寝る間もない過酷な多胎育児に支援を 愛知・三つ子暴行死裁判で浮き彫りになった課題とは 

稲垣太郎 (2019年9月26日付 東京新聞朝刊)
 1歳足らずの子どもが次々に泣きだし、寝る間もほとんどない-。こんな状況から重度の産後うつになり、昨年1月に生後11カ月の3つ子の次男を床にたたきつけて死亡させたとして傷害致死罪に問われた母親(31)の裁判で、名古屋高裁は懲役3年6月の一審判決を支持し、母親側の控訴を棄却した。裁判で浮き彫りになったのは多胎育児の過酷さと、不十分な支援体制だった。
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三つ子にミルクを飲ませる母親。2人はほ乳瓶をタオルで支え、1人で飲めるよう工夫した(本文とは関係ありません)

1日中誰かが泣いている状態

 関係者によると、母親は愛知県豊田市にあるエレベーターのないマンションの4階で、夫と三つ子の5人で暮らしていた。1日24回、ミルクを三つ子に与え、1日中誰かが泣いている状態。睡眠時間の確保もままならなかった。

 一審から裁判を見守ってきたNPO法人「ぎふ多胎ネット」(岐阜県多治見市)の糸井川誠子理事長(59)によると、公判では、自宅を訪れた豊田市の保健師に母親が、自宅で使えるサービスはないかと聞いたことが明らかになった。4階から階段を上り下りして外出する気にはならなかったとみられる。市は子どもを一時預けられることや、訪問看護を受けられると伝えたものの、訪問看護は離乳食の作り方を教えてもらえるだけと誤解し、利用しなかったという。

双子の母親「睡眠1時間のことも」

 多胎児の育児は想像を絶する、と証言するのは、関東を中心に多胎育児家庭の支援を行うグループ「ツインズエイド」代表の稲垣智衣(ともい)さん(40)。3歳7カ月になる男の双子を育てている。

 「低体重で生まれた子どもが新生児集中治療室(NICU)から退院してくると、2人分の授乳や入浴などに24時間追われた。睡眠時間が1時間程度になることもあり、疲れてとても外出する気にならなかった」

虐待死の割合は2.5倍~4倍にも

 不幸な結果を生むケースも少なくない。一般社団法人「日本多胎支援協会」が2018年に公表した報告書は、03~16年に多胎育児家庭で虐待死が起きた割合は、年によってそれ以外の家庭の2.5~4倍と指摘している。

 こうした状況でも、多胎育児家庭の支援は満足には行われていない。ホームヘルパーを派遣したり、タクシー券を支給したりする自治体はあるものの、わずか。大半の自治体は保健師らの派遣など、子どもの数にかかわらず、同じ支援策をしている程度という。

国が初めて支援策の予算を要求

 多胎児に特化した国の施策もなく、厚生労働省は20年度予算の概算要求に初めて、他の妊娠・出産支援策と合わせて261億円を盛り込んだ。多胎児を育てた経験者との交流会や相談支援、育児サポーターらを派遣する市町村への補助金制度を新設する方針。

 自らも三つ子を育てた糸井川さんは「自治体の支援に大きなばらつきがある。多胎児向けの支援があるところで産めば救われ、ないところであれば追い詰められる。産んだ場所で幸、不幸が決まるのが現状」と断じる。

 糸井川さんによれば、多胎児の育児がどういったものか知らない人がほとんど。十分な知識がなく、不安を抱えたまま出産し、その後も孤立して追い詰められる。そうした家庭をなくそうと、ぎふ多胎ネットは岐阜県の委託事業で母親らを支援するピアサポーターを育成し、各家庭に派遣している。糸井川さんは「そういった支援が各地に広がっていけば」と強調した。


東京すくすくラジオ】(2019年12月24日 追記)
 多胎児家庭の現状や必要な支援を考えようと、支援団体「ツインズエイド」の稲垣智衣さんにインタビューしました。記事へのコメント欄に寄せられた声も紹介しています。


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  • 匿名 says:

