還暦で絵本作家デビュー みやもとかずあきさん 双子の子育てや仕事をしながら、45歳で学び直し スタートは何歳でも

海老名徳馬 (2025年6月20日付 東京新聞朝刊)
 和歌山県有田市でベビー・子供服店を営むみやもとかずあきさん(61)は、仕事や双子の子育てで多忙な日々を過ごしながら、絵本作家を目指してコンテストに挑戦してきました。45歳で「本腰を入れなければ後悔する」と絵を学び直し、2023年講談社絵本新人賞を受賞。60歳でデビュー作「あおくんふくちゃん」を出版しました。 
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節分に鬼と福の神が役割を交代するストーリーのデビュー作「あおくんふくちゃん」を手にするみやもとかずあきさん=和歌山県有田市で

「あと何年生きられるか」

 絵が好きで、いつも蒸気機関車や車の絵を描いている子どもでした。高校で美術部に入りましたが、絵で食べるのは簡単ではない。23歳の時に父や伯父の提案でベビー・子供服の店を開きました。

 絵本作家を志したのは29歳。スキー場に向かう車から雪景色を眺めていたら、子どもができない夫婦が病気のサンタクロースの代わりにプレゼントを配ったらギフトとして子どもを授かる、という話が浮かんできた。絵をつけて出版社に持ち込みました。相手にされなかったけれど、ストーリーを書きためるようになりました。

 33歳で双子が生まれて、育児は忙しかった。絵本を読み聞かせるのは僕の担当で、制作意欲は持っていました。書きためた物語を応募して月刊誌に2回掲載されたこともあり、自信になりました。ただ絵本のコンテストは落選続き。ストーリーはいい。僕の絵に力がないんだ、と思いました。

 若いときはいつまでも時間があるように感じていましたが、45歳の時に、急に「あと何年生きられるか」と意識しました。初めて真剣に考えて、本当に好きなこと、やりたいことをやらないと一生後悔する、と。優先順位を考えて、趣味の登山やゴルフはやめても後悔しない。でも絵は違う。何が何でもやらなければいけない。そこから本腰を入れて、130万円かかる通信教育で学び、神戸の塾にも通った。絵本作家を目指す仲間もできて刺激を受けました。

物語を世界に届けたい

 学び直して、絵の構図や絵本の構成が大きく変わった。気持ちも45歳までと全く違います。スケッチなら昔は30分で集中が切れていましたが、今は3時間頑張れる。絵が体の一部になっているような感じ。店番をしていても、お客がいないといつも描いています。

 次第にコンテストで入選するようになり、日本で一番難しいと思っていた講談社絵本新人賞を受賞。言葉にできないほどうれしくて、ビールを浴びるほど飲みました。もっとうれしかったのは読んだ方から手紙が来たときです。

 焦った時期もありましたが、絵本作家になるのは何歳でもかまへんと思っていた。若い頃楽しんだゴルフも焦ったらだめ。余裕はないけど、なるべく余裕を持って、焦らず力まずいこうと。苦しいときもありますが、苦しさは読者に伝わる。好きな絵を楽しく描こうとしてきたのが良かった。

 デビューする前から、物語を世界に届けたいと思っていました。知らない国から絵本の感想の手紙が届く。それが今の夢です。届いても何が書いてあるか読めないでしょうけどね。

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