馬に乗った全員が1番! 順位はつけない馬術大会が開催されました 知的障害のある子どもたちも馬とふれあい笑顔に

笑顔で乗馬するこうたさん
馬術の殿堂…「夢の舞台」で開催
今回のイベントは、「人にも馬にも福祉は必要」という理念を掲げて活動する「つばさ乗馬苑」(埼玉県日高市)代表の土谷麻紀さんが発起人となり、同じ埼玉県を拠点とする「武蔵逍遥乗馬会」や「認定NPO法人スペシャルオリンピックス日本・埼玉」と協力し、開催しました。

「つばさ乗馬苑」代表の土谷麻紀さん(左)と出場した荻野鈴子さん
きっかけは、つばさ乗馬苑などに所属する埼玉のアスリートがスペシャルオリンピックス馬術の三重大会(2024年7月に鈴鹿ホースパークで開催)に参加したとき、「埼玉でも大会を開きたい」と強く思ったこと。ただ埼玉県内には大きな会場がないため、アスリートや関係者らは「馬術の殿堂」である馬事公苑での開催を熱望。今回、土谷さんをはじめとする多くの方々の協力があり、夢の舞台で開催することができました。
スペシャルオリンピックス(SO)とは
知的障害のある人たちに、日常的なスポーツトレーニングと、その成果を発表する競技会を年間を通じて提供している国際的なスポーツ組織。競技会は勝敗を競うだけでなく、参加するすべての人をたたえることを重視し、スポーツ活動に参加する知的障害のある人たちをアスリートと呼ぶ。
知的障害のあるアスリートが演技
「未来への手綱フェス」は順位をつけず、知的障害のあるアスリートがそれぞれのレベルに合った演技を披露。日頃から乗馬を行っているだけあり、みな背筋が伸び、馬との息もぴったり。ゆっくりと歩く常歩(なみあし)、リズミカルな二拍子の速歩(はやあし)などを披露していました。

馬術を披露する薫平さん
中でも目をひいたのは、知的障害・身体障害のある辻薫平(くんぺい)さん。華麗な馬場馬術(第2課目B*)を披露。周囲から歓声が上がりました。薫平さんは一般の大会でも入賞するほどの腕前で、つばさ乗馬苑で日々練習に励んでいます。
*第2課目B 正確な常歩や速歩のリズム、停止、図形(円や直線)を描く基礎的なコントロールなど、人馬一体となり指示通りに動けるかを評価する。
薫平さんは、2024年6月につばさ乗馬苑で行った「馬と子どものふれあい体験」イベントでも1日お手伝いをしてくれて、最後に声をかけてきて、馬への愛をたくさん語ってくれた青年です。
「ふれあい乗馬体験」親も子も感激
アスリート25人の競技が終わった後は、養護学校の生徒さんたちを招いて「ふれあい乗馬体験」が行われました。障害の度合いもさまざまなので、その子に合わせて鞍(くら)や補助の器具を替え、万全のサポート態勢で実施されました。

使用された馬具(持ち手やクッションなどを乗る人に合わせて使い分ける)
参加したみなさんに感想を聞きました。
脳性まひと両目の視覚障害があるのぞみさん(15歳)は、今回が人生初の乗馬体験でした。
お母さんは「すごく良かった。笑い声が出て…」と感激していました。普段は座位の保持が難しくグラグラするそうですが、馬の動きに合わせて無意識に体幹を使い自力でバランスを取ろうとする姿勢が確認でき、「馬が好きなのかも。また乗せてあげたい」と乗馬の効果に期待を寄せていました。

乗馬するのぞみさん
年少の頃から乗馬経験があるというこうたさん(15歳)は、乗る前から楽しそうな笑顔でした。
ここまで来るには大変な苦労があった、とこうたさんのお母さん。「乗馬が体幹や情緒の発達にいいらしい」と聞き、同じ保育園のお母さんがホースセラピーの仕事をしていた縁で、理学療法士さんの指導も受けながら月1回程度から乗馬を始めました。
はじめは座れなかったのでポニーの背中に寝ながら乗るところからスタート。「片道2時間かけて行って、30分泣きながら馬に乗って、『終わりだよ』って言うと笑顔になる。こっちのメンタルがやられました…」と振り返ります。ですが、だんだん体つきがしっかりしてきて乗れるように。

