どんなひどい扱いを受けても、大好き〈加瀬健太郎 お父ちゃんやってます!〉
次男が筆箱だけを手に、学校に行こうとしていた。「それで行くつもりか?」と聞くと、「どうせリュックの中、いつも筆箱しか入ってないからさ」と走っていった。昭和のプロ野球選手が契約更改に、セカンドバッグ一つで現れるような軽やかさ。
四男は朝、目を覚ますと決まって「ママは?」と聞いてくる。「電車でお仕事に行ったよ。きょうたくんもまた電車に乗ろうね」と、さりげなく論点をずらし、妻不在を忘れさせたいが「ママじゃなきゃやだ。ようちえんいかない」。作戦失敗。「じゃあ、パパライオンの背中に乗ってや。足が速いから乗れるかな? ガオー」と叫ぶ力技で食卓へ。砂糖をかけたヨーグルトを出すと「なんかにがい」の驚き発言。とりあえず聞こえなかったふりをする。
食後に見るテレビ番組「ピタゴラスイッチ」も、「これ見たことあるよ。もう、パパのせいだよ」と理不尽に怒られる。「このふくちっちゃい」と投げ捨てられたトレーナーは、「きょうたくん、大きくなったんだねえ」と大げさなビックリ表情で、なんとか着せた。と思ったら「このくつしたやだ」ときた。
そんなこともあろうかと、ポケットに靴下のスペア2組を忍ばせている自分がふびん。玄関で靴を履く四男。左右が逆であることを伝えると、「これでいいんだよ」と吐き捨てるように言って、走り出して転(こ)けて「パパやだ。ママがいい」と泣く。
夕方、四男を幼稚園に迎えに行くと、「まだパパに会いたくなかったなあ」と言われる。人生50度目の冬。「どんなひどい扱いを受けても、大好きでいられるんだ」ということ、僕ははじめて知りました。
加瀬健太郎(かせ・けんたろう)
写真家。1974年、大阪生まれ。東京の写真スタジオで勤務の後、ロンドンの専門学校で写真を学ぶ。現在は東京を拠点にフリーランスで活動。最新刊は「お父さん、まだだいじょうぶ?日記」(リトルモア)。このほか著書に「スンギ少年のダイエット日記」「お父さん、だいじょうぶ?日記」(同)「ぐうたらとけちとぷー」(偕成社)など。14歳、12歳、7歳、4歳の4兄弟の父。これまでの仕事や作品は公式サイトで紹介している。
なるほど!
グッときた
もやもや...
もっと
知りたい