NPO法人「陽和」理事長 渋谷幸靖さん 原点は何度も裏切った自分を見捨てず待ってくれた母

佐橋大 (2024年8月18日付 東京新聞朝刊)
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母親について話すNPO法人「陽和」の渋谷幸靖理事長(潟沼義樹撮影)

カット・家族のこと話そう

ひとり親 母の帰宅は夜8、9時

 発達障害や非行、引きこもりなど、困難を抱えた若者を支援するNPOの理事長をしています。僕の活動の原点は母親、お母さんです。

 幼稚園にいた頃、両親は離婚しました。母は美容院などを経営し、一人っ子の僕を育ててくれました。仕事が忙しく、帰りも夜8時、9時は当たり前でした。

 寂しいとは感じませんでしたが、寂しかったのかもしれません。僕は中学で非行に走りました。小学5年で不登校に。学校には戻ったけれど、授業についていけず、つまらない。元気な子たちと仲良くなって、たばこを吸ったり、無免許でバイクに乗ったり。勉強では褒められない自分が、「すごい」と言われる。 

2度の逮捕で犯罪の道から抜け

 居心地が良くなり、行動はエスカレート。高校2年の時におやじ狩りで、24歳でも詐欺事件で逮捕。そのたびに留置場や刑務所に母が面会に来ました。怒るでもなく、悲しそうな顔で。2度目の逮捕の後、面会室で、母の表情を見て考えました。「格好よさを求めていたのに、親孝行の一つもできない格好悪い大人になってしまった。これ以上、母を悲しませてはいけない」

 その後、犯罪の道から抜け、非行の少年らを支援する別のNPOに、ボランティアスタッフとして関わるようになりました。支援の責任者として保護者と面談をするようになり、あることに気付きました。保護者は皆、泣いている。私の育て方が悪かったからこうなったんじゃないかと、自分を責めている。自分の母親は気の強い感じの人で、あまり表に出さなかったけれど、こんなにつらかったんだと思いました。

 その活動の前に「将来、NPO法人をつくりたい」と母に話したら、「また悪いことをするんじゃないのか」と疑われました。子どもに裏切られた親の心は、そんなに簡単には癒えないものです。そのことも、支援している子らに伝えています。「裏切ったことは一生かけて償わないといけない」と言っています。

失敗ですらほめ 無条件で肯定

 母はあまり褒(ほ)めてくれない人ですが、5年前、「傑出した若者」として日本青年会議所から表彰された際、その表彰式で最前列に立ち、うれしそうに僕をスマートフォンのカメラで撮っていました。その姿を見て、少しは親孝行できたかなと思いました。

 母は、何度も裏切った僕を、見捨てずに待っていてくれた。だからこそ、今の僕がある。今、関わっている子たちには、失敗ですら褒めるようにしています。無条件で肯定してくれる大人がいることで、徐々に気持ちがほぐれ、挑戦する勇気が持てるようになる。自分の経験を生かし、子どもたちが昔の自分と同じ道を歩まないよう、僕の母のようなつらい思いをする親が減るよう、寄り添って案内できたらなと強く思っています。

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