引退馬から学んだ命の大切さ 乗馬、餌やり、ブラッシング…絵本の読み聞かせに涙も 「馬と子どものふれあい体験」

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乗馬体験に笑顔。自作の「王冠」を用意した子どももいました=つばさ乗馬苑で(特に表記のない限り、福永忠敬撮影)

 馬のブラッシングや餌やりなど触れ合いを通じて、引退した競走馬の〝第2の人生〟について考え、命の大切さを学ぼう―。そんなイベントが6月16日、埼玉県日高市内の「つばさ乗馬苑」(理事長・土谷麻紀)で開かれ、東京都内など首都圏在住の10組30人の親子が参加しました。中日新聞東京本社内に置かれた「馬と人をつなぐ実行委員会」(委員長・池田実東京中日スポーツ総局長)主催。参加者は引き馬での乗馬にも挑戦し、馬との共生、福祉などについて理解を深めました。

3回目の開催、定員を上回る応募

 同様の催しは昨年9月下旬に千葉県香取市の乗馬俱楽部「イグレット」、同11月下旬に東京都世田谷区の日本中央競馬会(JRA)馬事公苑での開催に続いて3回目。東京中日スポーツなどの紙面などを通じ、その理念への理解が広がり、継続的な行事として浸透してきたのか、今回は定員を大幅に上回る応募がありました。

 当日は前夜からの雨も上がり、最高気温30度を超える真夏日となりましたが、参加予定の全家族が元気に集まりました。

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「馬とこどものふれあい体験」に参加したみなさん=つばさ乗馬苑で

触る時は優しく声をかけてから

 午前の部は土谷理事長による馬にまつわる講話でした。午後の乗馬や餌やり体験に向け「馬はとても臆病な生きものなので、大きな声を出したり、厩舎(きゅうしゃ)内を走ったりはしないでください」「体の真後ろが死角となるので、触るときは優しく声をかけてから」など、馬との接し方について丁寧な説明がありました。

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馬とのふれあいを楽しむ子どもたち

 また同苑のエピソードとして、2021年パラリンピック東京大会の競泳女子400メートルで入賞した小池さくらさんが幼いときから通っていたことも明かされました。乗馬で体幹を強化したことや、馬に乗るという成功体験が後の競泳での頑張りにつながったと説明されると、参加者は興味深そうに耳を傾けていました。

大きいね!サラブレッドに感激

 続いて同苑所属の馬が順番に紹介されました。すると、子どもたちは用意された席を離れ、馬の近くまで歩を進めるなどノリノリに。これまで比較的小さいポニーやミニチュアホースを見たことはあっても、乗馬や競走馬用のサラブレッド(体重500キロ前後)の大型馬を間近に見るのは初めてとあって目を輝かせていました。

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砂浴びする馬も

 午後の乗馬体験でまたがる中間種のパイン(尾花栗毛)も紹介されました。土谷さんによると、それまでの厳しい調教の影響か、同苑に引き取られた時は極度の人間嫌いで耳も触らせてくれなかったそうですが、土谷さんたちとの日々のコミュニケーションの中で、時間は2年とかかったものの、徐々に心を開いてくれたそうです。

 また埼玉県東松山市のお寺のお祭りで「神馬」を務めている引退競走馬のユキンコ(白毛)も登場。来苑時はやはり気性が激しかったそうですが、今では大役を任されるまでになりました。白い馬体にうっすらと皮膚のピンク色が浮かぶ馬体は手入れも行き届いていました。

相思相愛でいるための「愛馬訓」

 最後は土谷さんが自身のバイブルともいえる絵本「うまのおいのり」(絵と文・まつむらまさこ 至光社)を朗読しました。

 「わたしに たべものと のみものを ください」「いつまでも あなたと ともに ありますように」。馬と人とが〝相思相愛〟でいつまでも幸せに暮らせるための馬から人へのメッセージ「愛馬訓」が披露されると、参加者は大きくうなずくとともに、中には涙ぐむ人もいました。

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読み聞かせをする土谷さん

初めての乗馬 怖くなかったよ

 午後は待ちに待った馬との触れ合いの時間。乗馬の順番を待つ間はお絵描きタイムで、小さな〝画伯〟たちは配られた画用紙に思い思いに色鉛筆やクレヨンを走らせました。

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乗馬に挑戦する参加者。後半は駆け足にも挑戦

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馬の絵を描いた子どもたち(小野里美保撮影)

