学校の性教育、このままじゃいけない 養護教諭ら「フェムテック」グッズを全国中・高に無償貸与 保健室で伝える機会を

太田理英子 (2025年10月6日付 東京新聞朝刊)
 子どもたちが性に関する必要な知識を持てるよう、養護教諭らのグループが各地の中学や高校の保健室に、女性の性や健康の悩みを技術で解決する「フェムテック」のグッズを届けている。活動を追うと、授業では性教育が十分にできない現状への危機感が浮かんだ。
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「保健室BOX」に収めるフェムテック、メンテックのグッズを並べるメンバーら=埼玉県坂戸市の女子栄養大で

男性向け「メンテック」グッズも

 グループが拠点にする女子栄養大(埼玉県坂戸市)の一室に並ぶのは、蒸れを軽減し、繰り返し使える吸水ショーツや月経カップなどの生理用品、デリケートゾーンをケアする保湿オイル、出産や加齢でゆるみやすい骨盤底筋を鍛える器具といったフェムテックグッズ。一部、男性向けの「メンテック」グッズも。専用ルーペを使い、自身の精液から精子の数や動きを観察できる簡易キットは「妊活」などで使われるという。

 同大教員と卒業生の養護教諭ら7人は2年前から、これらのグッズを収めた「保健室BOX」を全国の中高の保健室などに無償で貸し出し、期間限定で展示してもらう活動に取り組む。性や体の悩みを抱える子どもが保健室を訪れた際、グッズを生かし、養護教諭らに必要で正しい知識、情報を伝えてもらう狙いだ。

 発案者で同大保健センターの石原理所長は「子どもが体の変化とそれに伴う課題、生涯を通じたセクシュアルヘルスについて多様な知識を学び、自ら判断する力をつけてもらうことが重要」と強調する。「だが、現状の教育制度ではそれが十分にできていない」

 障壁となっているのが、学習指導要領。小中学校で妊娠の過程を扱えないと解釈されうる「はどめ規定」があるためだ。文部科学省は「必要に応じ個別に教えることはできる」との見解だが、「教育現場を萎縮させ、性教育の内容を狭める」との批判は根強い。

 活動ではこれまで全国約20カ所にBOXを貸与。東京都内の私立高校では、女子生徒から「生理の乗り越え方の視野が広がった」、定時制高校では男子生徒から「女性の健康を整えることは間接的に男性にも意味がある」などと感想が届いた。関心を寄せる保護者もいた。

保護者から性教育を求める声も

 メンバーで公立高校養護教諭の出水香織さんは「管理職が苦情を恐れたり、『寝た子を起こすな』と性教育に否定的だったりすることは今も多い。一方で保護者は年代も変わり、学校での性教育を求める傾向が表れ始めている」と話す。子どもの性に関する情報源は親や友人、インターネットに限られ、「学校で知識を読み取る力を身につけることが必要」と実感する。

 メンバーは現在二つあるBOXを増やして展示の機会を広げるため、クラウドファンディングで寄付を募る。石原氏は「草の根で少しずつ性教育を巡る状況を変えていきたい」と語る。

 埼玉大の田代美江子教授(ジェンダー教育学)によると、日本の性教育は戦後に「純潔教育」として始まった。行政は性教育との言葉は避け、推進に消極的な姿勢をとり続けてきたとし、「『過激な性教育』などに反対する自民党の影響が大きい」とみる。エイズ問題などを受けて1990年代に推進の機運は高まったが、2000年代に一部保守派による性教育バッシングが吹き荒れた。18年にも、東京都足立区の中学校で避妊や中絶を教えたことが都議会で問題視された。

 現在、約10年に1度の学習指導要領改定作業が進む。スポーツ庁の担当者は、性に関するはどめ規定の見直しは「現時点で話せることはない」という。

 田代氏は、性や生殖の知識に加え、人間関係やジェンダー平等、性の多様性も学ぶ「包括的性教育」を盛り込む必要性を説く。「性は人権、権利に関わる事柄として学ぶことが重要。その上で、子どもが自ら考えて行動を選択し、安全安心を守る力を育むべきだ」

元記事:東京新聞デジタル 2025年10月6日

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