リスキリング休暇制度はなぜ広がらないか 無給を避けられる国の給付金、活用は今ひとつ 学び直しを評価する仕組みを

古根村進然 (2026年2月12日付 東京新聞朝刊)
 社員が語学留学などで仕事に必要なスキルを身に付ける「リスキリング」(学び直し)に活用できる休暇制度を設ける企業が出てきた。一定の条件を満たせば、賃金の一部を受け取れる国の「教育訓練休暇給付金」制度も昨年10月に開始。無給の状態を避けられ、利用促進につながりそうだ。ただ、休暇制度を持つ企業はまだ少なく、学び直し後に人事評価する仕組みがないといった課題もある。
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語学学校で、学校関係者と会話する河野寛太さん(右)=カナダ東部のトロントで(本人提供)

新しいことに挑戦したい

 「将来は現地の建物への理解を深めつつ(仕事に)取り組みたい」。カナダ東部のトロントに語学留学中の積水ハウス技術コスト管理部の河野寛太さん(27)は前向きだ。

 入社5年目。私費就学などを支援する同社の「キャリア自律休業制度」を利用して休み、昨年6月に妻とカナダへ渡った。休業中は給与や賞与がないが、新しいことに挑戦したかった。9カ月間、語学学校に通い、留学生とともに学ぶ。「メキシコや韓国などさまざまな国の文化や価値観に触れ、視野が広がった」。積水ハウスは米国での一戸建て住宅事業も展開しており、将来の海外勤務も考えるようになったという。

 積水ハウスは、社員が主体的に自らのキャリアを考えられるよう勤続3年以上の社員らを対象にした同制度を2023年8月に設けた。海外留学では最長2年、国内では最長1年、休業できる。期間などに応じ20万~100万円の支援金も支給。これまでにグループ全体で9人が利用し、不動産分野のコンプライアンス(法令順守)やマーケティング分析のスキル習得にもつながったという。

 国の給付金制度の開始を受け「経済的な不安を軽減しながら学びに専念できる環境が整うことで、社員の自発的な学び直しを促進する大きな後押しになる」と積水ハウスの担当者。休業制度の利用者が増えると期待しており「業務の引き継ぎなどが課題となるケースもあると思うので、支援策を検討したい」と語った。

実践する人は3割程度

 JR東日本は2022年4月、社員が無給で最長2年間休める「キャリアデザイン休職」を設けた。大学院への就学や海外留学といった目的で延べ約200人が利用。活用する社員は増える傾向だ。国の給付金制度について、担当者は「多様なキャリア形成のサポートにつながりうる」と話す。

 ただ、学び直しのハードルはまだ高い。第一生命経済研究所(東京)が昨年3月に全国の18~69歳の男女1万人を対象にした調査で、「学び直しは必要だ」と考える人は「あてはまる」「どちらかといえばあてはまる」を合わせて80.6%に上った。一方で、実際に「学び直しをしたことがある」人は「あてはまる」「どちらかといえばあてはまる」を合わせて33.6%にとどまった。

 西野偉彦(たけひこ)主任研究員は「仕事や育児などで時間を確保するのが難しく、費用も負担になる。学び直し後に昇進や昇給をしたり、希望の部署や職種に異動したりする人が多くないのも一因」と分析する。

 その上で「企業は人材育成を通じて生産性を高めるためにどんなスキルが必要か、学び直しの方向性を経営戦略として示し、人事評価する仕組みを整えることが必要」と主張。学び直しに生かす休暇制度のある企業もまだ少ないとし「企業が積極的に制度化し、国の給付金制度を活用するなどして従業員の中長期的なキャリア形成を促進してほしい」と呼びかける。

 教育訓練休暇給付金とは

労働者が離職せず教育訓練に専念できるよう、訓練・休暇中の生活費を保障する雇用保険の制度。連続30日以上の無給休暇を取得した場合に賃金の約5~8割を受け取れる。休暇開始前に雇用保険に5年以上加入した期間があるなどの条件を満たした正社員やパートタイム労働者らが対象だが、事業主の就業規則などに基づいた休暇制度がないと支給されない。

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机の間に仕切りがあり、集中して勉強できる「おとな自習室」=名古屋市中区で

広がる自主学習 駅近立地で個別ブースも 

 社会人らが自主的に学べる場も各地に広がっており、会員制の「おとな自習室」もその一つ。2012年から運営する「おおうら」(大阪市)によると、学び直しや転職の浸透などを背景に広がり、2026年1月時点で東京や愛知、大阪などで計41店舗を構える。

 いずれも鉄道駅近くにあるのが特徴。女性専用席や監視カメラなどを備え、主に午前7時~午後11時に利用できる。1万3000人以上いる会員の約6割が社会人。名古屋市内の税理士法人で働く男性(44)は税理士資格の取得を目指し、同市内の自習室に頻繁に通う。「机がブースごとに置かれており、集中できる環境が良い。勉強は実務に直結するので、知識を深めるのが楽しい。できるだけ早く目標を達成したい」と話す。

 利用料金は場所やプランで異なるが、名古屋市中区の「自習室さかえ」の場合は月額1万2320円。東京都渋谷区の「自習室しんじゅく」では1万4300円。

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