 また、ブラッシングによる馬体のお手入れも体験。子どもたちは、同苑のスタッフの手も借りながら、思い切り手を伸ばして奮闘していました。

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ブラッシングに挑戦

 度胸満点(?)に馬の鼻先まで顔を近づけてスキンシップを図っていたのが、東京都中野区から父親と一緒に参加した藤井智子さん(6)。旅行先で小型馬が引く馬車に乗ったことはありますが、乗馬経験はもちろん馬体に触るのも初めてで、「鼻を触ったらモコモコしていて、かわいかった。(乗馬時も)怖くはなかった。また乗りたい」と笑顔でした。

さまざまな種類の馬とふれあって

 埼玉県日高市の嶋田あゆみさん(37)は息子の恭太郎さん(8)と参加。あゆみさんは今回のイベントで、人と馬との距離の近さを強く感じたと言い「(息子は)動物を見たり絵を描くことが好きなので、動物園や牧場に行ったことはあるが、直接馬に触れることができてよかった」。毛色やサイズの違うさまざまな種類の馬を間近に見て「いろんな子がいるんだなあと私も息子も知ることができた」と感激していました。

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つばさ乗馬苑の馬たち

 川崎市から母親と参加した井田天さん(11)は幼いときからの動物好き。図鑑などで多くを学び、土谷さんからの「馬のしっぽはどんな役割がある?」との問いに「虫をはらう」と即答。馬の尾がバイオリンの弓に転用されることも知っているなど〝博学〟でした。乗馬では馬が少しの間だけ速足になる場面がありましたが「最初は『怖いかな』と思ったけど、揺れる程度で落ちるって感じじゃなかった」と貴重な体験を振り返ってくれました。

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保護者も乗馬に挑戦してみました

「馬にも心がある。恩返ししないと…」

 中央及び地方競馬を統括する農林水産省が公開しているデータによると、昨年内に登録抹消された馬(引退馬)は1万1024頭。うち3961頭は地方→中央、中央→地方の転籍で現役続行となるが、残り7000頭余りは〝第2の人生〟に入る。

 うち「良血馬」といわれる血統のいい1281頭は繁殖用となり、また3257頭は再調教の末、乗馬用などで引き続き飼育されるが、その陰で「その他」1450頭の存在がある。その大半は食肉用として処分されるという。

 「つばさ乗馬苑」では、そんな不遇の馬を引き取り、再調教。現在計24頭が乗馬やホースセラピー(障害者の心身のリハビリ)で活躍している。土谷理事長は「馬にも心がある。(競馬など)人間のために生まれたんだから、人間が恩返ししないと…。心を込めて最後まで飼いたい。(来世で)馬に生まれたくないと思ってほしくない」と語っている。

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つばさ乗馬苑の土谷麻紀理事長

一般財団法人「TAW」

 競走馬の育成ゲームやアニメ「ウマ娘」人気などで競馬ファンの裾野が広がり、引退馬支援の機運も高まる中、政府は一昨年11月の第210回国会で競馬法を改正。その付帯事項として引退した競走馬への支援の必要性を初めて明文化した。この流れを受け、2017年に検討委員会をつくり、引退馬の処遇改善などに取り組んできたJRAは競馬サークル内のコンセンサスも得たことで活動を本格化。今年4月に一般財団法人「TAW(サラブレッド・アフターケア&ウエルフェア)」を設立し、引退馬の再雇用、福祉充実に尽力している。

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  • 坂戸市 says:

    とても素敵な記事をありがとうございます。土屋まきさんが、これからもお元気で、ますますご活躍されますことを心から願っています。

    坂戸市 女性 70代以上
  • nori-ball says:

    素敵なイベント企画と記事を、ありがとうございます。

    つばさ乗馬苑さん・土谷コーチは、スペシャルオリンピックス埼玉の馬術を指導してくださり、知的障害のあるアスリート指導にも温かく熱心に取り組まれ、お世話になっております。

    馬と人のつながり、触れ合い、共生社会を築き、これからも皆で応援したいクラブです。

    シリーズ化し、継続的な記事掲載、イベント企画お願いします。

    nori-ball 女性 40代

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