東京都の小学校教員、受験倍率が過去最低の1.1倍に 休めない環境を敬遠か 残業は月平均123時間…現役教員も57%が「勧めない」

三宅千智 (2023年11月2日付 東京新聞朝刊)

東京都教育委員会が10月15日に開いた教員志望者向けのセミナー=渋谷区で

 東京都教育委員会が2023年度に実施した教員採用試験で、小学校の受験倍率が定員割れ寸前の1.1倍だった。小中高と特別支援学校などを合わせた全体も1.6倍で、いずれも過去最低を更新。首都圏の他県と比べても低さが目立つ。都教委は教員の魅力を伝えるセミナー開催などで受験者確保を図るが、教育現場からは「ゆとりのない学校の現状を変えて」との声も上がる。

グラフ 東京都の教員採用試験の受験倍率と合格者数

10年で受験者半減 際立つ低倍率

 10月15日、渋谷区で開かれた教員志望者向けのセミナー。若手教員との座談会や個別相談、給与・休暇など福利厚生制度の紹介ブースなどを設け、高校生や大学生、社会人ら約900人が参加した。

 高校教諭を目指す私立大3年の女子学生(21)は「現役教員の話を聞いてやる気が高まった」と満足そう。小学校の教諭を志望する私立大3年の男子学生(20)は「選考のことも含めて、具体的な未来の設計図を描けた」。一方で「X(旧ツイッター)では『休めない』『自分の時間を全然取れない』などネガティブな情報も多くて、目指すべきか不安もある」と明かした。

 昨年に続き2回目の開催。都教委がこうしたセミナーを開く背景には、採用試験の受験者が激減していることへの危機感がある。2013年度に全体で1万6284人だった受験者数は、2023年度に7948人と半減。小学校教員の受験倍率は1.1倍に落ち込んだ。首都圏の他県の小学校受験倍率は1.5~3.4倍で、都の低さが目立つ。

表 首都圏の教員採用試験倍率

合格者と採用数は増えているが…

 減少の背景について現場からは、長時間労働にもかかわらず残業代が出ないなど、厳しい労働環境への懸念が指摘される。連合総合生活開発研究所が昨年、教員約1万人を対象にした実態調査によると、残業時間は月平均123時間16分で、国が示す過労死ライン(月80時間)を大きく超えた。「教員の仕事を勧めるか」の問いには「勧めない」が57.6%で「勧める」の41.8%を上回った。

 一方、2013年度試験の都の合格者は約2600人だったのに対し、2023年度は約4900人と倍近くに増えた。都教育庁の担当者は「35人学級の導入などで採用数自体も多くなっている。倍率だけをみると教職人気が下がっているように思われるが、必ずしもそうではない」と強調。他県との差については「教職員の増減や少子化の状況など、都や他県では事情が異なる。他県との比較、分析はしない」とする。

 受験者減少に歯止めをかけようと、都教委は教員経験者が10年以内に復帰する際に1次選考を免除する「カムバック採用」を2023年度に新設。担当者は「多様な人材が教員を目指せる取り組みを進めたい」としている。

教室のイメージ写真

教育実習で「この現場は無理」とあきらめる学生も

 「最近は、教育実習に来て『この現場は自分には無理だ』とあきらめてしまう学生も多い」。東京都公立学校教職員組合(東京教組)書記長で、都立小教諭の武捨(むしゃ)健一郎さん(49)が指摘する。「楽しい行事などを思い描いていても、多忙な現実を見て、イメージとかけ離れていると感じてしまうのでは」

 武捨さんによると、小学校で担任になると週に24~26コマの授業を担当することが多く、日中の空き時間はほとんどない。テストの採点、集金の回収、教室の床のワックスがけ、通知表の所見など膨大な業務をこなすため、早朝に出勤したり、仕事が深夜や休日に及んだりすることもある。

 武捨さんは「志望者を増やすには、授業づくりなど本来の業務に教員が専念できるよう、ゆとりのある学校にしていくことが必要だ」と語った。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2023年11月2日

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  • 元教員 says:

    職場環境としての学校の悪化について、先の投稿に加筆しておく。

    思うに、各自治体が少子化の進行を良いことに(?)人件費を削っているのも大きな理由ではないだろうか。前の投稿で「名無し」氏も不思議がっているが(いや、理由は良くご存じなのだろう)、正規の条件で講師を採用すると、金銭的負担は倍近くになるからだ(自治体で異なるが)。

    現場で働いていた身としては、絶対に正規の教員が増えた方が有難い。講師は殆どのケースで1年契約で、人が変わるから同じ連絡を繰り返さなければならない。中には正規採用よりも遥かに教員としての資質が優れている人も少なくないのに勿体ない話だ。

    恐らく予算配分について、このような面から議会で質問できる議員はいないのだろうな。「教育は票にならんのですよ、学校の先生には申し訳ないですが」by議員 (T_T)

    元教員 男性 50代
  • 匿名 says:

    実力ある臨時講師
    育児世代のサポートをする臨時講師
    正規より働いてる臨時講師がなかなか合格しないのはなぜ

  • みわ says:

    もっと、よいところをたくさん知ってほしいとおもいます。

    福利厚生…もし病気になっても簡単にはやめさせられません。給料に退職金…もちろん大企業とは比べものにはなりませんが、安定はしています。長く働ける…追い出されたり肩叩きは通常ありません。

    もちろん一生懸命に次々働いても、ここで完璧とか満足というラインは永久にありませんが、長く勤務しているからこそ、気付ける良さも多くあります。

    出会い…多くの人と出会う事で、こんなすばらしい人がいて、こんな考え方があるんだと思える事がたくさんあります。生徒や保護者から学ぶことも多いです。もちろん、反対に上司や同僚からのパワハラやモラハラもありますが、比較的簡単に数年で解決できます。(転勤すればよい)

    数週間の教育実習では本当のよさも厳しさも、十分にはわかりません。どんな仕事も大変な事はあると思います。

    みわ 無回答 無回答
  • 元教員 says:

    迂遠であると言われるかもしれないが、急がば回れ。学校とその周辺の構造を変えることだ。

    1.文科省職員や官僚に現場視察を義務化する。できれば1ヶ月で良いので教育困難校で教育実習を受けてもらう。文科省は現場を見たくない。惨状を目にしたくないのであるが、それでは改善も何も進まないから。

    2.学校管理職は現場の様子を正直に教育委員会に伝えること。書類の提出時には、本来とは逆に各分掌長のチェックを校長が受ける。現場の真実が捻じ曲げられて伝えられているから、教育長や文科相が勘違いし、おかしな政策が下りてくる。

    3.「#教師のバトン」の地方版を各教育委員会に設置する。各自治体は教育委員会の正直な報告を受け、予算審議を行い、執行する。万難を排し、教員の職場環境を改善しなければ(教員の)なり手が増える道理がない。

    学校とその関連組織は、情報等の「フィードバック」がほとんどこれまで無かった(許されなかった?)怖ろしくも呆れた系を為していた。「不確実性の時代」(死語か?)などと言われて久しいが、偉い人(組織)も間違えることがある。それを我々下々の者共が監視して、正していくしかあるまい。

    元教員 男性 50代

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