精神疾患の親がいる子どもをどう支えるか 埼玉県立大教授・横山恵子さんに聞く
自信がなく、劣等感を持ちやすい
-精神疾患の患者数は右肩上がりで、国の調査では400万人を超える。
その8割ほどが家族と同居し、家族が日常のケアを担っている。日本では「家庭内の問題は家庭で解決するものだ」という意識が根強い。ひきこもり状態の中高年の子を高齢の親が支える「8050(はちまるごーまる)問題」とも共通している。
一方で家族も困難を抱えているとして、家族への支援も注目されるようになってきた。ただ、各地にある家族会は患者の親が中心。七年前に初めて、患者の子どもたちの体験を聞き、大人になってからも生きづらさを抱えていることを知った。子どもを含め、家族全体を丸ごと支援する視点が大切だ。
-疾患のある親に育てられた子どもの特徴は。
介護者の役割を担うしっかり者として成長してきた半面、自信がないという傾向が見える。親の疾患の影響で養育が不十分だったり、「○○してはだめ」と親の規制が強かったり、普通とは違うという劣等感を持ちやすい。学校で悩みを話せず、つらい思いを封印してきたので自分の感情が分からない人も。誰からも助けてもらえず、信頼できる大人と出会っていないため、成人後も周囲に相談できない。
「家族は家族。支援者にはなれない」
-それで集う場が必要だと感じるように。
2015年から患者を親にもつ人向けの学習会を開き、参加メンバーの一部で18年にこどもぴあを立ち上げた。同じ体験を持つ仲間だと安心して話せる。話すうちに「こんな親はいなくなればいい」という思いが「自分を愛してくれていた」と見方が変わったり、つらい原因は親の病気ではなく、社会からの孤立だったと気づいたりする。
参加者の中には、親を助けたいと看護師などの専門職に就く人も多い。でも、その一人が「家族は家族。支援者にはなれない」と語ったのが印象的だった。専門的で冷静な介護に努めるほど本来の親子の関係ではなくなり、家族だけで頑張るほど外の世界とのつながりがなくなってしまう。
-孤立する背景には精神疾患への偏見もある。
患者による悲惨な事件が起きると凶悪というイメージが持たれやすい。そうした社会の偏見はもちろんあるが、それを患者本人や家族が自分の中に受け入れてしまう「セルフスティグマ(内なる偏見)」の影響が実は強い。そのために他者への相談や受診が遅れて、回復への一歩を踏み出す障壁になっている。「家族は家族。支援者にはなれない」との言葉は、支援者は家族に負担を押し付けず、家族は支援者を頼ってほしいというメッセージでもある。
横山恵子(よこやま・けいこ)
群馬県出身。埼玉県立精神医療センターなどの看護師を経て、2011年から県立大保健医療福祉学部教授。近著に、精神疾患の親がいる子どもの体験などをまとめた「静かなる変革者たち」(ペンコム)。こどもぴあは東京、大阪、札幌、福岡で活動。詳細はホームページで確認できる。
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