特別支援学校の生徒に「1時間だけ」の職業体験 障害や病気で体調に波があっても大丈夫 人材サービス会社が企画

中沢佳子 (2025年12月1日付 東京新聞朝刊)
 障害や病気があり特別支援学校に通う生徒の中には、体調に波があり、中長期の職場実習に参加できず、働くことに不安を抱く人もいる。そんな状況を変えようと、東京都内の企業が約1時間の職業体験を企画した。短い間でも、人と接し、働く経験を積み、自分に合う働き方や職場を考えてほしいという。
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レバレジーズ内のカフェで、社員たち(右側)から注文を取る生徒(左)。別の社員(左から2人目)が教えている=東京都渋谷区で

社員の助言を受けながら接客や検品

 「いらっしゃいませ。何にしますか?」「カフェラテを一つお願いします」。都内のオフィスにあるカフェで客を迎える店員は、特別支援学校の都立志村学園高等部就業技術科(東京都板橋区)の生徒たち。1時間ほどの体験で、次々と注文を聞き、ドリンクを作って渡した。

 職業体験は、人材サービス会社「レバレジーズ」(東京都渋谷区)が初めて企画し、同校2、3年生7人が参加。同社内にあるカフェの業務と、社員に配る物品の検品業務に分かれて体験した。最後にワークシートで自分の仕事を振り返り、社員の助言を受けた。

 接客業を希望する3年の男子生徒(17)は、2年の時に続きカフェ業務に挑戦。「今回は落ち着いて自分から動けた。メニューを聞く時は緊張したけれど、社員が優しく教えてくれた。人と関わって幸せにする仕事をしたい。接客業は自分に合っていると感じた」と笑う。

長期の実習では働く自信を失いがち

 検品作業をした2年の女子生徒(17)は細かい作業が好きで、事務職を目指す。人に聞くのが苦手で、分からないことでも自分でやろうとする傾向があるというが「自分から質問したり、段ボールを運ぶのが大変そうな社員に手伝いを申し出たりすることができた」と手応えを語った。

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ドリンクの作り方を教わる生徒たち

 同社や同校によると、特別支援学校の生徒は、数日から数週間の職場実習を経て、職場環境や仕事内容を見極めて就職先を決めるのが一般的。企業は安定して長く働けるかを見るため、実習を1~2週間の中長期で設定することが多い。

 同社の担当者の津留有希子さんは志村学園高等部の卒業生を雇用したのを機に、職場実習の課題を知り、短時間の実習を企画。「実習期間が長いと、体調の波や緊張感で不登校になる生徒は参加しにくく、働く自信やキャリアを考える機会が乏しくなる」と話す。

正社員が少ない、給与水準など課題

 同校で進路指導を担当する道向(みちむこう)一樹教諭は「短期の実習が広がれば、すぐ就職につながらなくても、経験と自信になる」と期待する。ただ、多くの就職者を送り出した道向教諭は、障害者雇用の現状にはまだ課題があると訴える。「給与は最低賃金水準が多い。正社員での雇用も2~3割ほど。改善すべきことは多い」

 文部科学省によると、近年、特別支援学校(高等部)の卒業生の非正規雇用を含めた就職率はほぼ20~30%台で推移し、2023年度は29.3%。一方、厚生労働省の推計では、5人以上の職場で働く障害者は23年6月時点で110万7000人。前回2018年調査より25万6000人増えている。卒業後すぐに就職しなくても、就労支援を受け自分に合う仕事に就くケースもある。

 ただ、正規雇用は多くない。総務省の2023年調査で、役員を除く労働者に占める正規雇用の人の割合は63.0%。一方、厚労省が障害種別に調べた割合では身体59.3%、知的20.2%、精神32.7%、発達36.6%にとどまり、働く場を広げていくことが必要だ。

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