乗る前から笑顔のこうたさん
「馬は生き物なので、予測しない動きをする。その対応力を培ってきたと思います。小さい頃は嫌がっていた乗馬ですが、ある時から楽しくなったようで、『これヤダ』を乗り越えて、『お馬さんに乗りに行く』と言うとニコニコ笑顔になるようになりました」
乗馬の好影響を実感したこうたさんのお母さんは言います。「療育に馬がいいと知っていても、そこにたどりつけない人のほうが圧倒的に多いと思う。うちは運良くつながれました。こういう機会に巡り合えてよかった」
障害がある子も、安心して乗馬を
土谷さんは「(私は)順位をつけるのが嫌いです。みんなが馬に乗って、そして頑張ったのなら、今日は全員が1番です」と閉会式で挨拶しました。会場からは万雷の拍手が起こりました。

みんなが一番!
知的障害者が馬事公苑で競技をしたのは、東京五輪開催に合わせ改修工事に入った2017年から8年ぶりでした。馬事公苑は高校野球の甲子園のような場所。素晴らしい舞台で演技ができたことに参加者、関係者もみんなが笑顔になり心温まる大会でした。
土谷さんは「乗馬クラブは料金が高く、障害があるというと受け入れないところも多い」と言います。土谷さんは元保育士で、障害のある子どもたちのケアも担当する中で、周囲のお母さんたちと障害者乗馬の団体を立ち上げました。
それがきっかけとなり、障害のある方も安心して乗馬ができる施設としてつばさ乗馬苑を開設。ホースセラピーを中心に、パラリンピックやスペシャルオリンピックスの馬術競技を目指し、日々活動を行っています。
つばさ乗馬苑としても競技大会を企画するのは初めてでしたが、今後も開催できるよう、未来につなげていきたいと土谷さんは語っていました。

未来への手綱フェスin馬事公苑の入り口
馬事公苑は、東京すくすくが今夏、「こども記者が行く!馬のお仕事ツアー」を開催した場所でもあります。ここでは1年を通して、さまざまな馬術大会や馬とのふれあいイベントも開催されています。この日は厩舎近くでJRAが企画する道産子(ドサンコ)などの在来馬とのふれあい体験(馬と親しむ日)が行われて、赤ちゃん連れなどでにぎわっていました。

道産子(ドサンコ)に興味津々の赤ちゃん
2026年は、この馬事公苑でアジア大会が開催される予定で、パリ五輪の総合馬術団体で銅メダルを獲得し話題になった日本代表チーム「初老ジャパン」にも期待が高まります。ぜひこの機会に、馬の持つ温かさや力強さを間近で感じてみてはいかがでしょうか。
〈取材後記〉馬と一緒 子育ては親がブレない「軸」を持つ
馬と関わる人たちの熱量が高く、まだまだ書き足りないことがたくさんありますが、中でも特に個人的に印象に残ったことがあります。
薫平さんが騎乗予定の馬が、会場のすみの方でいら立つように前足でしきりに地面をかいていました。つばさ乗馬苑から連れてきたベッツェです。ベッツェは中山競馬場で馬車を引いていましたが引退し、今は乗用馬として活躍しています。
普段は屋外で活動していますが、今回会場が屋内のインドアアリーナだったため、観客の声援や拍手の音が反響し、馬は音に敏感なため落ち着かない状態に…。

ホースクリニシャンの宮田朋典さん
そばには、馬の心理行動学から悪癖を直したり、調教をしたりするホースクリニシャンの宮田朋典さんがいました。宮田さんは、ディープインパクトなど有名馬のメンタルトレーニングを手掛ける馬のスペシャリスト。宮田さんによると、こういうときは「ただ耐える、つきあってあげる」しかないそうです。
「みんな暴れた馬をなでに行くんです。そうすると『暴れていいよ』って教えてしまう。なだめたい気持ちと裏腹に…」
ベッツェが少し落ち着いたときに大きな物音がして、首を高く上げてしまいました。「手綱を緩めた瞬間に何かが起きてしまうのは、人間世界、子どもと一緒です。ただ何もしないで待つのではない。一定の距離感と、その立ち位置を崩さないで待つ。毅然(きぜん)とした態度で、大丈夫だよという言葉だけじゃなくて、『しっかりあなたを止めてあげられるよ』というこっちの軸がなきゃだめです」
その言葉にはハッとさせられました。絶賛反抗期中の子どもを育てる親として、身につまされました。泣いても、叫んでも、子ども自らが感情をコントロールできるまで「待つ」ことは親の忍耐が試されます。馬から教えられることはたくさんあり、とても奥深いです。
馬との非言語コミュニケーションは、不登校などに悩む子どもの心を支える力もあると言われています。2026年は午年(うまどし)、東京すくすくでも新たな馬のイベントを企画しています。馬に興味がある方はぜひご参加ください!
東京すくすくでは馬とのふれあいイベントの企画や記事発信をしており、「てらすまなぶ 馬とのふれあいのこと」にまとめています。
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