    高齢出産で双子を出産しました。
    乳児の頃は夜泣きも無く、私も体力がある方なのでとても育てやすかったのですが、2歳を過ぎたあたりから互いのペースが違うことに神経を配らないといけなくなり、主人は全然子どもを見ているようで見ていないのでそちらにも目を配るためほとほと疲れ果て、定年まで勤めたいと思っていた仕事も辞めました。
    現在自宅で仕事をしていますが、コロナウイルスの影響により、家庭保育をしながらの仕事で気が狂いそうです。というか仕事になりません。
    そのため叱りつけることや無視をすることも増え、保育所の預かりが再開できる頃には子供たちの人格が変わってしまっているのではととても不安です。

      
  • 匿名 says:

    長男と双子の男児の父親です。
    悲しいニュースですが、双子でも過酷なのに三つ子は想像出来ません。
    子供ひとりであればまだ授乳とオムツの間に一定時間あくのですが、双子では作業時間が2倍かかるので、双子でも寝る間なかったです。長男の時は母方の実家で問題なくひと月お世話になりましたが、双子のときは、管理入院の時に長男4か月預けた疲れもあるのか、相当辛いらしく、ひと月待たずにいつ家に連れて行くのかという状態でした。長男は1歳くらいですぐに言葉を覚え始めましたが双子は3歳でもまだ単語でした。授乳期に本を読んであげる暇の有無で差が開くのではと思いました。
    双子が1歳すぎたあとはじめて首都圏から中部の親元へ車で移動しましたが、サービスエリアでの授乳ベッドが2台しかないため独占、授乳、オムツ替え含めて休憩1回に2時間要しました。
    苦労は他にもたくさんありますが、問題なのは、プライベートな時間が全くとれないことや、統制をとるのが困難で子供がやんちゃ過ぎるからか、家内もなかなかママ同士の交流がなかなかとれないことです。また夫婦正職員共働きでは男の育児参加が必須ですが、公務員(しかも子育て支援と無関係とはいえない)でもなかなか職場の理解を得るのが難しく女の子ひとりと同じように考えているのか、休日出勤の必要な部署に配置されたり、休日出勤が難しいことを伝えると「ファミサポ頼めないのか」、時には平気で転居を伴う転勤をほのめさかれ、無理だと答えると「奥さん何してるの」。子供が大きくなると楽だと言われがちですがとんでもない。自由なし、飲み会どころか友人とお茶する時間もなく、さらに育児支援制度利用で全く昇進できないし、育児参加している夫である私も孤独で精神おかしくなりそうです。

      
  • 匿名 says:

    私は東京都内で小児専門で訪問看護をしている者です。
    低出生体重児のお子さまは、NICUを退院される際、医師の指示書があれば訪問看護と言う形で育児支援を行うことができます。医師が指示書さえ書けばいいのです。
    こんな事例がおきてから学ぶような国ではいけません!
    厚生労働省が病院の医師に訪問看護での支援があるという事をもっと積極的に情報提供して下さい!!

      
  • 匿名 says:

    週5回でも泊まり込みに来てくれるホストマザーか、赤ちゃんを泊まりに出せるようにしないと、金銭支援やアドバイスだけでは無理だろう。うちは多胎児ではないが、核家族で初めての赤ちゃんは苛酷だった。慢性的睡眠不足、奴隷労働、家から出れない、時間はあっても何でも中断され、床拭き、危ないものの片付け、料理、授乳、食べこぼしやうんち汚れの洗濯と、家事の量は大人だけの家庭より膨大。やってもすぐ汚れるし、目を離すとすぐ危険な状況やイタズラでそもそも家事する時間などとれない。風呂や、トイレすら思う通りにできない。徒労感でいっぱいだった。
    夫が、定時で一旦帰宅し、家事育児をして、また会社に戻ることで乗り切った。
    そういう夫でない場合、父として育つまでには間に合わないので他人様の支援必要。家を綺麗に片付けることなどできないのでそういう点も気にしないよう宣伝が必要。

      
  • 匿名 says:

    双子ちゃんを産んだ人を羨ましいとしか思ってませんでした。そんなに大変とは。そして、父親の存在が希薄なこともショックでした。

      

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