寝る間もない過酷な多胎育児に支援を 愛知・三つ子暴行死裁判で浮き彫りになった課題とは
1日中誰かが泣いている状態
関係者によると、母親は愛知県豊田市にあるエレベーターのないマンションの4階で、夫と三つ子の5人で暮らしていた。1日24回、ミルクを三つ子に与え、1日中誰かが泣いている状態。睡眠時間の確保もままならなかった。
一審から裁判を見守ってきたNPO法人「ぎふ多胎ネット」(岐阜県多治見市)の糸井川誠子理事長(59)によると、公判では、自宅を訪れた豊田市の保健師に母親が、自宅で使えるサービスはないかと聞いたことが明らかになった。4階から階段を上り下りして外出する気にはならなかったとみられる。市は子どもを一時預けられることや、訪問看護を受けられると伝えたものの、訪問看護は離乳食の作り方を教えてもらえるだけと誤解し、利用しなかったという。
双子の母親「睡眠1時間のことも」
多胎児の育児は想像を絶する、と証言するのは、関東を中心に多胎育児家庭の支援を行うグループ「ツインズエイド」代表の稲垣智衣(ともい)さん(40)。3歳7カ月になる男の双子を育てている。
「低体重で生まれた子どもが新生児集中治療室(NICU)から退院してくると、2人分の授乳や入浴などに24時間追われた。睡眠時間が1時間程度になることもあり、疲れてとても外出する気にならなかった」
虐待死の割合は2.5倍~4倍にも
不幸な結果を生むケースも少なくない。一般社団法人「日本多胎支援協会」が2018年に公表した報告書は、03~16年に多胎育児家庭で虐待死が起きた割合は、年によってそれ以外の家庭の2.5~4倍と指摘している。
こうした状況でも、多胎育児家庭の支援は満足には行われていない。ホームヘルパーを派遣したり、タクシー券を支給したりする自治体はあるものの、わずか。大半の自治体は保健師らの派遣など、子どもの数にかかわらず、同じ支援策をしている程度という。
国が初めて支援策の予算を要求
多胎児に特化した国の施策もなく、厚生労働省は20年度予算の概算要求に初めて、他の妊娠・出産支援策と合わせて261億円を盛り込んだ。多胎児を育てた経験者との交流会や相談支援、育児サポーターらを派遣する市町村への補助金制度を新設する方針。
自らも三つ子を育てた糸井川さんは「自治体の支援に大きなばらつきがある。多胎児向けの支援があるところで産めば救われ、ないところであれば追い詰められる。産んだ場所で幸、不幸が決まるのが現状」と断じる。
糸井川さんによれば、多胎児の育児がどういったものか知らない人がほとんど。十分な知識がなく、不安を抱えたまま出産し、その後も孤立して追い詰められる。そうした家庭をなくそうと、ぎふ多胎ネットは岐阜県の委託事業で母親らを支援するピアサポーターを育成し、各家庭に派遣している。糸井川さんは「そういった支援が各地に広がっていけば」と強調した。
【東京すくすくラジオ】(2019年12月24日 追記)
多胎児家庭の現状や必要な支援を考えようと、支援団体「ツインズエイド」の稲垣智衣さんにインタビューしました。記事へのコメント欄に寄せられた声も紹介しています。
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