはない地元民との交流
午後は地元の子育て支援団体「ゆりはま子育てネットワークくぷくぷ」が用意した遊び場で子どもたちが地域住民と交流する間に、大人は2時間のワークタイム。私はこの時間を取材にあてました。あいにくのお天気で室内でしたが、子どもたちは松ぼっくりと鳥取名物のナシの木でツリー作りに集中したり、ボール遊びをしたり、思い思いに楽しんでいました。

ナシの木を土台にしたツリー作りに夢中
くぷくぷは、地域の子どもたちをみんなで育てていこうと毎月第3日曜日に親子の遊び場「あそび~の」を開いています。多くのスタッフが見守ってくれるので、保護者は子どもから目を離しても安心な環境。おやつタイムもあって、これまた豪華でした。

お菓子作りが趣味という芋農家の平田さん夫妻
芋農家の平田さんご夫婦手作りの金時芋の焼き芋シフォンケーキ、紫芋チップス、クリームパン。湯梨浜町で人気の洋菓子店「シェル・ブール」のロールケーキやスポンジケーキも並びました。
どれも本当においしくて、おじいちゃんおばあちゃんの手作りという温かさも心に染みて、湯梨浜町で子育てできる人がうらやましく感じました。

おやつにむらがる子どもたち。どれも絶品だった
湯梨浜町の知られざる魅力に触れる
「あそび~の」に来ていたお母さん方に湯梨浜町の魅力を聞いてみました。県内の近くの町から越してきたという方は「何もない田舎かと思っていたけれど、公園が多くて、子育て支援も充実しているんです。学童なんて民間で月2000円ですよ」とのこと。調べてみたら、駐車場と同じく東京での相場は3万~5万円のようで、けたが違う…。子育て世帯が増えるわけだ。
神奈川県から湯梨浜町の隣の北栄町に移住した梅津花さん(33)は、生後9カ月から小学1年生まで3人の子育て中。「神奈川での子育てにはもう戻れない」といいます。「こっちでは広大な敷地でのびのびと遊べるし、くぷくぷなど町を出ていろんな遊び場へ連れて行ってもスタッフに誰かしら知り合いがいるので『大きくなったね~』と会うたびに成長を喜んでくれる。町の職員との距離も近く、いつでも相談にのってくれます。おいしいものもたくさんあって、給食の県内産自給率なんて94%ですよ」と尽きない魅力を語ってくれました。

小学生のお兄ちゃんお姉ちゃんが幼児たちを見守ってくれて助かりました
自ら計画を立てなくていい手軽さ
最終日は、大人が振り返りワークショップをする間に、子どもたちはお寺でヨガ体験と、アクティビティーが盛りだくさんの2泊3日でした。ふだん家族旅行を計画する時は、まず行き先を比較して悩み、宿を探して予約し、どんなアクティビティーができるかを調べてスケジュールを立てるという、骨折り作業。これらをお任せできて、自分では見つけられなかったであろう穴場の地域を楽しめて、時間に追われがちな子育て世帯になんてやさしい企画なんだろう!と感動しきりでした。
若い世代にまずは湯梨浜町に足を運んでもらい、町の魅力や地元の人々と触れあってもらおうと町が主催したこの親子ワーケーション。「また来たい」と思ってもらえる「関係人口」を増やしていこうというのが、ツアーの狙いだそうです。町をサポートしたのは、毎日新聞で親子ワーケーションの事業を手がける毎日みらい創造ラボの今村茜さん。関係人口や移住者を増やしたい自治体が、保育園や小学校での子どもの受け入れ態勢を整え、働く世代を呼び込む親子ワーケーションは広がっているといいます。
今村さんが、経済部の記者として親子ワーケーションを知ったのは2017年。東京五輪を契機とした働き方改革の一環で、交通機関が混雑する始業から10時半までの間にテレワークをする企業を募る、国を挙げたイベントでした。日本航空(JAL)がワーケーションを導入する動きを取材したそうです。

親子ワーケーションを実践し、事業を立ち上げた今村さん
親も子も自治体も三方よしの企画
「自分もやってみたい」とひかれましたが、当時子どもが2人。夫は多忙のため子どもを連れて行こうにも、子どもを預けてワーケーションできるプランはまだありませんでした。翌年、和歌山県で子どもを受け入れる親子ワーケーションの実証実験を見つけて参加。夏休み期間中に毎日小2の長女をぎゅうぎゅう詰めの学童に通わせることに罪悪感があったそうですが、仕事を休めるのはお盆くらい。どこに行っても混んでいるし、旅費も割高で遊びに出かけづらい。そんなもやもやを一気に解消してくれたのが和歌山でのワーケーションでした。
今村さんがリモートで仕事をする間、子どもたちは事業のスタッフと水族館のバックヤード見学や地域の人と交流しました。子どもたちは初めてづくしの体験に生き生きとしているし、せわしない東京と違ってゆったり流れる時間の中で子どもと向き合えるし。「これはいい!とどハマりしたんです」と今村さん。これまで春休みや夏休みを利用して30回以上経験し、北海道や鳥取県では現地の人と家族ぐるみの付き合いが続いているそうです。「子どもが地域のファンになって、子どもにせがまれて旅を決めるんですよ」

湯梨浜町への移住を検討している人は「お試し住宅」を格安で利用できます。交通費の補助もあります
2019年には、社内で親子ワーケーションを通じて自治体を支援する事業を立ち上げました。当初、企画したツアーに申し込むのは母親が7割、フリーランスが5割。最近では父親が増え、フリーランスと会社員の割合も同じくらいに変わってきているそう。今回の鳥取旅もパパが多かったです。日ごろは仕事で子どもとの時間が取れていないから「思い出をつくりたい」と父子2人の参加もあるといいます。
ちなみに、地域の魅力を満喫するには、普段のオフィスで働く時より仕事時間を減らす必要があるため「軽めに持って行った方が精神衛生上おすすめです(笑)」とのこと。今回の鳥取旅のワークタイムは2時間でしたが、参加した親同士が名刺交換して、ビジネスの話をする場面がいくつもありました。子どもと思い出をつくりつつ、仕事の幅も広がるだなんて最高です。娘も「また(湯梨浜町に)行きたい」と言っています。次回の家族旅行は親子ワーケーションの企画から行き先を決めようと思ったプチ体験でした。
今村茜(いまむら・あかね)
毎日みらい創造ラボ兼毎日新聞記者。2006年毎日新聞社入社、経済部等を経て親子ワーケーションのルポ記事執筆を機に新しい働き方を模索する新規事業Next Style Lab(編集企画「リモートワーク最前線」)発足。2020年からは記者を兼務しながら毎日みらい創造ラボで事業展開。親子ワーケーション部代表、鳥取県ファミリーワーケーションプログラム造成支援アドバイザー、観光庁ワーケーション推進事業コーディネーター。3児の母。
筆者 東京すくすく編集長 浅野有紀
1988年、岐阜県生まれ。2013年中日新聞社入社。滋賀、愛知、埼玉で県警、市政、県政などを担当。23年から中日新聞東京本社(東京新聞)東京すくすく部。ウェブメディア「東京すくすく」の編集長を務める。子どもが子どもらしく生きられる社会のために、虐待や孤育てを防ぐ取り組みなどを取材。長女は4歳。次回は「保育園留学」を計画中。
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